--------------------------------------------------------------------------------- 1:ローグライクハーフd66シナリオ「幽霊屋敷の果実酒」 --------------------------------------------------------------------------------- 作:火呂居美智 監修:紫隠ねこ、杉本=ヨハネ  これは「ローグライクハーフ」のd66シナリオです。作りたて(10経験レベル)の主人公1人と従者、または主人公2人での冒険に適しています。  ・ゲームマスター:不要  ・プレイヤー数:1-2人  ・プレイ時間:20-40分  ・適正レベル:10-13  ・対象年齢:10-99歳 --------------------------------------------------------------------------------- 2:「ローグライクハーフ」を遊ぶにあたって ---------------------------------------------------------------------------------  「ローグライクハーフ」はルールを確認した後に遊ぶゲームです。新ジャンルではありますが、区分するなら「1人用TRPG」にもっとも近いといえます。ルールは下記アドレスで確認することができます(無料)。 https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_BasicRuleSet.txt  PDF版は下記アドレスで入手可能です(要BOOTH会員登録)。  また、紙の書籍でのルールを入手したい場合にも、こちらから購入が可能です。紙の書籍には1stシナリオ『黄昏の騎士』が収録されています。 https://ftbooks.booth.pm/items/4671946 --------------------------------------------------------------------------------- 3:冒険の概要 ---------------------------------------------------------------------------------  君は初秋の自治都市トーンを訪れている。  収穫祭を間近に控え、街は活気に溢れていた。買い出しや買い付け、商談、運搬、物見遊山や暇つぶしの立ち話まで、人々の往来は慌ただしい。店先は華やかに飾り付けられ、珍しい品々も並び始めている。トーンの住民だけでなく、よそからの流れ者も増えていた。もちろん、君自身もそのうちの一人だ。  大通りには多くの商店が軒を並べている。  人気を二分する「四猫亭」と「黒犬亭」、それ以外にも多くの宿や酒場が看板を掲げ、旅人を呼び込んでいる。  消えた魔法使いの昔話を聞いたのは、そんな数ある酒場のひとつだった。  およそ五十年ほど前、街外れに屋敷を構えていた魔法使いが、突然、失踪したのだそうだ。寡黙だが優秀な魔法使いで、魔法道具や魔法薬を作っては魔法店に卸していたらしい。  失踪の直前には従者をすべて解雇していた。理由はわからないが、帰らぬ旅に出たか、人に見つからぬ場所で自死を選んだのだろうと、当時は判断された。いずれにせよ、二度と帰ってはこまい。  屋敷は盗賊や冒険者に荒らされ、やがて廃墟となった。今さら冒険に行ったとしても大した収穫は見込めないだろう。無駄な、すぐに忘れるたぐいの昔話。そんなふうに君は思っていた。   --------------------------------------------------------------------------------- 4:プロローグ --------------------------------------------------------------------------------- 「冒険者モトム!」  そう声を張り上げているのは、ツギハギだらけの服を着た、痩せっぽちの少女だった。  くせの強い栗色の巻毛に、頬いっぱいのそばかす。腕や脚の細さは、冬の枯れ木を思わせる。顔を赤らめ、切羽詰まったような声で、通りを歩く人々に声をかけていた。しかし、振り向いてくれるものは少ない。  初秋のトーンは、収穫祭を控え、徐々に賑わいを増している。人々は、それぞれ商売や行楽の準備に忙しく、痩せっぽちの少女のことなど眼中にない。彼女を気にかけるのは、よそからやってきた旅人たち、巡礼者や行商人、あるいは儲け話に目がないならず者あがりの冒険者だけだ。 「おい小娘、冒険者さまになにを依頼するつもりだ? 報酬はいかほどだ?」  すさんだ目をした一団が立ち止まり、そのうちの一人がからかうようにたずねた。 「小娘じゃないやい。これでもちゃんと働いてらい! あたいのばあちゃんに、死ぬ前に美味しい果実酒を飲ませてやりたいんだ。報酬はこれだよ」  少女は、懐から汚れた皮袋を取り出して、擦り切れた手のひらの上に中身を置いた。それは古びた青銅細工の指環だ。 「おいおい、冒険者を馬鹿にしてんのか! そんなおもちゃ、金貨一枚にもなりゃしない。そもそも酒なら酒場で買いな。もっとも、お前みたいな小娘に売ってくれる酒なんかないと思うがな」  一団は少女の姿にあきれ、あざ笑いを浮かべながら、その場をあとにした。  そんな風景を、君は通りで立ち止まり眺めていた。  ふと、少女と目があった。悲しげな瞳の奥には、まだ光が宿っている。 「冒険者モトム……あんた、冒険者かい? あたいのばあちゃんのために、幽霊屋敷へ行って、果実酒を持って帰ってきてくれないかい?」         ***  痩せっぽちの少女の名はミッチ。  祖母と二人、旧市街に暮らしている。両親は彼女が物心つく前に亡くなったらしい。母方の祖母に引き取られたが、その祖母も高齢で病に伏せがちだった。生活は苦しく、ミッチは子供ながらに雑貨屋や食料品店の裏方仕事を手伝って、家計を支えていた。 「ばあちゃんは、むかし魔法使いタリンジャの屋敷で働いてたんだ。屋敷の掃除や洗濯、食事の準備。従者として、タリンジャの身の周りの世話をしてたんだって。今でこそ足腰が弱って動けないけど、ばあちゃんはむかしは屋敷一番の働き者だったんだ」  タリンジャの名は君も聞いたことがあった。およそ五十年ほど前、街外れに滞在していた魔法使いだ。冒険よりも研究に熱心で、魔法道具の製造や魔法薬の調合に心血を注いでいたという。そのため彼の死後、屋敷は盗賊や冒険者の標的となった。隅から隅まで探索され、次第に荒れ果て、今では獣も棲みつかない廃墟となっているらしい。 「あるときばあちゃんは、タリンジャに一杯の果実酒を飲ませてもらったの。それはもう、不思議な色をした甘い風味の果実酒だったんだって。今でも忘れられないくらいに美味しくて、できればまた飲んでみたいって、あたいは何度も聞かされてたんだ。だから、あたいは、ばあちゃんが亡くなる前に、もう一度その果実酒を飲ましてやりたいんだよ」  それは、タリンジャが自ら複数の濃縮液をブレンドして作った特別な果実酒だった。店に売っているようなありふれたものではない。 「ばあちゃんがいうには、屋敷には魔法の空間があって、貴重な魔法薬の調合や合成をするとき、タリンジャはいつもその部屋でやっていたんだって。特別な果実酒もそこで調合してたって」   君は、その魔法の部屋もすでに冒険者たちによって荒らされているのではないかと考えた。そう告げると、ミッチは先ほど馬鹿にされた青銅細工の指環を目の前に掲げた。 「これが、魔法の部屋の鍵。ばあちゃんがタリンジャに託されたの。一階の大鏡の前でこの指環を左に三回、右に七回まわすと、秘密の扉が現れるんだって。今までばあちゃんが大事にしまってたから、生きたものは誰も扉に入れるはずがないって。死期を悟ったのか、ばあちゃんはこの鍵をあたいにくれた。あの空間になら、今後の生活を賄えるだけの貴重な物があるはずだから、冒険者に頼んで取ってきてもらいなさいって。そしてお金に換えなさいって。でも、あたいはそんなのはいらない。ばあちゃんにもう一度喜んでほしいだけ。魔法の品をみつけたら、全部あなたのものにしていいから、お願い、タリンジャの果実酒を見つけてきて」 --------------------------------------------------------------------------------- 5:ゲームの特徴 --------------------------------------------------------------------------------- 「ローグライクハーフ」へようこそ。このゲームは1人(または2人)で遊べるTRPGのようであり、ゲームブックのようでもあり、ダンジョンハック系の電源ゲームをアナログゲーム化したようでもあり……。ゲームマスター(GM)はいてもいなくても遊べます。つまり、1人から3人までで遊ぶゲームです。  プレイヤーとしてゲームに参加する場合、あなたは自分の分身である「主人公」を作成します。これは「冒険者」とも呼ばれる、万能ではないが十分に強いキャラクターです。プレイヤー(つまり主人公)が1人の場合、7人前後の従者とともに冒険を開始します。プレイヤーが2人の場合、主人公2人を中心に冒険を行います。  冒険は「地図」上にある部屋や廊下に踏み込むたびに、対応したできごとを確認していくことで成立します。ある地点に到達するとイベントが発生して、物語が進行します。また今回の冒険では持ち帰るべきアイテムをそろえることで、物語がクライマックスに突入します。 --------------------------------------------------------------------------------- 6:ゲームに必要なもの ---------------------------------------------------------------------------------  筆記用具と六面体サイコロ1個があれば、すぐにもゲームをはじめられます。「地図」と「冒険記録紙」をプリントアウトしておくと、手もとで情報を管理できて遊びやすいでしょう。 --------------------------------------------------------------------------------- 7:ゲームの準備 ---------------------------------------------------------------------------------  「ローグライクハーフ」のシナリオである本作をはじめる前に、あなたは主人公(と、必要なら従者)を準備してください。冒険を進めるためのルールを読むか、いつでも読めるように手もとに置いてからゲームを開始します。 --------------------------------------------------------------------------------- 8:ゲームの進行 ---------------------------------------------------------------------------------  本作の冒険は、一本道モードで遊びます。  d66でマップ表のイベントを二つ進めたあと、中間イベントに入ります。  その後、d66でさらにマップ表のイベントを進めていきますが、3種類以上の液体の小瓶(それぞれに色がついています)を手に入れたときのみ、最終イベントに進むことができます。  プレイヤーがもっと別の種類の液体の小瓶を探したいのであれば、冒険を続けてもかまいません。プレイヤーの任意のタイミングで出口(最終イベント)に向かうことができます。 --------------------------------------------------------------------------------- 9:一本道モード ---------------------------------------------------------------------------------  この作品は一本道モードで遊びます。  分岐を気にすることなく、d66によってマップを決定していきます。このモードでは、君は〈できごと〉を一定回数体験する(マップをめくる)行動の後に、中間イベントや最終イベントにたどり着きます。  マップ表の出目11〜16は、〈できごと〉における目的の達成(液体の入った小瓶の入手)ができるまで、何度登場してもかまいません。目的を達成したら、その冒険では再登場しません(2回目、3回目の冒険では再登場します)。  マップ表の出目21〜66は、すでに登場した〈できごと〉は固定され、原則として再登場しません(3回の冒険を通じて二度と登場しません)。 ただし、〈できごと〉における目的の達成次第では、再度同じ出目を訪れることができる場合もあります。各〈できごと〉の指示に従ってください。  『幽霊屋敷の果実酒』では、同じ出目が出た場合には、重複が出なくなるまで一つ先の項目が登場します。たとえば、あなたが25番と26番の〈できごと〉を体験した後で25番を再び出したときには、31番としてください。66番の次は11番としてください。  また『幽霊屋敷の果実酒』では、1枚目から2枚目のタイルをめくり、マップタイルに付随するできごとを体験した後に、3枚目の中間イベントのタイル(固定)に進みます。  その後、目的のアイテム(3種類の液体の小瓶)を集めるか冒険からの撤退を決めるまで、最終イベントに進むことはできません。目的のアイテムを集めたあとは、プレイヤーの任意のタイミングで最終イベントに進むことができます。  3種類の液体の小瓶を集められずに最終イベントへ進んだ場合、冒険の達成を放棄したことになり、キャラクターが生き残っていても報酬、経験値の獲得はできません。