1:  君は聖剣を手に立ち尽くす。これから君はコックとして料理をふるまわなければならない。  しかも、目の前の悪魔が喜ぶ料理をだ。ただ、君には人を喜ばすほどの料理の腕はない。  おまけに料理をするための食材すらない。かばんの中に若干の調味料と酒、保存食がある程度だ。  そこらの雑貨屋で買える程度の品。おまけに劣化を理由に値切ったので味は悪い方にしか保証ができない。 「(そもそも、何を作れば喜ぶんだ?)」  それ以前に何を食べるのかもわからない。だが、このまま立ち尽くしては怪しまれる。ひとまず時間を稼がなくては。 ・悪魔に何者か尋ねるなら13へ ・食べ物の好き嫌いを聞くなら9へ 2: 「極上の素材を用意しました!」  君は時間稼ぎをすることにする。これだけだとそれは何だと聞かれるので間髪入れず畳みかける。 「ただし、素材は食べるまで秘密です。何を食べるかわからないドキドキも私の料理の調味料と思ってください」  秘密である事が料理の一種であると言われてしまうと、それ以上聞くことは料理の味を下げることにもつながる。 「ムムム……そうか。なら楽しみにしておる。我の期待を裏切るでないぞ」  君は仰々しく頭を下げた。これで時間稼ぎはできた。どうする? ・食材を取りに行くふりをして逃げ出すなら7へ ・調理を始めると言っていったん壁裏に隠れるなら15へ 3:  この状況で人のモラルなど全く価値がない。 「今日のメインはこれです!」  君は足元に転がっている半分を指さした。 「ほう。人間か。しかし、寝起きの最初に食べるのはちょっと惜しい気がするな」    アスタロトンは若干嫌そうな顔をした。だが、ここでひいては命が危ない。 「寝起きこそ豪華なものではなく、軽い物がいいのです。まずは、胃をおこさなくては!」  君の必死の説得に、納得したのか半分になった戦士の上半身をつまみ上げ、口にいれる。  噛むたびに骨がへし折れる音が響くが、代わりに悪魔は笑顔になった。 「ふむ。たしかに。久々に食べるがここまでうまいものだったか? どれもう一つ」  今度は僧侶の下半身をつまんで口に入れる。 「お! 先ほどと違うな。触感や味が! うむ! わるくない!」  人間の味が人によって違うという知らなくていい知識が増えたところで、若干安堵した。  このままいけばアスタロトンは満足するかもしれない。問題は量が足りるかだが、幸いにもデモンスレイヤーたちは大所帯できてくれた。  探せばもっとあるだろう。たとえ半分でも。 「うむうむ……。安っぽい味だが久々に食べるとけっこううまいな。これはとめられん」  アスタロトンは次に君の頭を掴んで持ち上げた。 「え!?」  君が何か言おうとすると、口の中に放り込まれた。 「むお! 今度のは今まで味わったことがない!! すっぱさとほろにがさ……そして舌がしびれるような刺激! これはどういうことだ? コックよ! ……おや? コックはどこ行った?」  アスタロトンはきょろきょろとあたりを見回すが誰もいない。返事をするものは胃の中だ。 GAME OVER 4:  君は聖剣を振り上げ悪魔アスタロトンに切りかかる。何の抵抗もなく皮膚を切り裂いた。  痛みを感じたのかアスタロトンは顔をしかめる。この聖剣は間違いなく本物だ。だが、それだけだった。君ではサイズが違いすぎた。  君が切りかかっただけでは文字通り、かすり傷だ。確かに、このまま切り続けていけばダメージを与えられるのでいつかは倒せるだろう。  ただし、それは相手が反撃しないことが前提になる。当然そんなことはありえない。君が次の行動をとろうとした瞬間。 「愚か者!」  その一言と同時に君は獄炎に包まれた。  君がいた所には黒い丸が残り、そこに真っ赤に熱せられた聖剣が落ちていた。  あの炎の中でもまだ形を保てていることからまぎれもなく聖剣だったのだろう。だが、それは君にとって何の意味もなかった。 GAME OVER 5:  君はできた料理を悪魔に見せる。料理名としては「聖剣のカルパッチョ〜数百年の息吹をあえて〜」というところだろう。  肉や魚の切り身にオリーブオイルをかけたものをカルパッチョというのは聞いたことがあるが聖剣もOKなのだろうか? という疑問は残るが、後には引けない。  もうこれは料理だと通すしかない。 「ふむ。できたか。では、早速いただこう!」  アスタロトンが料理に手を伸ばす。君に残っている希望は聖剣を食べたアスタロトンが、その聖剣によって倒れることだ。  