桜森と冬の終わり 第1週   背景  主街道は起伏が小さく、歩きやすい。商業都市ナゴールに続くメインロードは何本もあって、大陸中からさまざまな商品がこの街へと流れ込む。食料や酒、装備品などを持ち込む商人に混じって。黙り込み、汗をかきながら荷車を引く者。仲間と話しながら、ペースを保って進む者。牛に荷を引かせ、ゆっくりと道を行く者。さまざまな商人たちに混じって、冒険者が歩いていた。その商品は、自分自身だ。  人間に似た姿の使いの者が、商業都市ナゴールにある「赤髪の乙女」大通りの〈剣竜亭〉へとやってきた。清潔で気分のいいこの宿屋で、明らかに彼は助けを求めていた。おどおどした態度でキョロキョロと周囲を見渡し、緊張してため息をつきながら、話しかけやすそうな人を目で探していた。   プロローグ  春の息吹を目前にしたこの森の鼓動に、君は気づいていた。葉の1枚も残していない森の木々のなかを歩きながら……だが、その枝先はわずかに膨らむ。春を目の前にした桜の木々は、花を咲かせる準備を進めているのだ。一歩ずつ。風も空気も冷えきっている。けれど、日差しはもう暖かい。冷たい風の向こうから降り注いでくる透明な光。冬の気配を遠ざけていく力は、森のすべてを──心と身体を暖めはじめている。 「桜森のあるじに、会っていただきたいのです」  人間に似た使いの者はそう言って、君に助けを求めた。ナゴールの西側にある桜森に〈魔犬獣〉たちが流れ込んできた。彼らは火を用いて、森を焼こうとしている。彼らは〈オーク〉や〈ゴブリン〉といった、他の【悪の種族】たちを引き連れているという。ナゴールの4人の統治者はこの【悪の種族】たちを、放ってはおかないだろう。だが、彼らが兵士を用意するには時間がかかる。街そのものを守ることはできても、森には多くの被害が出るだろう。森と、そこに暮らす者たち。彼らが危険に晒されるのは明白だ。  視界が広がる。広場へとたどり着いた君を迎えてくれたのは、背の高いまっすぐな1本の樹だ。冬の終わりきらぬうちに、ひと足先にと咲き誇るひときわ美しい薄紅色の桜。ゆらゆらと揺れるその花から、届くはずもないかすかな香りが漂う──忘れていたあの日を──名前のついていない遠い日の思い出に{ルビ:ふ}触れるような、そんな香りが。  桜の脇に立つ女性に、やっと気づく。{ルビ:りん}凛{/ルビ}とした立ち姿。ベテランの執事が着るようなスーツに身を包んだ、色の白い女性である。大きな瞳が印象的だ……髪の部分には青い花が咲いている。おそらくは人間ではない……かすかに緑がかった肌は、彼女がトレント(動く植物)の一種であることを想像させる。深々と頭を下げて彼女は、「よく来てくださいました」と言う。風の音のなか、どうしてかその小さな声ははっきりと耳に届く。 「桜の王キルシュバウム様に代わり、お礼を申し上げます。王はトレントとしての生を半ば終えて、あまりお話しになれないので……。」  王と呼ばれるその樹は、今までに見たどの桜よりも立派な枝と花をつけている。 「私たちは貨幣を持ちませんが、お礼を用意しております。大きなマルハナバチたちが集めた、特別な蜂蜜を。きっと、ご満足いただけると思います」  キルシュバウムの従者ブルーメはそう言って、壺に入った黄金色の蜜を取り出してみせる。桜森の花々から集められた蜜はドロリとして、純度の高いものだ……金貨50枚の価値はあるだろう。  桜森のトレントたちの依頼を承諾する。【悪の種族】たちはもちろん、桜森の住人たちに歓迎されているとは限らない。慎重にこの桜森を冒険しなければ。 (中略)   出目表 出目11 〈アラネアのスカーフ〉(by ghostwriter) 出目22 〈日向の猫人〉(by寝子) 出目23 〈モグラの紳士〉(byひげくまごろう) 出目31 〈白銀枝の若木〉(by蒙太辺土) 出目33〈桜の木の根元に埋まっている死体〉(byザスカル) 出目36〈白拍子の舞〉(by ghostwriter) (ghostwriterさん) 出目11『アラネアのスカーフ』 【器用ロール】(難易度:4)をして成功すると以下のイベントが起こる。失敗したらここには何もない。 森を進んでいると、木のひとつに織物が引っ掛かっている。君は木の傍に行ってその織物を見てみる。アラネアの絹糸で出来た見事なスカーフだ。どうやら近くのアラネアの集落から風に乗って飛んできたようだ。 君はこのスカーフを持っていっても良い。その場合、冒険の合間に金貨10枚でアラネアのスカーフを売れる。 近くの集落に行ってスカーフを返すと、無口で陰気なアラネアは感謝する。君はアラネアに【歓待】され、以後、この冒険中にアラネアに出会うと、反応が【友好的】になる。 {/}君は、貴族がおしゃれのために身につける、見事なスカーフを身につけた。まるで貴族の一員になった気分になる。{/} 『白銀枝の若木』 少し開けた場所で珍しいものを発見する。 小剣一振程の丈の若木だが、その枝にはいくつもの白銀色の美しい筋が走っている。 たいていの者ならこう考えるだろう。 “何か価値のあるものなのではないか?” もし主人公たちがこれに近づくなら守護者が現れ一戦交えることとなる。能力@〜Cを参照のうえ、戦闘をを解決せよ。 あるいは若木に神秘を感じ、これを敬遠して立ち去ろうとするなら荒事は生じない。以下にある主人公の様子Aを参照すること。 [囁く葉擦れの者ども] woodwhisper 種別:弱いクリーチャー レベル: 1 出現数: 1d3+10 タグ:[植物] 反応表 : なし。若木に近づいた時点で常に敵対的。または以下にある主人公パーティーの様子@に従う。 主人公パーティーの様子@:斧を所持する者やフーウェイの収穫人がいる場合、および灯火など何らかの火を伴っている場合“全滅するまで戦う”となる。 主人公パーティーの様子A:斧所持者およびフーウェイの収穫人がおらず、※(〜)の条件を満たしているなら別のできごとが起こる。“小さな助力者”の項へ進むこと。 ※(〜)の条件: これについては他の方の投稿と連携できそうなら杉本先生の裁量でそうしていただけると嬉しいです〜。 宝物: 白銀枝の若木(金貨20枚相当) 能力@:群れたる小さき者 小型かつ飛び回るので攻撃判定−1および射撃判定−2のペナルティが課される。 一所に集まる性質があるため、主人公たちの攻撃判定がクリティカルの場合は追加ロールの出目によらず成功となる。つまり出目1のファンブルも成功。 ※クリティカルが出続ける限り、ばっさばっさと切り捨てる(あるいは打ち捨てる)ことが可能なので、追加ロールは忘れずに振るべきだろう。 能力A:葉擦れなす囁き 主人公たちの心を騒がせる葉擦れの音を立てる。 第1ラウンドより毎ラウンドの始め※に主人公パーティーは抵抗判定を行う。 この判定に有効な能力値は[技量点]、[魔術点]、[幸運点]の3種類。(魔術点ないし幸運点を用いた場合は判定後に1点消耗する) ※主人公たちの行動に先んじて判定を行うこと。 目標値: その時点における個体数の半分(端数切り上げ) 判定失敗: 攻撃判定の際のファンブル出目が1つ増えるペナルティを課せられる。 そしてこの効果は累積する。 例)出目1だけがファンブルのキャラクターの場合、出目2もファンブルとなる。 効果は累積するので、2の次は3、その次は4…というかたちでファンブル出目が増殖してゆく。 ※ただし出目6のクリティカル出目だけはファンブル出目にならないので、ファンブルの増殖は5までで打ち止め。 