再度挑戦する場合は、違うキャラクターで始めてください。  一本道モードで遊ぶ場合、基本ルールの「42:逃走」を行なった際には、めくったマップタイルは枚数にカウントしません。主人公たちはその〈できごと〉が起きる場所には進まず、別の進路を選んだことになります。プレイヤーは改めてマップタイルをめくり、別の〈できごと〉へと進んでください。 ※中間イベントおよび最終イベントでは、逃走を行うことができません。 --------------------------------------------------------------------------------- 10:冒険とゲームの勝利 ---------------------------------------------------------------------------------  このゲームの勝利とは、シナリオにおける使命を達成することです。本作では、祖母の思い出の果実酒と同じ味を作る3種類の液体の小瓶を持ち帰ることが使命となります。  本作は3回の冒険を遊べるようにデザインされています。1回の「冒険」は屋敷の探索を行い、3種類の液体の小瓶を持って生還する(かゲームオーバーになるか)ことを指します。  使命を達成せずに撤退したり、キャラクターが死亡してしまった場合、同じキャラクターで2回目、3回目の冒険はできません。別のキャラクターで1回目から始めてください。 --------------------------------------------------------------------------------- 11:隊列について ---------------------------------------------------------------------------------  本作における戦闘には、隊列という概念はありません。主人公と「戦う従者」は、敵を好きなように攻撃できます。  敵側の攻撃は、主人公が2人の場合には均等に分けられます。  主人公が1人の場合には、攻撃の半分を主人公が受けてください。残りの半分は従者が受けます。  いずれの場合でも、余った攻撃をどちらが受けるかは、プレイヤーが決めてください。  例:インプ7体が主人公と「戦う従者」である兵士3人を攻撃した。インプの攻撃は合計で7回である。プレイヤーは攻撃のうち3回分を主人公が、残りの4回分を従者が受けることに決める。従者である兵士は【防御ロール】に失敗するたびに1人ずつ死亡する。 --------------------------------------------------------------------------------- 12:「暗い場所」について --------------------------------------------------------------------------------- 本作の舞台である幽玄の空間では、床や壁天井の全体がぼんやりとした光を放っているためランタンなどの光源を持つ必要がありません。 --------------------------------------------------------------------------------- 13:ゲームの終了 ---------------------------------------------------------------------------------  主人公が1人死亡したら、冒険は失敗で終了します。最終イベントを終えた場合にも、ゲームは終了します。そのときに条件を満たしていれば、冒険は成功に終わります。  冒険が成功した場合、主人公はそれぞれ1経験点を獲得します。冒険に失敗した場合には、これを得ることができません。 --------------------------------------------------------------------------------- 14:繰り返し遊ぶ ---------------------------------------------------------------------------------  『幽霊屋敷の果実酒』は、同じキャラクターで複数回遊ぶことができるゲームです。ただし、1人の主人公が挑戦できる回数には上限があります。『幽霊屋敷の果実酒』の場合には、同じ主人公で挑戦できる回数は3回までです。別の主人公に変更した場合、この回数はリセットされます。  1回目に遊ぶときには、「冒険のはじまり(1回目)」と書かれたデータをご確認ください。2回目は「冒険のはじまり(2回目)」、3回目には「冒険のはじまり(3回目)」を読むことで、冒険の状況がさまざまに変化するさまを体験できるでしょう。 --------------------------------------------------------------------------------- 15:本作のみの特徴として ---------------------------------------------------------------------------------  本作の目的は、3種類以上の液体の小瓶を持ち帰ることです。中間イベントのあとは、液体の入った小瓶を最低3種類手に入れなければ、最終イベントをクリアしてもゲームオーバーです。そのキャラクターでの今回の冒険は終了になります。  ただし持ち帰った3種類が必ずしも祖母の思い出の味を作る組み合わせであるとは限りません。正しい組み合わせを集め直すために、君は3回の冒険を繰り返すことができます。  小瓶は一つの袋でまとめて所持できるため、5個までは1個の装備品としてカウントしてかまいません。 --------------------------------------------------------------------------------- 16:冒険のはじまり(1回目) ---------------------------------------------------------------------------------  ミッチの祖母はたいそうな年寄りで、孫以上に痩せ細っていた。顔中しわだらけで、目が見えているのかどうかもわからない。胸の病を患い、もう長いこと寝たきりだという。  あばら家のような住まいに招かれると、小さなベッドで身じろぎひとつせず横になっていた。  君が挨拶をすると、老女はぼそぼそと口元を動かした。ミッチが耳を寄せる。 「ばあちゃんがいうには、魔法の部屋に入れるのはこの指環をつけたものだけだって。もし仲間や従者と一緒に入りたければ、肩でも手でもつかんで入ればいいそうよ。そうしたら一緒に入ることができるって」  そのあと祖母は孫を押しのけて君のほうを向いた。心なしか、語気が熱っぽく感じた。  君は耳をこらしたが、やはり何を言っているのかよくわからなかった。ミッチは困ったような表情をしただけでその部分は通訳しなかった。  しかし、老女の声の調子から、君はなんとなく察した。  珍しい品、高価な品、何を持っていってもかまわない。だけど、今後の生活に困らないよう、孫娘にも相応の報酬を分け与えてほしい。  彼女はきっとそのように訴えているのだ。 「それよりばあちゃん、あの果実酒について教えてよ。どの部屋にあるの? ばあちゃんが飲みたいって言ってた果実酒も、必ず持って帰ってきてもらうからさ。詳しく教えてよ」  祖母の話によると、タリンジャの作る果実酒は、葡萄酒に、三種の濃縮液をブレンドしたものらしい。濃縮液は小瓶に入れて分けて、それぞれちがう部屋に保管されている。それらをシェイカーで混ぜて作るのだそうだ。  君が依頼を承諾すると、ミッチは満面の笑みを浮かべて、葡萄酒とシェイカーを借りるために酒場へと走る。        ***  そこはまさしく廃墟だった。  壁は朽ち、柱は折れ、屋根は穴だらけだ。すきま風のせいか、海が近い地域とは思えぬ、どこか寒々とした空気があたりに漂っている。  君はタリンジャの屋敷であった廃墟に侵入し、一階のひび割れた大鏡の前に立っている。  その前で、ミッチから預かった青銅細工の指環を嵌める。  ミッチが教えてくれた、祖母からの助言を思い出す。 「秘密の部屋には、その指環がないと人もモンスターも入れない。だけど、死者だけは別。彼らはそうしようと思えば、ここを通り抜けることができるの。なぜなら、この魔法の空間はもともと幽界の狭間、幽玄の空間を利用して作られた場所だから。死者、つまりアンデッドだけは、自由に出入りができる」  君は得心した。そういえば依頼のとき、ミッチはたしか幽霊屋敷と言っていた。そういう意味か。  幽玄の空間は冷気に満たされ、また時間の流れも曖昧で、そこで保管された果実はかつての鮮度を保ったままらしい。 「それと、タリンジャは魔法の罠の研究もしていたから、至るところに仕掛けているかもって。くれぐれも気をつけてね」  なるほど、冒険に危険はつきものだ。ミッチに向かってうなずいたあと、君は指環を左に三回、右に七回まわした。鏡に映っていた君の姿が消え、代わりにうす暗い通路が奥まで伸びる。  歩き出すと、ぶつかると思った瞬間まるで幽霊にでもなったかのように、君自身の体は鏡をすり抜ける。  外の世界より少しだけ仄暗さをました景色が、目の前に広がる。  さあ、冒険の開始だ。d66を振れ。    --------------------------------------------------------------------------------- 17:冒険のはじまり(2回目) ---------------------------------------------------------------------------------  ドラム老人は、君の持つ油がかった色をした鉄瓶に目をとめる。 「それは特殊なシェイカーではないか?」  鉄ゴーレムから出てきた鉄瓶は、液体を混合するシェイカーのようだ。  ミッチの祖母がもぞもぞと口を動かした。 「そういえば、タリンジャは液を混合するとき、必ずそれを使っていたって。特殊な魔法の鉄瓶だって」  君はドラムと顔を見合わせた。  とすると、改めてこの鉄瓶で果実酒を作れば、祖母の懐かしの味になるかもしれない。  しかし、小瓶の液体はもう使い切ってしまった。余分に見つけていたとしても、それらはすでに劣化して使い物にならない。新たに見つけてくる必要がある。 「もう一度、行ってくれる?」  ミッチが、申し訳なさげに君を見る。  君はすでに心を決めている。体力を回復させたのち、トーンの商店街で装備を整え、ふたたび廃墟へと向かい、君は割れた鏡の前に立つ。d66を振れ。   --------------------------------------------------------------------------------- 18:冒険のはじまり(3回目) --------------------------------------------------------------------------------- 「おぬしが倒したゾンビパイソンの酒壺じゃが」  君の屋敷での活躍を聞いたドラムは、白髭をさすりながら推論をのべた。 「風味や香りから推測するに、ラズベリーを発酵させた酒ではないかと思う。セシルが飲んだ果実酒に入っていた酒は葡萄酒ではなく、ラズベリー酒だったのではなかろうか。だから微妙に同じ味にはならんのだ。ラズベリー酒は山岳都市カザド・ディルノー産が有名じゃ。これはわしが息子の店から探してくる。だからすまんがおぬしはもう一度、液体の小瓶を見つけてきてくれんか? 今度こそ、必ず正しい味を作ってみせる。おぬしも、これで終わりは嫌じゃろ?」  そういうことで、君はしばしの休息をとったのち、三度タリンジャの屋敷へと足を運ぶ。 --------------------------------------------------------------------------------- 19:マップ表 ---------------------------------------------------------------------------------  「ローグライクハーフ」は物語の部分とランダムの部分が存在する、何度も遊べる1人用TRPGです。プレイヤーの1人がサイコロ1個を2回振り、1回目の出目を十の位、2回目の出目を一の位として扱います(これを「d66を振る」といいます)。  このようにして決められたマップに応じて、できごとが起こります。 