聖剣という猛毒となりうるものを食べるのだ。即座に死ぬ……が理想だがダメージを与え動けなくするだけでもいい。  それだけでも助かる可能性が上がるのだ。君はアスタロトンが食べるのを黙ってみているしかないのだ。  何か行動を起こし、それが今まで気づき上げてきた流れを壊してもいけない。 ・このまま食べさすなら10へ ・食べるのを止めるなら16へ 6:  君は聖剣を構えた。覚悟を決める時がきたのだ。可能性は0ではない。  今こそ本当の冒険者になるのだ。心の中で勇気を奮い起こす。そんな君を見てアスタロトンは笑った。 「なんと! それはお前の調理道具ではなく食材であったか! うむうむ。確かに我も聖なるものを食べたことはない!」  手を叩きなんと喜んでいる。聖なるものは弱点ではないのか? それとも頭がわるいのか? ともかく、よくわからないが、悪魔は納得してくれた。  問題はこの聖剣を使って料理を作らなくてはいけなくなったことだ。  おそらく、この世の誰も剣料理を食べたことも作ったこともないだろう。  焼く? いや、ただ熱せられるだけだ。  ゆでる? いいスープになるイメージが浮かばない。  カラッと揚げてみる? この大きさの剣に衣をつけるには持っている小麦粉では足りない。そもそも剣にサクッとした衣をつけておいしくなるのだろうか?  だめだ。調理方法すら思い浮かばない。しかし、君の後ろでアスタロトンは期待に満ちた目で見ている。  何もしないわけにはいかない。こうなればできることをするしかない。  君は火を起こし、鍋に少量の水を入れ、手に入れたベリーと酒と調味料を入れ、煮詰めソースっぽい物を作る。  続けて平らな石の上に聖剣を置き、オリーブオイルをかけ、その上に先ほどのベリーソースを宮廷のソース係のように振りかけた。  調理方法がわからないなら素材そのままを!  ……もはや完全に勢いだけで進んでいる。だがもう止まれない。  これを料理だと言って出すしかない。完成といおうとした瞬間、ふと思いついた。 「色合いが足りないのではないのか・・・?」  料理人でもないのに何を言っているかと思うがノリでそんなことを思い、頭から離れなくなってしまった。  特に緑が足りない。ふと周りを見ると普段自分が食べている野草が目に入った。お腹が痛くなった時に使える薬草だ。  アスタロトンに食べさせる料理に薬草を使っていいのかと考える。聖剣なんてものを食べさせるのに今更だが考えてしまう。 ・薬草を添えるなら11へ ・このまま出すなら8へ 7:  君は食材をとるふりをして遺跡の中にある秘密の抜け道に向かう。崩れてできた穴を利用した君だけが使えるルートだ。  ただし、出口は街道沿いではなく森の中の獣道になる。この道を進むと山を越えた隣の町への街道に出ることができる。  君が根城にしている町からは遠くなるがあの悪魔に見つかることはない。  むしろ、根城の町に行くのは危険だ。何せ遺跡から一番近い街なのだ。  逃げたことがアスタロトンにばれれば間違いなく遺跡から飛び出しておってくるだろう。  そして、向かうのは一番近い町のはずだ。何より根城の町に戻れば冒険者ギルドに事の顛末を放さなければならない。  領主がスポンサーの依頼人を見捨てて逃げたということも一緒に。  そんな面倒なことはごめんだ。君は森の中を一心不乱に駆ける。  日が沈むころ山の向こうから赤い柱が天に届かんほど立ち上ったのが見えたが、君は見なかったことにして街を目指す。  街に着くなりさらに遠くに行くための寄り合い馬車に乗った。ひとまず君の命は助かった。  今当面の問題は君の手の中にある悪魔殺しの聖剣をどうやってお金に変えるかだ。 END 8:  いや。材料自体が剣なのだ。薬草有無など意味はない。君はこのまま出すことにした。   5へ 9:  ひとまず、君は好みを聞くことにした。好きなものを食べれるということはどんな者でもテンションが上がる。  この悪魔を不機嫌にさせてはならないことだけははっきりしてる。君の質問にアスタロトンはうれしそうに答える。 「何より肉だな! ドラゴンもいいが、地獄の野良悪魔の肉もよい。そうそう…たまに連れてこられた人間という生き物もなかなかだな。量が少ないが歯ごたえとかるさがおやつがわりにちょうどいい。特別うまいわけではないがやめられない味だな」  おやつ代わりにつままれる危機感やら同族も食べるの? といった疑問が増えたが好物を想像して気分が良くなったようだ。 