能力B: 主人公たちがこの戦闘で“炎”を用いた攻撃を行った場合、このクリーチャーは逆上して“死ぬまで戦う”ことになる。 もし[炎球]を用いた場合には、その爆炎は《白銀枝の若木》にも及ぶため、これを取得することはできなくなる。 能力C: もし主人公たちが逃走するなら、囁く葉擦れの者どもはそのまま見送るので防御判定を行う必要はない。 (とんでもない消耗戦になると判断したならすぐさま逃げるべきだ) 出目22 〈日向の猫人〉 出現数:1d3 レベル:4 宝物:なし ≪反応表≫ 1【昼寝をしている】(【逃走】と同様) 2-3【友好的】 4-6【ワイロ】(1体につき1個の食料) このクリーチャーは【少数種族】【人間型】に属する。 このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。 【ワイロ】を渡すと反応が【友好的】になる。 反応が【友好的】なら、猫人は「いいこと」を教えてくれる。 次のd66の十の位は「1」で固定される。 *** 日向ぼっこをしていた猫人がこちらを向く。 「なんにゃ? うるさくしないなら、いいことを教えてやるにゃあ」 彼女は「あっちにいい物がある」と、君の背後を指し示す。 礼を言おうと振り返った時、猫人は暖かい日差しの中で寝息を立てていた。 出目23 『モグラの紳士(The Mole Gentleman)』 そこには枯れた巨木が佇んでいた。その根元には大きなウロがある。覗き込んでみると漆黒の闇がどこまでも続いているような気がした。そしてしばらく眺めていると、君は吸い込まれるように転げ落ちてしまった。 しばらく滑り落ちていると、突然明るい空間に転がり出る。するととても良い香りと共に落ち着いた声が聞こえてくる。 「おや珍しい、こんなところに人間の方が来るなんて。30年ぶりくらいかな、良かったらそこの椅子にお掛けなさい」 こじんまりしたテーブルセット、そこに見上げる程大きなモグラが腰掛けていた。テーブルの上には上品なティーセット。その大きな爪で器用に小ぶりなティーカップを口元に運んでいる。どうやら彼はティータイムを楽しんでいた様だ。落ち着いた声に誘われて、君は彼の向かいの椅子に腰掛ける。彼はカップを一つ用意し、紅茶を注ぎながら言う。 「こんなところにいると中々外の話を聞く機会が無くてね、良かったら暖かい紅茶を飲んで、休憩がてら少し話を聞かせて貰えないかな?」 主人公は【判定ロール】を行う(目標値:6)。 成功した場合、紳士は大いに満足し、満面の笑みで大きな緑色のミミズ(治療のポーション相当)を差し出す 「これは大変に珍しいミミズでね、非常に滋養に富んでいる。君の冒険の役に立つだろう。遠慮なく持って行きたまえ」 失敗した場合、紳士は話してくれた事に対して丁寧なお礼の言葉を述べるにとどまる。 ティータイムが終わると、紳士はその大きな爪で穴を掘り、君を地上まで案内してくれる。 「良ければ、また遊びに来てくれたまえ。いつでも歓迎するよ。では、失礼」 紳士が優雅にお辞儀をして穴に潜り込むと、見る見る穴が埋まっていった。 出目31 《白銀枝の若木》 とても珍しいものであることは確かだが、主人公たちにその効能ないし効験を見いだすことはできない。 町に帰れば好事家なり研究者なりに売り払うことはできるだろう。 特殊イベント“小さき助力者” 本シナリオに限り1度だけ、囁く葉擦れの者ども1d3+3体を呼び出して助力を得ることができる。 従者として同伴するわけではないので従者点の空き枠を必要としない。 召還された囁く葉擦れの者どもは戦闘において“葉擦れの囁き”を主人公の敵クリーチャーに対して行使する。 