出目の十の位が1……○小瓶の部屋 出目の十の位が2……●魔法使いのメモ 出目の十の位が3……□アイテム 出目の十の位が4……■イベント 出目の十の位が5……◇〈弱いクリーチャー〉 出目の十の位が6……◆〈強いクリーチャー〉 ○液体の小瓶 出目11:〈赤の小瓶 (Red Bottle)〉 出目12:〈白の小瓶 (White Bottle)〉 出目13:〈紫の小瓶 (Purple Bottle)〉 出目14:〈黄色の小瓶 (Yellow Bottle)〉 出目15:〈黒の小瓶 (Black Bottle)〉 出目16:〈果実の部屋 (Fruit Room)〉 ●魔法使いのメモ 出目21:〈寝室のメモ (Bedroom Notes)〉 出目22:〈洗面所のメモ (Bathroom Notes)〉 出目23:〈書斎のメモ (Study Notes)〉 出目24:〈アトリエのメモ (Atelier Notes)〉 出目25:〈手洗いのメモ (Washroom Notes)〉 出目26:〈工具室のメモ (Toolroom Notes)〉 □隠されたなにか 出目31:〈珍しい植物 (Rare Plants)〉 出目32:〈宝石蜻蛉 (Jewel Dragonfly)〉 出目33:〈山エルフの頭巾 (Mountain Elf Hood)〉 出目34:〈医務室 (Medical Room)〉 出目35:〈武器庫 (Armory)〉 出目36:〈自然神の彫像 (Nature God Statue)〉   ■イベント  出目41:〈樹人の囚人 (Prisoner of the Wood Folk)〉 出目42:〈コビットの幽霊 (The Ghost of Cobbit)〉 出目43:〈檻の白馬 (Caged Unicorn)〉 出目44:〈美女たちの部屋 (Room of Beauties)〉 出目45:〈魔法の矢 (Magic Arrow)〉 出目46:〈鉄の玉座 (Iron Throne)〉 ◇弱いクリーチャー 出目51:〈ゾンビ (Zombie)〉 出目52:〈骸骨 (Skeleton)〉 出目53:〈低級死霊 (Apprentice Reaper)〉 出目54:〈グール (Ghoul)〉 出目55:〈蛮族の幽霊 (Barbarian Ghost)〉 出目56:〈ブラウンアイズ蛇 (Brown-eyed Snake)〉   ◆強いクリーチャー 出目61:〈花ゴーレム (Flower Golem)〉 出目62:〈ブナの樹人 (Beech Wood Folk)〉 出目63:〈ファントム (Phantom)〉 出目64:〈石ゴーレム (Stone Golem)〉 出目65:〈プリンセスミイラ (Princess Mummy)〉 出目66:〈オスクリードの巫女 (Demon Shaman)〉 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目11〈赤の小瓶 (Red Bottle)〉  この部屋は実験室のようだ。棚には多くの薬品が並んでいる。 【器用ロール】または【幸運ロール】のいずれか(いずれも目標値:4)に成功すると、君は〈赤の小瓶〉を見つける。  ただし小瓶は、真鍮の蓋がついた頑丈なガラスケースに入っている。  小手先の力業では開けたり壊したりはできない。これは合言葉で蓋が開く魔法の箱だ。  その合言葉を知っているなら、11-1へ  知らなければ、本気の力業で箱を壊すことも可能だ。その場合は【筋力ロール】(目標値:4)を行うこと。成功したなら、11-2へ  赤の小瓶を入手できなければ、出目が許す限りこの部屋に何度も訪れることができる。 ◇11-1  合言葉は「セシル」だ。  この語を聞いたことがなければ、出目11へ戻り、ほかの解決方法を探ること。 「セシル」  偶然聞いたその言葉を口にすると、真鍮の蓋は跳ねるように開いた。11-2へ ◇11-2  小瓶に詰められた液体の甘い芳香が、鼻腔をくすぐる。熟した大苺の香りだ。  君は「赤い小瓶」を手に入れる。これは果実酒の材料として使える。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目12〈白の小瓶 (White Bottle)〉  この部屋は実験室のようだ。棚には多くの薬品が並んでいる。 【器用ロール】または【幸運ロール】のいずれか(いずれも目標値:4)に成功すると、白い液体の入った小瓶を見つける。これは果実酒の材料として使える。 「白の小瓶」を入手できなければ、出目が許す限りこの部屋に何度も訪れることができる。  白い液体は、果汁というよりは乳飲料のようだ。  とろみが強く、無味無臭だった。  また部屋の隅で、太くて長い純白の体毛を見つける。特に不思議な力があるわけではない。持っていたところで使い道はないだろう。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目13〈紫の小瓶 (Purple Bottle)〉  この部屋には、多数の鉢がありそれぞれに樹木が植えられている。花や果実はない、鬱蒼とした茂みの一部を切り取ってきたような奇怪な印象の植物だ。  もし君がフーウェイ地方に行ったことがあるのなら、この植物が太古の森でしか見られないトカゲブナであるのに気がつくだろう。そして、強い毒性のある植物であることも。  この部屋を探索するのなら、【器用ロール】または【幸運ロール】のいずれか(いずれも目標値:4)をする必要がある。成功すれば、君は紫の液体の入った小瓶を見つける。これは果実酒の材料として使える。  失敗すれば、小瓶を見つけることはできず、さらに植物の毒性を浴びて体力点に1点のダメージを受ける。 「紫の小瓶」を入手できなければ、出目が許す限りこの部屋に何度も訪れることができる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目14 〈黄色の小瓶 (Yellow Bottle)〉  この部屋は調理場のようだ。流しに料理道具が各種並んでいる。 【器用ロール】または【幸運ロール】のいずれか(いずれも目標値:4)に成功すると、君はここで「黄色の小瓶」を発見する。薄く透明なそれは、明らかに柑橘系の果物汁のようだ。これは果実酒の材料として使える。 「黄色の小瓶」を入手できなければ、出目が許す限りこの部屋に何度も訪れることができる。  また、食材台にはいくつかの果物がのっている。  林檎、苺、蜜柑、檸檬……。ただどこか発色の濃淡がおかしく、油絵の具で描いたものが実体化したかのような違和感を覚える。望むなら、君はこの果物を口にしてもよい。その場合1d6を行うこと。   ◆出目1〜2  果物は腐っていた。生命点1点を失う。   ◆出目3〜4  甘味は少ないが普通の果物だ。何も起きない。   ◆出目5〜6  素晴らしい味わいと甘味で、元気が出た。生命点1点を回復できる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目15〈黒の小瓶 (Black Bottle)〉  この部屋には複数の麻袋が積み上げられている。芳ばしい香りが部屋には充満している。  麻袋には、珈琲豆が詰まっているようだ。薄れた文字で「ゴルゴン珈琲」と書かれている。部屋には豆を挽く機械があり、いくつか試作と見られる粉末もあった。  【器用ロール】または【幸運ロール】のいずれか(いずれも目標値:4)に成功すると、君は「黒の小瓶」を見つける。これは果実酒の材料として使える。 「黒の小瓶」を入手できなければ、出目が許す限りこの部屋に何度も訪れることができる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目16〈果実の部屋 (Fruit Room)〉  この部屋は籐籠が並べられており、多くの果実が露店の店先のように詰まっていた。  どれも時の狭間に固められたように煤けて見えるが、君の手に触れると鮮やかな色を取り戻す。  しかしその命は短い。外界へ出た途端、どの果実も一気に時間を進めたように腐り果てる。  片隅に台があり、果実搾り器と空の小瓶があった。 「果汁搾り器の取扱説明書」を読んでいるか、【器用ロール】(目標値:5)に成功すれば、次のうち一つの果実の搾り汁を小瓶に詰めることが出来る。  大苺……「赤の小瓶」として装備品に加えること。  檸檬……「黄色の小瓶」として装備品に加えること。  トカゲブナの果実……「紫の小瓶」として装備品に加えること。  ひと瓶分を詰めると、搾り器具は数十年の時を重ねたように錆びつき、動かなくなる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目21〈寝室のメモ (Bedroom Notes)〉  この部屋は寝室のようだ。  簡素なベッドと水差しを置ける程度のワゴンがその横に置かれている。  壁際に本棚があるが、取り立てて珍しい魔法の書が並んでいるわけではない。  サン・サレン地方について書かれた本が開かれており、1枚のメモが挟まれている。   「霜降川沿いにあるイチゴ農園で栽培された〈大苺〉がようやく届いた。セシルにも一粒食べてもらったが、彼女は気に入ってくれたようだ。彼女のためのカクテルを作るときは、必ず入れようと思う。赤の小瓶に詰め、魔法箱で大切に保管する。合言葉はもちろん彼女の名だ」  メモには小瓶を置いてある部屋のおおよその位置も記されている。次の行き先を決めるときに、十の位の出目を1にしてよい。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目22〈洗面所のメモ (Bathroom Notes)〉  ここは洗面台がある小さな部屋だ。  水桶も床に置いてあるが、どれも空だった。  棚の上に覚え書きとおぼしきメモが置かれていた。その最後の一枚には次のように書かれている。   「冒険者に大枚をはたいて、〈ユニコーン〉の生け捕りを依頼した。噂どおり、その乳汁は口あたりも喉ごしも申し分ない。しかしあまりに凶暴な性質で、多くは採取できなかった。残りはわずか2瓶だ。そのうちの一つは〈花の番人〉に護らせる。しかしギルドの冒険者は欲深かった。どんどん報酬をつり上げようとする。なんとかせねば……」  メモには小瓶を置いてある部屋のおおよその位置も記されている。次の行き先を決めるときに、十の位の出目を1にしてよい。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目23〈書斎のメモ (Study Notes)〉  この部屋は書斎のようだ。  フーウェイ地方にある太古の森に関する文献が開かれたままだった。メモが挟まれている。 「太古の森には特有の樹木、特有の果実が生息している。中でもトカゲブナは、葡萄に似た紫の果実をしているが毒性は強く、樹人以外は食することができない。そのために樹人を雇ったが、あまり協力的ではなかった。白い液体と混ぜると恐ろしい結果を招くこともわかった。」  メモには小瓶を置いてある部屋のおおよその位置も記されている。次の行き先を決めるときに、十の位の出目を1にしてよい。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目24〈アトリエのメモ (Atelier Notes)〉  部屋にはイーゼルと描きかけのキャンパスがある。  描かれているのは、肖像画や陶器、花瓶、または果実類だ。  肖像画の一つに目がとまった。  歳の頃は二十代後半くらいだが、どことなくミッチに目鼻立ちが似ている。メイドのような衣装を着ているから、もしかしたら祖母の若かりし日の肖像画かもしれない。とすると、描いたのは誰なのだろう? 屋敷の主タリンジャだろうか?  肖像画に添えられるように、一枚のメモを見つける。 「たくさんの色とりどりの果実、その中で君を例えるなら檸檬。さりげなく清らかで、包み込むように柔らかく、それでいて、いざというときは折れずに主張する。研究ばかりで生活にだらしないぼくを、君が支えてくれていた。君には、太陽のような檸檬の黄色がよく似合う」  メモには小瓶を置いてある部屋のおおよその位置も記されている。次の行き先を決めるときに、十の位の出目を1にしてよい。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目25〈手洗いのメモ (Washroom Notes)〉  この部屋は不浄物を流す手洗いのようだ。  幽霊屋敷の不浄物がいったいどこに流されるのかはわからないが、水溜めと紙束を入れた小箱が床に設置されている。  また壁には、焦げ茶色の木箱が置いてあった。不浄物の臭いをかき消すように、芳ばしい香りが漂っている。  開けると、少数の蛇が棲みついており、君に噛みついてくる。この蛇はブラウンアイズ蛇だ。弱いクリーチャーだが、その牙に強い毒を仕込んでいる。    ブラウンアイズ蛇〈(Brown eyed Snake)〉  出現数:1d3+3  レベル:3  宝物:なし ≪反応表≫ 1-3は【劣勢なら逃走】 4-6は【敵対的】    小柄ではあるがその毒は侮れない。ブラウンアイズ蛇の持つ毒は筋毒素であり、じわじわと筋肉を破壊していく。  一度でもダメージを受けたら、技量点を1点を失うことになる。幸い幽玄の空間の時間の進みは狂っており、この毒の効果が発現するのは幽玄の空間を出たとき、つまり今回の冒険が終了したときである。それまでに解毒剤を服用すればこのペナルティを免れることができる。またこのペナルティは今回のシナリオ(3回の冒険)を終えれば回復できる。          ***  小箱には珈琲豆と広告紙が入っている。 「寒さに強く、いつまでも美味しいゴルゴン珈琲! 挽きたての豆は湯煎し飲んでも、お酒にブレンドしてもよし! またそのまま害虫避けの芳香剤としても利用できます」  そう大きく書かれた後ろに小さく注意点がある。 「ただし、蛇を呼び寄せるので注意! また乳飲料を混ぜると毒性化します。特に馬乳は厳禁! 呪いの一品に仕上がります!」 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目26〈工具室のメモ (Toolroom Notes)〉  この部屋は工具室のようだ。  タリンジャは魔法と工芸品の研究をしていたようで、作りかけの機材や設計図がたくさん残っている。  その中で、「果汁搾り器の取扱説明書」を見つける。今後、果汁搾り器を使う機会があれば、操作をすることができる。また、この部屋で君は「空の小瓶」を手に入れる。果汁を搾る機会に恵まれれば、これに詰めることができる。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目31〈珍しい植物 (Rare Plants)〉  この部屋には奇妙な姿をした植物が置かれている。  そのうちの一つが、世にも奇妙な植物アルウランである。蒼白いくたびれた老人の顔が鉢から生え、黒々といびつに尖った葉を垂らしている。 「アルウランの根」を引き抜こうとすると、老人の顔は死をもたらす恐ろしい叫び声を上げる。もしこの植物を手にしたいなら、〈従者〉の1人を犠牲にする必要がある。ただし【アンデッド】【ゴーレム】【植物】のタグを持つキャラクターがいれば、叫びによる効果を受けないため、従者を犠牲にすることなく入手できる。  