「それを聞くということは期待してもいいのだな。地獄の生き物を専門に調理するものはお前のような属性の包丁を愛用すると聞いたことがある。なんでも、相反する属性の物の方が倒しやすく素材の味を強くする……だったか? 同じ属性では強い方の影響を受けてせっかくの素材の味が変わるらしいな」  君は愛想わらいをしながら握っている聖剣を見た。どうやらこいつは本物らしい。これはワンチャンスあるかもしれない。 ・聖剣で切りかかるなら4へ ・「極上の素材を用意しました」とさらに期待を上げさせるなら2へ 10:  君は無言を貫く。ここまで来たら信じるしかない。アスタロトンは聖剣をつまみ上げ口に含み、咀嚼する。 「ふむ……初めて食べる触感だな。おいしさの中にピリッと貫く刺激がある」  咀嚼音と共に金属がへし折れる音も聞こえる。聖剣は難なく食べられてしまった。  いや、まだ希望はある。どんな化物でも内側からの攻撃に弱いはずだ。 「うまかった。しかし、量が足りん!追加だ!」  聖剣を飲み込んだアスタロトンがお代わりを要求してきた。その言葉にハッとする。そう、どんな毒物でも必要な量がある。  あの巨体対して聖剣自体の体積は比較にならないほど少ない。影響を及ぼすには、聖剣は小さく、悪魔があまりにも大きいのだ。 「聞こえなかったのか! 追加だ!」  愕然とする君に悪魔がお代わりを要求する。だが、聖剣など何本も用意できるはずがない。  何か言いつくろうべきなのだろうが、聖剣料理が失敗したということが混乱を引き起こした。君は一心不乱に出口に向かって駆けだす。  ともかく逃げたい。それしか考えられなかった。それが、実現可能かどうかなど関係ない。  逃げ出す君の後方から赤い壁が高速で迫ってくる。君は真っ黒になった後、形も残さず崩れ落ちた。 GAME OVER 11:  君は生えている薬草を摘み取り、さっと聖剣の上に振りかける。  聖剣の上に乗った薬草はオリーブオイルの上でベリーソースとは違ったアクセントを醸し出し、悪くない出来となった。 5へ 12:  「もっとおいしいものがあります!」  君はこの遺跡の近くにある君が根城にしている町について話した。聖剣料理がうまいまずい以前にこの悪魔の意識を君から別方向に向ければいいのだ。  街にはこれよりうまいと断言できる料理は確実にあるので嘘ではない。 「ほうほう……それはいいことを聞いた。この料理よりもうまいか」  アスタロトンはそういうと笑顔ともとれる口の開き方をした。だが、次の瞬間、その剛腕を君にたたきつけた。  当然避けられるはずもなく君はつぶされる。 「愚か者! 自分の作った料理を目の前にしてそれよりもうまいものがあるというコックがどこにおる! たとえそれが事実であろうと自分の作り上げたものこそが一番うまいというのがコックの矜持であろうが!」  叩き潰した君に対して、軽蔑の視線を向けた後、首をあげる。 「まったく……ヴォルターめ。あとでお仕置きだな。だがその前に、近くの町とやらで腹ごしらえでもするか。はて……我が家の近くに町などあったか?」  首をかしげながらアスタロトンは歩き去る。君の存在は取るに足らないものとして消えていった。 GAME OVER 13:  君は目の前にいる悪魔が何者か聞いてみた。悪魔だと推測するがただの化物かもしれない。  もしそうなら、君が持っている悪魔殺しの聖剣がただの刃物に成り下がってしまう。  心の平穏のために何としても聞いておかなければいけない。震える体を抑えこんで、何者か聞いてみた。 「ん? なんだ? 我の事を知らぬのか? まあ、職人には変人が多く、世間のことも気にしないものが多いと聞く。これよりは頭にしっかりと刻み込め。我は獄炎大公アスタロトンである。炎よりも激しく熱い獄炎を支配する悪魔よ」  はっきりと悪魔と答えた。獄炎大公などずいぶん立派な位を持っているそうだが、今それはどうでもいい。 「(悪魔ならこの聖剣は役に立つかもしれない)」  切り札がまだ手元にある事を確信し、君は幾分落ち着きを取り戻す。 「これで我が誰か理解したな。獄炎大公の口に相応しい料理をつくるがよい。それができなければこの名を汚すこととなる。まあヴォルターが連れてきたのだ。そんなことはありえんがな! ……いや。あいつは口がなかったな。だから料理の味など分からんからたまにはずれを連れてきた記憶がある。