敵クリーチャーレベルから囁く葉擦れの者どもの数を引いた値を目標値として判定を行う。 もし目標値が0以下となった場合は1とする。 これに成功すると主人公パーティーの防御判定に+1、さらにクリティカル出目に5が加わる。 (杉本先生宛ての蛇足:敵として戦った場合と異なり“囁き”を連発できず、味方になるとナーフされるというミームに従っているのには理由があります。それは“若木”の保護という使命から離れたことで力が弱まるからです。本当です) (フレーバーテキスト) 枯れ葉や小枝、下生えなどが寄り集い、いくつもの手鞠ほどの塊が宙に浮かぶ。 よく見ると、それぞれの塊の隙間から一対の眼のような光点が覗いている。 かつては森の守護者として強い力を持っていたが、その遠い末裔たる彼らにはそれほどの力はない。 今は白銀枝の若木を守るだけで精一杯なのだ。 出目:33「桜の木の根元に埋まっている死体」 桜の木のそばを通るとそこの根元に埋められている死体が見えた。すると、その死体がいきなり動きしゃべり出す。 木の根が絡みついて動けないから助けて欲しいと。顔だけ出して喚いている。 そのまま通り過ぎるならこの<できごと>は終了する。桜の木の根を排除すると、ボロボロになった豪華な服を着た死体が立ち上がる。 彼は「クリーチャー:ワイト」であり、信頼してた仲間に殺され、気がついたら自分の体の上に桜の木が育っており動けなくなっていたという。 動けるようになったので自分を殺した仲間に復讐するためこの場を去ろうとする。その際、埋まっていた場所にある鍵付きの宝箱を助けてくれた礼だと告げ、森の奥へと駆け出す。 この宝箱の鍵は主人公ひとりが【器用ロール】(目標値:5)に成功することで開けることができる(宝物表+1)。失敗すると開けれず、なおかつ宝箱自体が完全に埋まって取り出せないためあきらめることになる。 ただし、【器用ロール】をせずに死体に開け方を聞くこともできる。これにより、【器用ロール】に成功した時と同じ結果になる。その場合、この彼は「クリーチャー:ワイト」な為、開け方を聞く間生命力を吸われてしまい、主人公ひとりは生命値を1点減らす。 {斜体} 「我が名前はベルナルド・フォン・ゼリエボッフ。下々の者よ。我が窮地を救った功により頭を下げぬ無礼を許そう」 そう言ってはい出た男の皮膚は血の気はなく生気がない。着ている服は貴族が着るような豪華な仕立てだが長年つにに埋まっていたためぼろぼろの土まみれだ。 「何より、我はこれより裏切り者に家宝の剣つきたてねばならぬ。そこにある宝はくれてやろう。そんなものよりあいつの血で乾杯せねば……くはははは! 開け方? その鍵の右端にあるバラの彫刻を90度回して、こう押し上げるのだ…こう!」 ぼろぼろの剣を掲げ笑う顔の瞳には不気味な光が灯り、口からは白く冷たいもやが広がっていた……。 {/斜体} 出目36『白拍子の舞』 森の中で異国の音楽が聞こえる。それは、遥か東方の国の小鼓と横笛であるのは主人公は知ることはなかったが、「美しい音楽」というのだけはわかった。 まだ花咲く前の桜の木の前で異国の服を着た女性が舞っている。異国の舞、白拍子だ。 ポンという小鼓の軽妙な音と横笛の艷やかな音色に併せて舞を舞う女性。異国の服、水干と烏帽子姿の女性の姿に見とれていると、時間を忘れてしまった。 「ほう」 舞っていた女性がため息に似た息をひとつ付くと、姿が消えた。どこからともなく聞こえていた音楽も消え、あたりに森の音が戻ってきた。 優雅な時間を過ごした主人公は生命点か副能力が3点回復している。 {/}舞を舞っていた女性の姿が消えた後、桜の木のひとつに桜の花が1輪咲いているのがみえた。あれは、遠く異国の国から渡ってきた、桜の木の精だったのかとふと思う。{/}