また、細長いゴボウによく似た根菜を見つける。これは独特の眠気を誘う匂いを発しており、「夢魔のバレリアン」と呼ばれる珍しい植物である。  この「夢魔のバレリアン」を手に入れたいときは、【幸運ロール】(目標値:5)を行う必要がある。失敗すると、君は強烈な眠気に襲われ、一時的に意識を失う。その間に「夢魔のバレリアン」は触手を伸ばし持ち物を盗み、土の中へ隠す(君が一番不要としている持ち物に決めてよい)。君自身が盗まれたことに気づくのはだいぶ後になってからになるため、再度挑戦しても持ち物は返ってこない。 「アルウランの根」(金貨30枚の価値)  効果:齧ると神経が昂り興奮状態に陥る。戦闘で使用すると、生命点1点を失う代わりに、その戦闘中は【攻撃ロール】、【防御ロール】+1のボーナスがつく。3回齧ると、効力を失う。   「夢魔のバレリアン」(金貨20枚の価値)  この植物は【気絶】の魔法と同じ効果がある。使用回数は2回。【アンデッド】【精霊】【悪魔】【ゴーレム】には効果がない。  上記二つの植物は、幽玄の空間を出ると、またたくまに枯れて効力を失う。使えるのは今回の冒険のみだ。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目32〈宝石蜻蛉 (Jewel Dragonfly)〉  この部屋は展示室のようだ。絵画や彫像が飾られている。しかし、趣味が高じて製作されたもので、総じて価値があるものはない。  一部の彫像の上で、アクセサリーのようにキラキラと眩しい光を放つ存在があった。近づくと、それはカタカタと翅を動かして天井へと逃げていく。  円筒状の体には、小さな宝石が散りばめられ、両脇に硝子細工の翅がついていた。「宝石蝶」という失われた時代のカラクリに似ていたが、形状は蝶というより蜻蛉だった。さしずめ「宝石蜻蛉」といったところだろうか。「宝石蝶」を参考に、屋敷の主がコビットにでも頼んで制作させたのかもしれない。    合言葉「泣き虫よさらば春の日」を聞いたことがあれば、1匹の「宝石蜻蛉」を呼び寄せ捕らえることができる。 「宝石蜻蛉」は、危機を【察知】すると小さく翅を震わせる。3回これを行うと「宝石蜻蛉」は動かなくなりただの飾りとなる。金貨50枚の価値があるが、【察知】を発動するたびに価値は10枚ずつ減っていく。【察知】のタイミングは任意で決めてよい。  合言葉を知らなければ、この部屋でできることはない。欲にかられて無理やりに「宝石蜻蛉」を捕まえようとすれば、脆い体はこなごなに崩れ去り価値を失ってしまう。「宝石蜻蛉」を捕まえるまで、この部屋には何度も訪れることができる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目33〈山エルフの頭巾 (Mountain Elf Hood)〉  この部屋には、祭事で使われる衣装や装飾品が置かれている。いずれも古びており、実用性はもちろん、骨董品としての価値も低そうだ。その中で、君は一つだけ不釣り合いなものを見つける。  何層もの布で重ねられた「山エルフの頭巾」(金貨50枚の価値)である。「山エルフの頭巾」に防御ボーナスはないが、【毒】、【麻痺】、【刺激臭】を無効化する効果がある。脆い素材のため、【防御ロール】でファンブルを2回してしまうと、破れて効力を失う。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目34〈医務室 (Medical Room)〉  この部屋は医務室である。  部屋の棚には薬品が置かれている。  1d6の結果で、棚から以下のアイテムを見つけることができる。見つけたアイテムは、必要であればここで服用するか、あるいは所持品として持っていくことができる。出目が1〜2だった場合、【幸運ロール】(目標値:4)に成功することで、アイテムを見つけるまで振りなおしてもよい。いずれのアイテムも使用回数は1回である。   ◆出目1〜2:なにも見つけられない。 ◆出目3:「毒蛇の血清」(金貨15枚の価値)……蛇の【毒】を無効化できる。 ◆出目4:「麻痺回復剤」(金貨20枚の価値)……服用しておくと、今回の冒険に限り【麻痺】の影響を受けない。 ◆出目5:「回復草」(金貨10枚の価値)……1人の生命点を1点回復する。 ◆出目6:「回復丸」(金貨50枚の価値)……1人の生命点を最大値まで回復する。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目35 〈武器庫 (Armory)〉  この部屋の壁には、ロッカーのような縦長の鉄扉が並んでいる。鉄扉は全部で6つある。これらの鉄扉のうち、少なくとも3つには魔法の武器が収められている。  ただし1つの鉄扉を開けると、残りのすべての鉄扉は消えてしまう。どれか1つを開けてみるなら、1d6を行うこと。 ◆出目1  鉄扉の内側には毒性のガスが充満しており、主人公は生命点に2点のダメージを受ける。【幸運ロール】(目標値:4)を行うことでこのダメージを1点減らすことは可能だ。 ◆出目2:残念ながら、鉄扉の内側は空っぽである。 ◆出目3:残念ながら、鉄扉の内側は空っぽである。 ◆出目4:鉄扉の内側には、冷気を帯びた魔法の片手剣「スノウソード」が置かれている。「スノウソード」は【攻撃ロール】に+1のボーナスがあり、2点のダメージを与える。ただし氷雪でできた剣のため、時間とともに溶けてしまう。2回の戦闘後、武器としては使用できなくなる。また幽玄の空間から出ると完全に溶けるため、使用できるのは今回の冒険のみである。 ◆出目5:鉄扉の内側には、「聖水銃」(金貨60枚の価値)が置かれている。「聖水銃」はルーンが刻まれた金属製の水鉄砲だ。これを扱うには両手を必要とする。「聖水」を飛び道具として使用した場合、そのときの【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。また【悪魔】のタグを持つクリーチャーに対しても、「聖水」の効果を発揮することができる。使用できる回数は3回まで。1回射撃を行うたびに残り回数が減っていく(クリティカルが発生した場合、連続攻撃を行うことはできない)。魔力を使い果たすと、酷使したことで壊れてしまう ◆出目6:鉄扉の内側には、紅玉を埋め込んだ魔法の兜「クリムゾンヘッド」(金貨100枚の価値)が置かれている。この魔法の兜には、【打撃】の【防御ロール】に+1のボーナスがある。また【炎】の特性を持ち、【炎】の攻撃に対しては+2のボーナスがあるが、【氷】の攻撃に対しては−1の修正を行う必要がある。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目36 自然神の彫像 〈自然神の彫像 (Nature God Statue)〉  この部屋には、野放図に生えた二本のツノを持つ、エルフに似た顔立ちの彫像が祀られている。  下半身は山羊の姿をしており、睡蓮の咲く泉の上に立っている。〈自然神ヴェルディア〉の彫像だ。液体の入った小瓶が備えられており、中は「聖水」(金貨10枚の価値)で満たされている。悪神の信者でなければ、祈りを捧げたのち、これを持っていくことができる。 「聖水」は飛び道具として扱い、【器用ロール】(目標値はクリーチャーのレベル)に成功することで対象1体にぶつけることができる。対象が【強いクリーチャー】かつ【アンデッド】だった場合、2点のダメージを与え、【弱いクリーチャー】の場合にも、2点のダメージを与える(2体を倒す)。  また彫像の前では、次の金貨(または同等の価値のある品)を泉に投げ入れることで、ヴェルディアの奇跡が受けられる。  10枚……生命点2点の回復  20枚……【毒】、【麻痺】からの回復  30枚……【副能力値】2点の回復  さらに、次に振るd66の十の位は、1d3で決定してよい(出目36がすでに出ていて、また出目36が出た場合11へ進んでよい)。    もしも君が悪神の信者であれば、彫像のツノから電撃(生命点に2点のダメージ)が降ってくる。これを受ける気があれば、「聖水」を手に入れることができる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目41〈樹人の囚人 (Prisoner of the Wood Folk)〉  この部屋には1d3+1人の樹人が囚われている。  背丈が低く、いずれも年老いてくたびれた様子だ。  タリンジャが存命だったころ、太古の森の植物を栽培するにあたって連れてこられたようだ。  「食糧」1食分を与えれば、彼らは息を吹き返し、全員付いてきてくれる。(戦う従者: 技量点0 生命点1)  ただし、幽玄の間を出た途端、時が一気に進んだように彼らの姿は急激にしぼみ、枯れて死んでしまう。従者となって手助けしてくれるのは、今回の冒険に限る。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目42〈コビットの幽霊 (The Ghost of Cobbit)〉  この部屋は作業場で、〈コビット〉たちが忙しそうにカラクリ細工の制作に精を出している。彼らの顔色は血が抜かれたようにやせ細り、目の焦点も合っていない。そしてよく目を凝らして見ると、体は透き通っている。  ここにいる〈コビット〉は幽霊である。死後もなお、生前と同じように何者かの命令によって働いているのだ。 〈コビットの幽霊(The Ghost of Cobbit)〉  出現数:1d3+2  レベル:3  宝物:魔法の宝物  ≪反応表≫:1−2は【友好的】 3−4は【ワイロ】(1体につき生命点1点、主人公または【捕虜】から) 5−6は【敵対的】    【友好的】または【ワイロ】成立で、以下のような言葉が聞こえてくる。 「タリンジャは我らの技術をかって、ここで道具やカラクリの制作をさせた。最初は良かった。しかし魔法使いは徐々におかしくなった。まずは我らが逃げ出さぬように足枷をつけた。次に休まず働けるように目が冴える薬を与えた。そして最後に働けば働くほど気持ちが昂ぶる薬をくれた。だから我らは死んでもこうやってガラクタを作り続ける」  また他の一人は次のような文句をつぶやいている。 「泣き虫よさらば春の日。泣き虫よさらば春の日。なんだってカラクリ蜻蛉にこんな言葉を覚えさせないといけないんだ。泣き虫よさらば春の日……」  これまでに「カラクリ蜻蛉」を見かけたことがあれば、ここからその場所(出目32)にもう一度進むことができる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目43〈檻の白馬 (Caged Unicorn)〉  この部屋には檻があり、白馬が囚われている。  雑草のようなたてがみを無造作に伸び散らかして、額には太い一本の角がついている。〈ユニコーン〉だ。  タリンジャはこの場所で〈ユニコーン〉を飼っていたようだ。しかし様子は尋常でなかった。  白馬は口の端から涎を垂らし、目は真っ赤に染まっていた。荒々しい形相で、狭い檻の中で猛り狂っている。長い密閉生活で、〈ユニコーン〉は狂乱している。食事を与えられず空腹なのだろう。  檻の扉にメモが貼られている。 「ユニコーンの乳汁を小瓶に入れるときは、夢魔のバレリアンを使うこと」  この檻を開けないなら、この部屋を素通りして次の〈できごと〉に進むことが可能です。その場合、めくったマップタイルは枚数にカウントする必要はありません。(再び出目43が出たら訪れることができます)    檻を開ければ、〈ユニコーン〉は角を向けて襲いかかってくる。  もしも君が乙女(GMが判断する)であれば、【幸運ロール】を行うことで〈ユニコーン〉は攻撃を思いとどまる。その場合の目標値は4だ。  乙女でなければ、「食糧」2個を差し出すことで〈ユニコーン〉は食事に夢中になり、君から注意を逸らすことができる。  また「夢魔のバレリアン」を所持していれば、それを使用することで〈ユニコーン〉は眠りにつき、戦いを回避できる。   〈ユニコーン〉との戦いを回避できたとき、「空の小瓶」を持っていれば、乳汁を搾り、「白の小瓶」を手にすることができる。  上記いずれの方法も取れない場合は、戦うしかない。 〈発狂するユニコーン(Mad Unicorn)〉  レベル:5 生命点:5 攻撃数:2  宝物:後述 ≪反応表≫:発狂しているため、【死ぬまで戦う】  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。    倒すと、「ユニコーンの角」(金貨50枚の価値)を手に入れる。この角は削って服用することで5回分の解毒作用を発揮する。使用するごとに「ユニコーンの角」の価値は10枚ずつ減っていく。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目44 美女たちの部屋〈美女たちの部屋 (Room of Beauties)〉  部屋に入ると、色白で黒い長髪の美女たちに囲まれる。異国情緒あふれる衣装に身を包み、みなこれまで君が出会ったことがないようなとびきりの美女ばかりだ。うっすらと透き通っているから、死者であるのは間違いない。彼女たちは君に懇願した。 「どうか、私たちの姫様に会ってくれませんか? 姫は我らが頂点、この世で最も美しい女性です」  もし姫様に会うのなら、彼女たちは君に武器をここに置いていくよう強く訴える。姫の前で刃物を持たせるわけにはいかないと言う。  彼女たちの懇願には魅惑の魔力が備わっている。断るには【対魔法ロール】(目標値:4)が必要となる。  失敗した、または判定ロールをせずともその姫様とやらに会いにいくつもりなら、武器を外して出目65へと進め。  会いにいかない、すでに出目65に行っているなら、次の部屋に進むこと。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目45〈魔法の矢 (Magic Arrow)〉  この部屋の壁には、魔法の矢を発射する装置が備え付けられており、床に仕掛けられたスイッチを踏むことで発動される。  