まあその場合はお前を焼き尽くすだけだ。あははは!!」  せっかく取り戻した冷静がどこかに走り去った。この後どうするべきか? ・聖剣で切りかかるなら4へ ・食材をとりに行くと言うなら15へ 14:  「もっとおいしい食べ方があります!」  そう言うと、アスタロトンは興味深そうに食べるのを止める。 「ほう? それはなんだ?」  素直に聞いたことに驚きながら次に話す言葉を考える。 「えーと……そう!大きさです! 料理に対して大きすぎます」  アスタロトンが君の言葉に首をかしげる。 「この聖剣は人間サイズです。なので、それを食べるには人間位の大きさがベスト! ですが、今のあなたの大きさでは明らかに大きすぎます!」  自分で何を言っているかわからないが、必死で言葉を紡ぐ。その言葉を聞いたアスタロトンは数刻動きを止めた。  まずかっただろうか? だが次の瞬間。アスタロトンの全身が赤く発光した。その光は広がるかと思ったら徐々に縮んでいき人間サイズになった。  そして、ひび割れと共にはじけ飛ぶ。  光が収まった瞬間、そこには小柄な女性が立っていた。  赤い髪に、小柄な体に豊満な胸。小さな女神といった印象だが、額から生えている角や瞳の色があの悪魔だ。  首から下は薄く見たこともない黒く薄い皮が足先までぴったりと張り付いて、その様な服に見える。 「お前の言う通り、あの大きさでは一口で終わってしまうな。こちらの形態の方がより多く食べることができる。それではいただくとしよう」  音量は小さくなったが、確かにあの悪魔の声だ。そういうと、聖剣の柄を握り、刀身を一口齧り取る。  明らかに金属なのに、クッキーやビスケットをかみ砕く音にしか聞こえない。 「しびれというか苦味というか……変わった味だな。表現がしずらい。時々、頭を突き抜ける衝撃が・・おお! うむ!癖になる!」  ほんとに食べているという驚きなど気にせず、どんどん聖剣を食べていく。それに合わせて悪魔のお腹もちょっとずつ膨らんでいく。  やがて、全部食べ終わるとともに、ごおっと炎が小さく噴き出た。 「うむ! 大変満足だ。なかなかの腕の物を……?!?!」  満足げな顔をした悪魔が急に腹を抑えてしゃがみこんだ。これは聖剣の効果が発揮しだしたのか? ・料理に薬草を振りかけているなら18へ ・振りかけていないなら17へ 15:  「それでは、調理を始めるために、食材を準備します」  アスタロトンはそれを快諾した。しかし、ここにろくな食材はない。  普通の食材では満足しないだろう。君は最後の希望にすがり、この空間を調べた。  天井が一部崩れ外部とつながっているせいで生態系としては恵まれている。何かあるはずだ。  アスタロトンからの視線にひやひやしながら探した結果、群生していた野生のベリー。これは思った以上に甘くおやつに最適なものだ。  崩れた壁の隙間に鳥が作った巣があったので調べると卵が数個。小さめだがなんとか使えるだろう。  あとはたくさん茂っていた薬草の中で食べてもいけるものが多く見つかった。  カラッと揚げるとうまいのでいつもなら喜んだところだろう。特に酒のつまみにいいのだ。だが、今日はそれを望んでいない。  材料としてはまずまずだが、どう考えてもメイン食材としてありえない。自分が持っている保存食など論外だ。  そういえば、案内させた一行は人数も多かったので食料もそれなりにもっていた。それが使えないかと探したが見つからない。  最初の一撃で燃え尽きてしまったのだろう。君は恨みをこめて半分になった冒険者たちをみた。  ここに来るまでは自信満々だったが今ではただの肉の塊だ。  ……そう、肉の塊。  ちょっと待てとヒトとしてのモラルが警鐘を鳴らすが、この場で一番食材といえるのもたしかだ。 「おい!そろそろ待ちくたびれたぞ!今回のメインは何だ!」  注文した料理が来ず、待たされてる客と同じ声のトーンでアスタロトンが叫ぶ。猶予はない。 ・床に転がっているデモンスレイヤー(半分)を指さすなら3へ ・人としての倫理を捨てられず聖剣を構えるなら6へ 16:  「少し、お待ちください!」  君はアスタロトンが料理を食べようとするのを静止した。 「……。我の食事を邪魔するとはそれなりの覚悟はあるのだろうな?」  明らかに不機嫌になっている。下手な言葉は命に係わる。 ・「もっとおいしいものがあります」というなら12へ ・「もっとおいしい食べ方があります」というなら14へ 17:  「痛い!いたたたた! なんだ? 腹が! 腹が痛い!!」  君はひそかにガッツポーズをした。聖剣が効いているのだ。勝利を確信した瞬間、目の前の床が爆ぜた。  アスタロトンが炎を吐きだしたのだ。ある意味当然かもしれない。人間でも毒物を食べれば吐き戻す。  ただ、人間の場合は吐いて出るのは胃液だが、悪魔は違った。  苦しみ転がりながら炎を吐きだす。君がいた空間はあっという間に炎に包まれた。  アスタロロンは炎が渦巻く中まだ苦しんでいる。しかし、人間の君はそんな炎に耐えきれるわけもなく、骨まで焼き尽くされ跡形ものこらなかった。 GAME OVER 18: 「痛い!いたたたた! なんだ? 腹が! 腹が痛い!!」  君はひそかにガッツポーズをした。聖剣が効いているのだ。このままいけば君は助かる。だが苦しんでいた。アスタロトンが突然動きを止めた。 「……お? ……痛くない。腹がいたいと思ったが気のせいだったのか? むしろ、もっと食べたい気分だ!!」  苦しんでいたのがうそのようにアスタロトンはスクっと立ち上がる。  一体どういうことなのだろうか? なぜと問答をしていると足元にある草が目に入った。  料理の最後に君が加えた野草……いや薬草だ。そう薬草。これは薬なのだ。正確には薬の原材料。効果は消化不良や急な腹痛の解消。  愕然とした。 「ふははは! うまかったぞ! ヴォルターめ! わが期待に十分こたえよった! ほめて遣わそう。貴様は今をもって正式にわが料理人として採用する!!」  アスタロトンは胸を張ってそう高らかに宣誓した。 エンディングへ エンディング  君は根城にしている町をはなれ領地外の町の宿屋に泊まっている。本当ならやけ酒をかっ食らいたいところだがそうはいかない。  今手持ちの金が少ないのだ。君一人なら何とかなるだろう。だが、連れとして隣に座っているものが問題なのだ。そう、あのアスタロトンだ。 「はぐはぐ……これもいけるな。おかわりだ!」  追加注文を笑顔で応じる給仕の娘が妬ましい。しかし、止めたくても止められない。見た目は小娘だが、悪魔なのだ。  なぜこんなことになっているのか。いろいろあるが順番に説明するとあの聖剣は薬草の効果が加わっても、悪魔に悪影響があったのだ。  なぜなら、悪魔が人間形態からもどれなくなってしまった。どんなに頑張ってもだめらしい。  しかし、当の本人はあまり気にしていなかった。どんな姿になっても本質が変わっていない限り問題がないというのが悪魔の考えらしい。  このため、君に対して追加の料理を注文してきた。  材料が無く無理だと答えたら、ならば、材料がある所に行って作れと命令された。  おまけに気に入ったのか一緒に行って出来立てを食べるとまで言い出した。  断りたかったがその瞬間、殺される。幸いにも人間には見えなくないため一緒に連れていくことはできたが次の問題があった。  根城の町に戻ったら当然報告をしなければいけない。 「案内した冒険者は復活した悪魔に殺され、自分は聖剣を料理して無事帰ってこれました。そして、悪魔はなぜかちっちゃくなりました。」  正直にこんな報告したところで信じてもらえるわけがない。案内した依頼人は死亡、貴族が手に入れた聖剣を無くし、逃げてきた。  依頼失敗どころか粛清対象になってもおかしくない。というわけで長年親しんだ町からできる限り遠くに逃げなければいけなかった。  不幸中の幸いに、悪魔は人間の料理が珍しく、おまけに気に入ったようで行く先々で食事を食べさせればおとなしくついてきてくれる。  食費はかなりかかるが・・・。 「なに沈んだ顔をしている。はは〜ん。自分の料理より気に入られて料理人を解雇されるか心配しておるな。安心しろ。うまいがあの時お前が作ったもの以上ではない」  無邪気な顔でほめる悪魔に君は罪悪感やら認められていることに対する嬉しさやら自分でも整理できない感情を覚えた。 「だから、早く材料がある所まで案内して次を作れ。それまでのつなぎとしてこの程度で我慢してやる。とりあえず、ここのメニューは制覇する。」  いろんな感情がふっとんだ。早くなんとかしないと焼き殺される前に君の財布がすっからかんになる。  まだ、安らぐことはできない。君は新たな食材を見つけるためにこの町を出ることにした。アスタロトンと一緒に。 END Copyright:ロア・スペイダー & FT書房 2020