それを見破るには【器用ロール】(目標値:3)に成功しなくてはならない。成功したら、君は特定のタイルを避けて部屋を何事もなく横断する。失敗したら、生命点に1点のダメージを受ける。部屋には5つの魔法の矢が設置されているため、この判定ロールは5回行わなければならない。  また【器用ロール】に失敗した場合、さらに【対魔法ロール】(目標値:4)を行い、成功することでダメージを無効にすることができる。  この魔法の矢(金貨35枚の価値)は、避けた数だけ回収して自分のものとすることができる。魔法の矢での攻撃が成功した場合、与えるダメージに+1のボーナスがある。ただし一度使った矢は効力を失う。所持できるのは避けた本数だけだ。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目46 鉄の玉座〈鉄の玉座 (Iron Throne)〉  この部屋の中央には鉄の玉座がある。  そこには何者も鎮座していないが、君はそこに座るべき主の姿をすぐに察する。〈闇の神オスクリード〉、世界を終わりに導こうとする、生きとし生けるものの敵神だ。  タリンジャはオスクリードの信者だったのだろうか?  しかしその座には、神話に聞く王冠を被った骸骨も北極のクマの姿もない。  長居をしていると、床から怨霊が這い出してくる。悶え苦しむ人々の姿だ。君の足を引っ張り、幽玄の空間のさらに奥深くに引きずり込もうとしている。 「聖水」を持っていれば、彼らを追い払うことができる。  また火の魔法の威力は怨霊を混乱におちいらせる。【炎球】を使うか、【炎】特性のアイテムを使用してもよい。  上記の方法がなければ、通常攻撃で倒しても怨霊は無尽蔵に現れ、きりがない。  この状況から逃れるには、10回の防御ロール(目標値:3)行う必要がある。失敗するごとに生命点に1点のダメージを受ける。生きていれば、君は部屋から逃げ出せる。  なんとか逃げおおせた君は、扉を閉める間際に異様な光景を見る。  怨霊は鉄の玉座に集まり、巨大な塊になろうとしていた。タリンジャは恐ろしくて忌わしい存在と関わっていたようだ。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目51〈ゾンビ (Zombie)〉  この部屋はかつて保存食の保管庫だったようだ。  残念ながら、今はだいぶ荒れ果てている。積まれた麻袋は破け、中身は床に散乱し、固形物は細かく砕け、とても口に入れるべき状態ではない。  その原因を作ったであろうものたちが、部屋の中を徘徊していた。  腹の突き出た数体の腐乱死体が、散らばった食材をボリボリと口にしている。  彼らはかつてタリンジャの屋敷を探索し、失敗した冒険者の成れの果てだった。ゾンビとなり、鏡をくぐり抜け、ここまで彷徨ってきたのだ。知性はないが、本能に従って動くアンデッドは生身の肉、つまり君に興味を示した。 〈ゾンビ(Zombie)〉  出現数:1d3+3 レベル:3  宝物:通常  ≪反応表≫:1は【何もしない】 2−6は【死ぬまで戦う】    これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーに対して【炎】の特性を持った攻撃をした場合には、有効な攻撃方法であるため攻撃や呪文などの【判定ロール】に+1の修正を得ることができる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目52〈骸骨 (Skeleton)〉  ここは礼拝堂のようだ。  祭壇があり、知識神ソロンドオルの像が祀られている。右手に天秤、左手に本を携えた学問の神だ。  像の前には魔法の品が供えられている。  しかしその前には動く〈骸骨〉が立ち並んでいる。幽界に迷い込んだアンデッドだ。魔法の品を手に入れたいのなら、戦うしかない。 〈骸骨(Skeleton)〉  出現数:1d6+3  レベル:3  宝物:後述  ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。    「弓矢」で攻撃した場合は、硬い骨には効果が薄いので【攻撃ロール】に-1の修正を受けてしまう。  また【打撃】の特性を持った「接近戦の武器」で攻撃した場合は【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。  勝利すると、ソロンドオル像に供えられた魔法の巻物(金貨100枚の価値)を手に入れる。  これは魔術師以外が読み上げても、【炎球】の魔法を発現させることができる【炎球】のスクロールだ。使用のさいには副能力値を必要としない。3回の使用で効力は消える。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目53 〈低級死霊 (Apprentice Reaper)〉  この部屋は空き部屋のようだ。何もない。  すぐに出ていきたいところだが、空中に浮遊する凶々しい存在があった。行き場を失ってもがき苦しむ〈低級死霊〉たちだ。  幽界をさまよい、ここにきてしまったらしい。  子供が大鎌を持った姿をしているが、現世に怨みや憎しみを持つ彼らは、基本的に、生者に対して攻撃的である。【友好的】な反応であっても、得られるものはない。   〈低級死霊(Apprentice Reaper)〉  出現数:1d3+1  レベル:5  宝物:通常  ≪反応表≫:1は【友好的】 2−3は【ワイロ】(1体につき生命点1点、主人公または【捕虜】から) 4−6は【敵対的】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーは常に【死ぬまで戦う】。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目54〈グール (Ghoul)〉  この部屋は倉庫だ。  よく調べれば役立つものが見つかるだろう。しかし、部屋には腐った肉体を持つ生き物が徘徊している。悪臭を放ち、妄執に取り憑かれたようになにかを探して部屋を彷徨っている。それを邪魔しようものなら、当然襲いかかってくる。  彼らは冒険で朽ち果てた者たちの成れの果て、【グール】だ。体は腐っているが、顔には憎悪が浮かび、動きも素早い。倒せば部屋を探索し、宝を手にすることができる。    〈グール (Ghoul)〉  出現数:1d3  レベル:5  宝物:通常  ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーに対して【炎】の特性を持った攻撃をした場合には、有効な攻撃方法であるため攻撃や呪文などの【判定ロール】に+1の修正を得ることができる。  〈グール〉に対する【防御ロール】に失敗した場合、【アンデッド】【ゴーレム】【植物】のタグを持たないクリーチャーは【麻痺】をもらう可能性がある。【幸運ロール】を行うこと(目標値は〈グール〉のレベル)。  失敗した場合、【麻痺】によってすべての【判定ロール】に-1の修正がついてしまう。この効果は次の〈できごと〉が終わるまで続く。   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目55〈蛮族の幽霊 (Barbarian Ghost)〉  この部屋には、死者の霊が彷徨っている。風体から見て、遠くの地からやってきて、志半ばで廃墟に散った冒険者のようだ。  〈蛮族の幽霊( Barbarian Ghost)〉  出現数:1d3+3  レベル:4  宝物:修正+2  ≪反応表≫:1−3【友好的】 4−5は【ワイロ】(1体につき生命点1点、主人公または【捕虜】から)6は【敵対的】 【友好的】または【ワイロ】で、彼らは以下のことを君に教えてくれる。 「我らはフーウェイを拠点とする冒険者だった。魔法使いに頼まれて太古の森の植物をここまで運んできたのだ。だが謝礼は払われなかった。代わりに疲れがよくとれるからと、白と黒の液体を混ぜたものを飲まされた。毒だった。それで死んだのだ。山エルフの頭巾をつけていたら、こんなことにはならなかったのに」  まだ行ったことがなければ、彼らは祭事場までの道を案内して消える。33へ   --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目56 〈ブラウンアイズ蛇(Brown-eyesd Snake)〉  部屋の隅に麻袋が積んであり、調べると、そこには無数の蛇が潜んでいる。  黒い滑らかな鱗に、珈琲豆によく似た瞳を持つ〈ブラウンアイズ蛇〉である。彼らは普段、集団で麻袋や倉庫の物陰に忍びネズミなどの小動物を待ち構える。 〈ブラウンアイズ蛇(Brown-eyed Snake)〉  出現数:1d3+3  レベル:3  宝物:なし  ≪反応表≫ 1-3は【劣勢なら逃走】 4-6は【敵対的】    小柄ではあるがその毒は侮れない。〈ブラウンアイズ蛇〉の持つ【毒】は筋毒素であり、じわじわと筋肉を破壊していく。  一度でもダメージを受けたら、技量点1点を失うことになる。幸い、幽玄の空間の時間の進みは狂っており、この【毒】の効果が発現するのは、幽玄の空間を出たとき、つまり今回の冒険が終了したときだ。それまでに解毒できれば、このペナルティからは免れる。またこのペナルティは今回のシナリオ(3回の冒険)を終えれば回復できる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目61〈花ゴーレム (Flower Golem)〉  部屋には庭園のような花壇があり、花が咲いている。  低い石垣があり、それに水を与えるものがいる。  石造りのそれは人ではない。華奢でとても好戦的には見えなかったが、君に気がつくと花壇を守る番人として立ち塞がる。 〈花ゴーレム(Flower Golem)〉  レベル:3  生命点:3  攻撃数:特殊  宝物:後述  ≪反応表≫ 1は【機能を停止している】(※逃走と同様)2-6は【死ぬまで戦う】  これは【ゴーレム】に属するクリーチャーであり、攻撃特性は【打撃】である。  戦闘の第0ラウンドでは〈花ゴーレム〉は、強烈な刺激臭を発する。  各キャラクターは【生命ロール】を行うこと(目標値:5)。  判定に成功したなら、この刺激臭に耐えられるので、何も起きない。  判定に失敗したなら、刺激臭によって体調が悪くなる。  今回とその次に起きる戦闘が終わるまで【攻撃ロール】に−1の修正を受けてしまう。  第1ラウンドで〈花ゴーレム〉を倒すことができなかった場合、このクリーチャーは金属製の花びらをぶつけ合い、騒音を立てながら【逃走】する。  他の敵の注意を引きつけてしまうため、次にd66を振るさい、十の桁は5として扱うこと。  花ゴーレムを倒すと、その内側の空間から白い液体の入った小瓶を見つける。「白の小瓶」を手に入れる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目62〈ブナの樹人 (Beech Wood Folk)〉  この部屋の床には土があり、巨木が植えられている。ブナの木の樹人である。  頭は屋根に突き当たり、無理矢理に歪曲し、枝は壁でへし折られている。〈ブナの樹人〉は閉鎖空間で心を狂わせ、攻撃的になっている。   〈ブナの樹人(Wood Folk)〉  レベル:5  生命点:7  攻撃数:2  宝物:なし  ≪反応表≫ 1は【何もしない】 2-6は【敵対的】  これは【少数種族】【人間型】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。 〈樹人〉に対して飛び道具で攻撃した場合、硬い木材には効果が薄い攻撃のため、【攻撃ロール】に-1の修正を受けてしまう(魔法がかけられた射出体であれば、このペナルティを無視してよい)。  また【炎】を用いた攻撃をした時は【攻撃ロール】に+1の修正が得られ、さらに攻撃が命中すれば1点の追加ダメージを与えることができる。  樹人を倒すと、その根本に紫の液体の入った小瓶が転がっている。「紫の小瓶」を手に入れる。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目63〈ファントム (Phantom)〉  この部屋にはたくさんの檻があり、そこには何匹、何種類もの生き物が閉じ込められている。しかしそのほとんどは硬直したかのように動かない。死んでいるのは明らかだが、死体は不思議と腐っていなかった。幽玄の空間の不思議な効力が作用しているのだろうか。  代わりに彼らの無念の魂が、集合して獣の悪霊の姿をとっていた。君を見つけると、火がついたように、部屋の中を縦横無尽に暴れまわる。  〈ファントム (Phantom)〉  レベル:6  生命点:2  攻撃数:2  宝物:通常  ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーは常に【死ぬまで戦う】。ただし、第1ラウンドの終わりには姿が消える。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目64〈石ゴーレム (Stone Golem)〉  この部屋は石畳の敷かれた闘技場のような広間である。  中央に、石を積み上げて造られたような人型の巨像が建っている。次の部屋に移動するには、巨像のそばを通らないといけない。少しでも物音をたてると、巨像はぎこちなく首を動かしたあと、君を標的にする。 〈石ゴーレム(Stone Golem)〉  レベル:5  生命点:8  攻撃数:2  宝物:修正+1 ≪反応表≫ 1は【機能を停止している】(※逃走と同様) 2-6は【死ぬまで戦う】  これは【ゴーレム】【人間型】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  また温度の変化には強いため【炎】や【氷】の攻撃特性を持つ攻撃は効果がない。 〈石ゴーレム〉に対して【斬撃】の特性を持つ武器で攻撃した場合は、大理石の身体には効果が薄いので【攻撃ロール】に-1の修正を受けてしまう。 【打撃】の特性を持った武器で攻撃した場合は【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。  もし、主人公が〈魔法のつるはし〉で攻撃した場合は、それは岩を砕くのに適した武器なので、【攻撃ロール】に+1の修正を得ることに加えて、クリーチャーに与えるダメージは通常よりも1点高くなる(【斬撃】の特性によるペナルティは受けない)。  〈石ゴーレム〉に対して、主人公が【斬撃】の特性を持つ「接近戦の武器」で攻撃したときに、ファンブルが発生した場合は、武器が刃こぼれを起こしてしまう。 その武器が「魔法の武器」でない限り、【攻撃ロール】の修正が1減ってしまう(0以下であれば、修正はマイナスとなる。このペナルティは累積する)。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目65〈プリンセスミイラ (Princess Mummy)〉 「あたし、キレイ?」  君の前にアンデッドが立ち塞がる。  顔は包帯でぐるぐる巻きにされているが、服装は豪奢で若々しく、生前はどこかの貴族の娘だったのかもしれない。  彼女は「あたしキレイ?」と何度も問いかけながら、顔に巻いた包帯をじわじわと外していく。  露わになるのは、乾からびた恐ろしい〈ミイラ〉の貌だ。キレイと答えるものなら、 「あら嬉しいわ、じゃあわたしのしもべになってね」 〈プリンセスミイラ〉は隙をついて、包帯の先に鉄球を巻き付けた武器で先制攻撃を仕掛けてくる。先に2回防御ロールを行うこと。    それ以外の答えなら、 「わたしは醜いってことね、死んでしまえ!」  と、第0ラウンドの攻撃で〈ミイラ〉は毒霧を吹きかける。生命ロール(目標値:6)に失敗すると2点のダメージを受ける。  どちらになるかは君の選択しだいだ。  また美女たちの案内でここに来たのなら、彼女たちは〈プリンセスミイラ〉の従順な僕だ。敵として立ち塞がる。すべて倒してから出ないと〈プリンセスミイラ〉を攻撃できない。   〈ゴーストレディ(Ghost Lady)〉  出現数:1d3+3  レベル:3  宝物:修正+2  反応表:【死ぬまで戦う】    これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーに対して【炎】の特性を持った攻撃をした場合には、有効な攻撃方法であるため、攻撃や呪文などの【判定ロール】に+1の修正を得ることができる。 〈プリンセスミイラ(Princess Mummy)〉  レベル:4  生命点:5  攻撃数:2  宝物:修正+3  ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーに対して【炎】の特性を持った攻撃をした場合には、有効な攻撃方法であるため、攻撃や呪文などの【判定ロール】に+1の修正を得ることができる。また、【炎】の属性を持つ攻撃が成功した場合には、追加で1点のダメージを生命点に与える。          ***   「ペルディタさま……」  倒すと、〈ミイラ〉は自らが憧れていたアンデッドの英雄の名を口にして、塵と化す。 --------------------------------------------------------------------------------- 〇出目66〈オスクリードの巫女 (Demon Shaman)〉  この部屋の中央に、漆黒の衣をまとった女が立っている。  妖艶な美女だが、首筋と額に痛々しい火傷の跡があり、よく見ると右の額に銀剣が突き刺さったままである。女は君を見つめると驚き半分、喜び半分といった表情で話し始める。 「こんなところまで来たのなら、教えてあげる。タリンジャは我が主人と契約して、この幽玄の空間を使えるようになった。ここでは死が安っぽい。研究をするうちにあいつも死を軽んじ、そのためなら簡単に命を殺すようになった。我が主人は言った。もっと深く追求したいのなら、愛するものを殺すがいい。そして動く屍として傍に置くがいい、と。黒と白の液体を呑ませれば簡単だ、と。しかし、タリンジャはできなかった。臆病者のあいつは代わりに自分がそれを呑み、現世に未練を残す悪霊と成り果てた」  お前は誰だ、そう尋ねると女は不敵に微笑んだ。 「私は、このアランツァを死の世界にするために働くもの。オスクリードの巫女」  そう言うと、〈オスクリードの巫女〉は衣の胸元を勢いよく開いた。火傷は全身を蝕んでいた。溶けた肉から、胸骨がむき出しになっている。しかし痛みなど感じていないのだろう。彼女は高位の悪霊だ。 「少しだけ遊んでやろう」 〈オスクリードの巫女(Demon Shaman)〉  レベル:5  生命点:8  攻撃数:3  宝物:魔法の宝物  ≪反応表≫ 1-2は【何もしない】 3-6は【敵対的】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは魔法で攻撃する。  3回攻撃のうち、【気絶】、【氷槍】を一度ずつ唱え、残り1回は長く伸びた爪による【斬撃】である。 【気絶】の対象はプレイヤーが決定する。技量点で【対魔法ロール】を行い、〈オスクリードの巫女〉のレベル(5)以上を出せなければその場に倒れて、戦闘が終了するまで起き上がらない。結果が4か5であれば1体、2か3であれば最大2体、1以下であれば最大3体の従者が【気絶】する。主人公すべてが【気絶】した場合、そこで戦闘は終了する。生命点は半減する(端数は切り上げ)。また気がついたときには装備品を2つ奪われている(プレイヤーが任意で決めてよい)。 【氷槍】の対象はプレイヤーが決定する。【対魔法ロール】を行い、〈オスクリードの巫女〉のレベル(5)以上を出せなければ2点のダメージを受ける。 【斬撃】で防御ロールに失敗したら、1点のダメージを受け、さらに【生命点ロール】を行う必要がある。失敗したら、【麻痺】して動けなくなる。主人公すべてが【麻痺】となった場合、戦闘は終了する。回復する前に〈オスクリードの巫女〉は去っていく。各主人公は装備品を3つ奪われている(プレイヤーが任意で決めてよい)。 〈オスクリードの巫女〉には魔法の武器、または「銀の武器」は非常に有効で、【攻撃ロール】に+1の修正を得る。  ≪反応表≫が【何もしない】であれば、女はそのまま霧のように空気に溶け、姿を消す。【敵対的】であれば、敵の生命点が4以下になるまで戦闘を行うこと。生命点が半減すると、〈オスクリードの巫女〉は敬意を表すかのように魔法の宝物を1つ置いて去っていく。          *** 「面白い……もっと強くなったなら、また逢おう」  立ってこの場に残っていたなら、君はどこか嬉しそうな女の声を聞くことになる。部屋には魔法の宝物が置かれている。 --------------------------------------------------------------------------------- 20:宝物表 --------------------------------------------------------------------------------- ○宝物表(Treasure Table) ≪1d6で決定≫ 出目【1以下】 金貨1枚 出目【2】   1d6枚の金貨 出目【3】   2d6枚の金貨(下限は金貨5枚) 出目【4】   1個のアクセサリー(1d6×1d6枚の金貨と同等の価値) 出目【5】   1個の宝石・小(1d6×5枚の金貨と同等の価値。下限は金貨15枚の価値) 出目【6】   1個の宝石・大(2d6×5枚の金貨と同等の価値。下限は金貨30枚の価値) 出目【7以上】 【魔法の宝物表】でダイスロールを行う。 --------------------------------------------------------------------------------- ●魔法の宝物表(Magic Treasure Table) ≪1d6で決定≫ 出目【1】 〈【祝福】のスクロール(Scroll of Bless Spell)〉 出目【2】 〈焼夷のランタン(Incendiary Lantern)〉 出目【3】 〈アルウランの根(Alraun Root)〉 出目【4】 〈盾甲虫のブローチ(Shield Brooch)〉 出目【5】 〈エスクードの護符(Amulet of Escudo)〉 出目【6】 〈クック・ドール(Cook Doll)〉 --------------------------------------------------------------------------------- ●【1】 〈【祝福】のスクロール(Scroll of Bless Spell)〉  このスクロールは、キャラクター1体にかけられた【呪い】【石化】【麻痺】の効果を、即座に一つだけ取り除くことができる。  1個の〈【祝福】のスクロール〉につき、1回分だけ使用できる。また、使用の際には副能力値を必要としない。 ------------------------------------------------------------ ●【2】 〈焼夷のランタン(Incendiary Lantern)〉  『焼夷のランタン』は、「狭い場所」で【炎球】の魔術を行使したときと同様の効果を発揮する。これは戦闘の第0ラウンドのみ使用可能である。  ただし、使用したときの【魔術ロール】でファンブルが発生した場合、誤って自分が炎に巻き込まれるため、主人公の生命点を1点失ってしまう。  使用できる回数は2回まで。魔力を使い果たすと、ごく普通のランタンになってしまう。 ------------------------------------------------------------ ●【3】 〈アルウランの根(Alraun Root)〉  引き抜くときに恐ろしい悲鳴をあげ、それを聞いたものは発狂して死んでしまうという植物の乾燥根。戦闘の際に「アルウランの根」を齧ると、全身の神経が激しく昂ぶり、一時的に狂戦士化し、本来以上の力を発揮することができる。生命点1点を失う代わりに、その戦闘に限り、【判定ロール】に+2のボーナスを加えることができる。2回で使い切る。 ------------------------------------------------------------ ●【4】 〈盾甲虫のブローチ(Shield Brooch)〉  コビットの作った甲虫型のカラクリにタリンジャが魔法を付加したアクセサリー。  主人公か従者が【打撃】、【斬撃】によるダメージを受けることになった場合、自動で飛んでいき攻撃を防いでくれる。  3回ダメージを防ぐと、盾甲虫は粉々に砕け散る。 ------------------------------------------------------------ ●【5】 〈エスクードの護符(Amulet of Escudo)〉  この護符は、盾神エスクードの加護が与えられている。  主人公が【防御ロール】を行うさい、その判定の結果に+2の修正を得ることができる。サイコロを振った後に、この効果を使用するべきか選ぶことができる。  または、クリーチャーの攻撃によって主人公の生命点が0点以下になってしまう場合、死亡する代わりに、生命点が1点の状態を維持できる(ただし、2回分の使用が必要)。〈エスクードの護符〉は、1個につき2回まで使用できる。使い切ると、護符は灰と化してしまう。 ------------------------------------------------------------ ●【6】 〈クック・ドール(Cook Doll)〉  〈クック・ドール〉は、主人の命令に忠実な魔法の人形であり、主人公の経験点を1点消費することによって起動する(起動してからは装備品欄から従者欄に移動し、主人公の従者点を1点増やす)。  これは【ゴーレム】に属するクリーチャーで、「戦う従者(技量点0、生命点1)」として扱われる。攻撃特性は【打撃】である。  〈クック・ドール〉は、戦闘に参加し生き残るごとに1食分の食糧を製造する。これは〈クック・ドール〉が破壊されるまで続く。〈クック・ドール〉は同行中、常に食糧の材料となるものを収集しているため、トラップの対象となる。  各ラウンドにおいて、ドールを戦闘に参加させるかどうかは、君が自由に選択することができる。  なお一度破壊されたら、二度と起動させることはできない。          ***  カタカタと音を立てながら人型のからくり人形が動き出す。鍋のヘルメット、まな板の盾、何度も取り換えられる清潔感のあるエプロン、腰には、おたまやしゃもじ、トングに調理ばさみ、複数の調理用具が武器さながらに備えられている。〈クック・ドール〉は、料理人をかたどったドールである。いかなる迷宮でも食材の収集に余念がなく、戦闘を終えた冒険者の胃袋を満たす料理を作ってくれる。 --------------------------------------------------------------------------------- 21:中間イベント(1回目) ---------------------------------------------------------------------------------  この部屋では、〈想い出喰らい〉と呼ばれる怪物が、腹を空かせて浮遊している。  蒼白い巨大魚のような姿をしたこの怪物は、半透明な胴体をしており、食べてきた死者のさまざまな記憶の情景をその内側に映し出している。〈想い出喰らい〉を倒すと、怪物は腹の中から最後に食べた情景を吐き出す。 〈想い出喰らい(Memory Eater)〉 レベル:4  生命点:6  攻撃数:1回 宝物:修正+1 ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【怪物】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーによる攻撃は【氷】の特性を持つ。  このクリーチャーには【氷】の特性を持つ攻撃や魔法の効果がない。  このクリーチャーは記憶を喰らう。主人公が【防御ロール】に失敗したら、副能力値が1点失われる。副能力値が0のときは生命点1点のダメージとなる。ここで失われた副能力値は〈想い出喰らい〉を倒しても回復はしない。           ***    以下が、〈想い出喰らい〉が吐き出した情景である。  階段があった。  その上を、灰色のローブをまとった、青ざめた顔の痩せた男が歩いていた。よく見ると腰から下が透き通っていて、宙に浮いているようだ。 「セシル……セシル……ぼくは死ぬことにした。ここで長いあいだ魔法を研究するうちに、心がおかしくなってしまったのだ。だが、君には長く生きていてほしい……今までありがとう」  想い出に声をかけても反応はない。彼は独り言をつぶやいていた。 「君が、赤い果実を好きだったのは気がついていたよ。だから、その果汁は魔法の真鍮ケースで大事に保管している。封印を解く言葉も、君の名前にした」  そう言ったあと、男は壁に吸い込まれるように消えてしまう。 ---------------------------------------------------------------------------------  22:最終イベント(1回目) ---------------------------------------------------------------------------------  出口に、立ち塞がるものがいた。  魔法使いは、侵入者を外に出さぬため番人を用意していた。〈鉄ゴーレム〉だ。 〈鉄ゴーレム(Metal Golem)〉 レベル:5  生命点:6  攻撃数:特殊(※後述を参照)  宝物:通常 ≪反応表≫ 1は【機能を停止している】(※逃走と同様) 2-6は【死ぬまで戦う】  これは【ゴーレム】に属するクリーチャーである。冷気に対する耐性を持っているため、【氷槍】のような【氷】の攻撃特性を持つ攻撃は効果がない。 〈鉄ゴーレム〉に対して【斬撃】の特性を持つ武器で攻撃した場合は、金属製の身体には効果が薄いので【攻撃ロール】に-1の修正を受けてしまう。 【打撃】または【雷】の特性を持った武器で攻撃した場合は【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。 〈鉄ゴーレム〉は、両腕が改造されている個体も珍しくはない。このクリーチャーに遭遇したさいには、1d6を振ること。  出目が1から2なら、両腕に鋭利なギロチンの刃が搭載されている。その攻撃数は2回で、攻撃特性は【斬撃】である。  さらに装甲も強化されている。そのため〈鉄ゴーレム〉の生命点は7点として扱う。  出目が3から4なら、両腕に大型のらっぱ銃が搭載されている。これは接近戦でも扱える。その攻撃数は4回で、攻撃特性は【打撃】である。  戦闘の第0ラウンド、またはラウンド数が偶数であれば、〈鉄ゴーレム〉はらっぱ銃を発砲する。  この攻撃は「飛び道具」として扱われる。ラウンド数が奇数であれば、〈鉄ゴーレム〉は射出体を再装填しているため、そのラウンドでは攻撃をしてこない。  もし〈鉄ゴーレム〉の生命点が3点以下になれば、片方のらっぱ銃を破損させるのに成功する。以後、クリーチャーの攻撃数は1として扱う。  出目が5から6なら、両腕に巨大な鎖鉄球が搭載されている。その攻撃数は1回で、攻撃特性は【打撃】である。  各キャラクターが〈鉄ゴーレム〉から負傷を受けた場合、鉄球を勢いよくぶつけられるため、生命点に2点のダメージを受けなければならない(対象が従者なら、ダメージを受けるのは1人でよい)。  もし、主人公の【防御ロール】でファンブルが発生したなら、魔法のものでない盾を装備している場合、通常のダメージに加えて、盾が破壊されてしまう。  魔法の盾を装備している場合には、通常のダメージのみを受ける。  鉄の肌を保つ人型の猛者が、戦斧を持って、通るものたちを攻撃してくる。  この魔法生物を倒さない限り、君は外の世界に戻ることはできない。           *** 〈鉄ゴーレム〉の体が壊れると、その内側から油がかった色をした「鉄瓶」が現れる。中には何も入っていなかった。きれいに洗われているようだ。魔法の品であるのはたしかだが、どんな効果があるのかはわからない。果実酒の材料を手にした君は、鏡を通り、外の世界へ帰還する。冒険の終わりへ(1回目) --------------------------------------------------------------------------------- 23:冒険の終わり(1回目) ---------------------------------------------------------------------------------  三種類以上の小瓶を入手して、君はミッチと祖母の元に戻った。  さて、本番はここからだ。  葡萄酒と小瓶の液体を混ぜ合わせることによって果実酒は出来上がる。しかし祖母にとっての懐かしの味が出るかどうかは、その三種類が合っている場合に限る。それに、そもそも上手に混ぜ合わせることができるか、君は不安だった。うまくいかなければ二人をがっかりさせるだけだ。 「待てぃ!」  そんな不安を抱え実行できずにいると、威勢の良い掛け声とともに扉を開かれた。口元に白いナマズ髭をたくわえた、目つきのするどい老人が入ってくる。 「ドラムじいさん、きてくれたんだね!」  ミッチが声を弾ませた。 「ああ、セシルは古き友人だからな。大事な一杯を素人には任せられんわい」  ドラム老人は、ミッチが下働きに出ている酒屋の主人だった。今でこそ息子たちに経営をゆずっているが、かつては『騒ぎすぎる白鯨』亭の店主を務め、客たちに美酒を振る舞っていたという。  酒作りのことならわしに任せろと、ドラムは自信たっぷりに胸を叩いた。勢いに押され、君も思わず、シェイカーと小瓶を手渡してしまう。  材料を受け取ると、彼は慣れた手つきで葡萄酒と液体を混ぜ合わせ、シェイクをし始めた。その姿は、まるでドラゴンに挑まんとする古強者の戦士のようにすらみえる。  やがて、しゃかしゃかと揺らしていた腕の動きを止め、老人はゆっくりと中身をグラスに注いだ。 「ばあちゃん」  ミッチがグラスを受け取り、うれしそうな顔をして祖母に差し出した。  ベッドで半身を起こした老女は、おそるおそるといった風で、グラスの中身を口に流し込む。    さて、君が持ち帰った小瓶は、どの色の組み合わせだったろうか? 四種類以上持ち帰っていても、混合できるのは三種までだ。その場合はこれだと思う組み合わせを選ぶこと。  赤 白 紫 →23−1  赤 白 黄 →23−2  赤 白 黒 →23−4  赤 黄 紫 →23―3  赤 黄 黒 →23−3  赤 紫 黒 →23−3  白 紫 黄 →23−1  白 紫 黒 →23−4  白 黄 黒 →23―4  紫 黄 黒 →23−3 ---------------------------------------------------------------------------------  23−1 「ばあちゃん、おいしいって」  ミッチはそう言ったが、祖母の顔色は冴えなかった。 「でも、思い出の味とはちがうみたい」  残念ながら、君の集めた小瓶の組み合わせは、求めていたものと違っていたようだ。  それでも二人は君に礼を言った。  見つけた宝物の価値の半分の金貨をミッチに渡すこと。端数がでた場合は君の判断に委ねる。  ドラムじいさんは自分の責任でもあるかのように、うなだれている。もし君が望むなら、しばしの休息をとって、再挑戦してもよい。その場合は、冒険のはじまり(2回目)へと進むこと。   ---------------------------------------------------------------------------------  23−2 「ばあちゃん、おいしいって!」  ミッチがそう言うと、祖母もうんうんとうなずいていた。皺まみれの顔がほころんでいる。 「ほとんど思い出の味といっしょだって!」  どうやら君の集めた小瓶の組み合わせは、求めていたものと同じだったようだ。  二人はとても喜び、君に礼を言った。  君が見つけた宝物の一部を渡そうとすると、ミッチは断固としてことわる。宝物は全部、自分のものにして良い。  ドラムじいさんはどこか腑に落ちない顔をして、ぶつぶつとつぶやいていた。どうかしたのか聞くと、 「ほとんどということは、何かがちがうんじゃな」  それが何かわかれば、より懐かしの味の果実酒を作れるはずじゃがと、ドラムは考え込んだ。 「おぬし、またあの幽霊屋敷に行く気があるか?」  ドラムがたずねた。承諾するなら、冒険のはじまり(2回目)へと進むこと。  各主人公は、経験点1点を獲得する。 ---------------------------------------------------------------------------------  23−3 「ばあちゃん、おいしくないって」  ミッチがそう言うと、祖母は顔をしかめながら、うつむいた。 「せっかく行ってもらったのに、申し訳ないわねえって」  祖母は、じっと君を見つめた。彼女にとって大事なのは果実酒ではなく、孫娘の未来なのだ。  見つけた宝物の1/3以上の価値の金貨をミッチに渡すこと。端数がでた場合は君の判断に委ねる。  ドラムじいさんは自分の責任でもあるかのように、うなだれている。もし君が望むなら、しばしの休息をとって、再挑戦してもよい。その場合は、冒険のはじまり(2回目)へと進むこと。    ---------------------------------------------------------------------------------  23−4  果実酒を口にして、すぐに祖母はそれを吐き出した。  目を白黒させ、泡を吹いた。 「ばあちゃん、大丈夫!?」  ミッチは慌てふためいた。ドラムも君も、あまりの反応に唖然とする。まずいというより、混合物には毒性さえ発生したようだ。  祖母は数日のあいだ寝込んでしまう。治療費のため、君は持ち物を金貨に替え、全額をその治療費に充てる始末となった。  幸い、命は取り留めた。 「愚かなことをしてしまった」  君同様、ドラムも責任を感じているようだ。 「次は、同じ組み合わせはしないことだ」  彼は、君に再挑戦を促した。そのつもりなら、冒険のはじまり(2回目)へ進むこと。 --------------------------------------------------------------------------------- 24:中間イベント(2回目) --------------------------------------------------------------------------------- 〈想い出喰らい〉が、イライラしたような激しい動きで、空中を右往左往して泳いでいる。〈想い出喰らい〉には目の機能がない。代わりに伸びた長いひげが、侵入者に気付いてピクリと動く。 〈想い出喰らい(Memory Eater)〉 レベル:4   生命点:6   攻撃数:2回  宝物:修正+2 ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【怪物】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーによる攻撃は【氷】の特性を持つ。  このクリーチャーには【氷】の特性を持つ攻撃や魔法の効果がない。  このクリーチャーは記憶を喰らう。主人公が【防御ロール】に失敗したら、副能力値が1点失われる。副能力値が0のときは生命点1点のダメージとなる。ここで失われた副能力値は〈想い出喰らい〉を倒しても回復はしない。          ***  以下が、〈想い出喰らい〉が吐き出した情景である。  灰色のローブをまとった、痩せた男が部屋の中央に立っていた。  蒼白い顔。両手で大事そうに天秤を抱え、両目を寄せてじっと見つめている。よく見ると、男の腰から下は闇に溶けるように存在が薄かった。 「我が神ソロンドオルよ。魔法の研究をするあまり、私は魔に魅入られてしまった。魔法の罠や道具でいかに人を殺めるか、そればかり考えるようになってしまった。このままでは愛おしいものまで危険に晒してしまいます。だから自ら命を絶つことに決めました。黒と白の液を混ぜて、私は死者の国の住人となります」  天秤の両側には、白と黒の小瓶があった。  男は口を広げると、二つの小瓶の中身を一息に流し込んだ。目を大きく見開いたかと思うと、唇の両端から吐血し、その場にうずくまり悶え苦しんだ。すぐに動かなくなる。  もし君がその動きを止めようとしても、すべては誰かの記憶のような幻影で、触れることも声を届けることもない。幽玄の光景はやがて消える。 --------------------------------------------------------------------------------- 25:最終イベント(2回目) ---------------------------------------------------------------------------------  君は、小瓶を集めたことに安堵し、出口へと向かう。  しかしどこから現れたのか、巨大な蛇が、出口の鏡の前で、どっしりととぐろを巻いて居座っている。  黒光りした壺を抱きかかえるように、それを中心に輪を広げていた。味わうように、火のような赤い舌を壺に出し入れしている。壺には酒が入っているのか、甘みをともなう芳ばしい匂いが漂ってくる。  大蛇の鱗はところどころ剥げ落ち、皮膚は腐り、骨が見えていた。  この大蛇は自分の死に気がつかず動いているアンデッドの蛇、〈ゾンビパイソン〉だ。倒さない限り、外へは出られない。 〈ゾンビパイソン(Zombie Python)〉  レベル:4  生命点:5  攻撃回数:2  宝物:修正+1  ≪反応表≫:【死ぬまで戦う】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーに対して【炎】の特性を持った攻撃をした場合には、有効な攻撃方法であるため攻撃や呪文などの【判定ロール】に+1の修正を得ることができる。          ***    〈ゾンビパイソン〉が抱えていた酒壺は、戦いの最中に割れ、鼻につく臭気を部屋全体に撒き散らしている。赤みがかった紫の液体だった。すでに床に染み渡っているため、空の小瓶を持っていたとしても詰めることはできない。 --------------------------------------------------------------------------------- 26:冒険の終わり(2回目) ---------------------------------------------------------------------------------  君はふたたび三種の小瓶を手に入れて、ミッチと祖母の元へ帰った。今回もドラムが、狂戦士と相対でもするかのような勇ましい手つきで、混合した液をシェイクする。  さて、君が持ち帰ったのは、どの色の組み合わせだったろうか? 四種類以上持ち帰っていても、混合するのは三種までだ。その場合はこれだと思う組み合わせを選ぶこと。  赤 白 紫 →26−1  赤 白 黄 →26−2  赤 白 黒 →26−4  赤 黄 紫 →26―3  赤 黄 黒 →26−3  赤 紫 黒 →26−3  白 紫 黄 →26−1  白 紫 黒 →26−4  白 黄 黒 →26―4  紫 黄 黒 →26−3 ---------------------------------------------------------------------------------  26−1 「すごくおいしいって!」  ミッチは喜んだ。  祖母も頬を緩めているように見える。 「でも思い出の味とは、ちょっとちがうみたい」  残念ながら、君の集めた小瓶の組み合わせは、求めていたものと違っていたようだ。  見つけた宝物の価値の半分の金貨をミッチに渡すこと。端数がでた場合は君の判断に委ねる。  ドラムじいさんは悔しそうにしている。もし君が望むなら、しばしの休息をとって、三たび挑戦してもよい。その場合は、冒険のはじまり(3回目)へと進むこと。 ---------------------------------------------------------------------------------  26−2 「ばあちゃん、おいしいって!」  ミッチがそう言うと、祖母もうんうんとうなずいていた。皺まみれの顔がほころんでいる。 「こんな味だったのかもって」  どうやら君の集めた小瓶の組み合わせは、求めていたものと同じだったようだ。  君が見つけた宝物の一部を渡そうとすると、ミッチは断固としてことわる。宝物は全部、自分のものにして良い。  ドラムは、じっとミッチの祖母の表情をうかがっていた。 「こんな味だったのかも、とはどういうことじゃ? 完全に一致してはいないのか?」  ドラムはセシルに問いかけた。セシルは申し訳なさそうに首を縦に振る。  ドラムは君をみた。 「すまんが、もう一度いってくれるか?」  承諾するなら、冒険のはじまり(3回目)へと進むこと。  各主人公は、経験点1点を獲得する。   ---------------------------------------------------------------------------------  26−3 「ばあちゃん、おいしくないって」  ミッチがそう言うと、祖母は顔をしかめながら、うつむいた。 「せっかく行ってもらったのに、申し訳ないわねえって」  祖母は、じっと君を見つめた。彼女にとって大事なのは果実酒ではなく、孫娘の未来なのだ。  見つけた宝物の1/3以上の価値の金貨をミッチに渡すこと。端数がでた場合は君の判断に委ねる。  ドラムじいさんは自分の責任でもあるかのように、うなだれている。もし君が望むなら、しばしの休息をとって、三たび挑戦してもよい。その場合は、冒険のはじまり(3回目)へと進むこと。 ---------------------------------------------------------------------------------  26−4  果実酒を口にして、すぐに祖母はそれを吐き出した。  目を白黒させ、泡を吹いた。 「ばあちゃん、大丈夫!?」  ミッチは慌てふためいた。ドラムも君も、あまりの反応に唖然とする。まずいというより、混合物には毒性さえ発生したようだ。  祖母は数日のあいだ寝込んでしまう。治療費のため、君は持ち物を金貨に替え、全額をその治療費に充てる始末となった。  幸い、命は取り留めた。 「愚かなことをしてしまった」  君同様、ドラムも責任を感じているようだ。しばしの休息をとって、三たび挑戦してもよい。その場合は、冒険のはじまり(3回目)へと進むこと。   --------------------------------------------------------------------------------- 27:中間イベント(3回目) ---------------------------------------------------------------------------------  これまでで一番大きな〈想い出喰らい〉が、部屋をゆったりと泳いでいる。半透明の巨体の内側で、多くの思い出が流れては溶けていく。  怪物はまだ喰らいたりないようだ。大きな口を開いて、君の思い出も飲み込もうとする。 〈想い出喰らい(Memory Eater)〉 レベル:5   生命点:8  攻撃数:2回  宝物:修正+3 ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【怪物】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーによる攻撃は【氷】の特性を持つ。  このクリーチャーには【氷】の特性を持つ攻撃や魔法の効果を受けない。  このクリーチャーは記憶を喰らう。主人公が防御ロールに失敗したら、副能力値が1点失われる。副能力値が0のときは生命点1点のダメージとなる。  ここで失われた副能力値は〈想い出喰らい〉を倒しても回復はしない。          ***  以下が、〈想い出喰らい〉が吐き出した情景である。  灰色のローブを着た痩せた男がテーブルで研究をしていると、檸檬色の服を着た女性従者が扉から入ってくる。 「タリンジャさま、お食事を用意しました」 「いらない」 「もう何日もまともに食べていません、お体にさわります」 「もういいからセシル、出ていってくれ。ぼくは一人で研究をしたいのだ」 「でも……」 「いいから、その指環は預けておくが、もうここには入ってくるな。幽玄の空間に長居してはいけない」 「では、外のお屋敷の方だけでも」 「いや、そっちもいい。もうこの屋敷から出ていってくれ。君には辞めてもらう。金も払う。もう邪魔なんだ」  女は表情を曇らせた。  灰色のローブの男は、気まずそうに顔を背ける。 「でもタリンジャさま、私は……」 「うるさい、黙れ、出ていけと言ったら出ていけ、いますぐにだ。それとも、もっと金が欲しいのか? 所詮は君も金目当てだったのだな」  男は声を荒げ、そのまま女に背を向けた。肩がかすかに震えている。  君の場所からは、男の顔がよく見えた。  口元はきつく結ばれ、ぐっと瞳も閉じられている。  従者の女セシルは、静かに頭を垂れた。そして、そのままうつむいて部屋を出て行こうとする。 「待て」  男は、棚からグラスをとると、机に置いてあった油色をした鉄瓶から液体を注ぐ。  最後に檸檬を絞り、黄色い果汁を付け足した。 「君のために作った果実酒だ。別れの一杯だ。飲んでくれ」  従者の女は恐縮しつつもそれを受け取り、口につける。 「美味しい……」  幻影はそれで終わりだ。  残ったのは何もない古びた部屋だけである。 --------------------------------------------------------------------------------- 28:最終イベント(3回目) ---------------------------------------------------------------------------------  いざ、幽玄の空間を出ようと最後の部屋にたどり着いたとき、灰色の衣を着たものが宙に浮かんで待っていた。  突風が吹いたかのように頭のフードがはためくと、恐ろしい死者の顔が現れた。その表情は怨念で醜く歪んでいる。 「我が思い出を踏みにじるものに、永劫の死を」  悪霊〈レイス〉となったタリンジャだ。変わり果てた姿で、君に襲いかかる。 〈レイス〉  レベル:6   生命点:6   攻撃数:後述   宝物:魔法の宝物表  ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【アンデッド】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは呪文以外の攻撃手段を持たない。 〈レイス〉は主人公1人、または〈戦う従者〉の集団ひとつのどちらかを攻撃する。  主人公を選んだ場合、〈レイス〉は【氷槍】の呪文を唱える。主人公は【対魔法ロール】を行い(目標値は〈レイス〉のレベル)、失敗すると生命点に2点のダメージを受ける。この攻撃は【氷】の特性を持つ。 〈戦う従者〉を選んだ場合、〈レイス〉は【炎球】の呪文を唱える。(集団はプレイヤーが決定する)。この場合、狙われた「戦う従者」は技量点で【対魔法ロール】を行い、〈レイス〉のレベル(6)以上を出せなければその場に倒れて、戦闘が終了するまで起き上がらない。達成値が4か5であれば1体、2か3であれば最大2体、1以下またはファンブルであれば最大3体の従者が、生命点に1点の炎によるダメージを受ける。          ***  勝利すれば、君は、彼の最後の声を聞く。 「セシルよ……わたしは君が仕えるようなやさしい人間にはなれなかった……魔法の研究に、いや最後は魔に取り憑かれてしまったのだ……すまない」  この世から消えるほん一瞬だけ、悪霊となったタリンジャは本来の自分を取り戻したようだ。 --------------------------------------------------------------------------------- 29:冒険の終わり(3回目) --------------------------------------------------------------------------------- 「よう帰ってきた」  ドラム老人は、鉄瓶にラズベリー酒を入れて君の帰りを待っていた。ラズベリー酒は、息子の経営する酒場から持ち出した年代物のようだ。  老人は君から小瓶を受け取ると、シェイカーに混ぜ、英雄の剣を鍛える鍛冶師のように気合いを入れて、上下左右に揺らしはじめる。    さて今回、君が持ち帰った小瓶は、どの色の組み合わせだっただろうか?    赤 白 紫 →29−1  赤 白 黄 →29−2  赤 白 黒 →29−4  赤 黄 紫 →29―3  赤 黄 黒 →29−3  赤 紫 黒 →29−3  白 紫 黄 →29−1  白 紫 黒 →29−4  白 黄 黒 →29―4  紫 黄 黒 →29−3 ---------------------------------------------------------------------------------  29−1 「すごくおいしいって!」  ミッチは喜んだ。  祖母も頬を緩めているように見える。 「でも、これは思い出の味とは、ちょっとちがうみたい」  残念ながら、君の集めた小瓶の組み合わせは、求めていたものと違っていたようだ。  見つけた宝物の価値の半分の金貨をミッチに渡すこと。端数がでた場合は君の判断に委ねる。 「そうか……」  ドラムは落胆していた。 「もう探索し尽くしたはずじゃ。これ以上は無理じゃろう」 「そうね、三回やってダメだったんだもんね。もう充分」  ミッチもドラムも、思い出の果実酒を作ることをあきらめていた。  君は、申し訳ない気持ちになる。残念ながら、君は冒険の目的を達成できなかった。  彼らに別れを告げ、君は次の冒険を探してトーンの街へ歩き出す。(完)   ---------------------------------------------------------------------------------  29−2 「すごくおいしいって!」  ミッチは喜んだ。  祖母は目を見開き、顔をあげた。  一瞬、彼女の若き日を思わせるほど、その表情は穏やかで安らいでいた。微笑みを浮かべながら、ありがとうと、君にも聞き取れる声で礼を言った。  今回の冒険で得られた品を金貨に替えてミッチに渡そうとしても、彼女はすべて断る。君は獲得したものは全部自分のものにできる。経験点1点を獲得する。  そのあと祖母は、昔を懐かしむように、ゆっくりと果実酒の味を楽しんでいた。  やがて、すべて飲み干すと、祖母はからのグラスを見つめながら、ぼそぼそとひとり言をつぶやいた。  ミッチがそれを聞き取って、小声で教えてくれる。 「タリンジャさまは、根はやさしいおとなしい方だった。だけど、魔法の研究をするうち、何かに取り憑かれたようになって、しだいに命を粗末に扱うようになってしまった。私は止めたかった。でも無理だった。ああ、この果実酒を作ったときのタリンジャには、まだやさしい心が残っていたはずなのに」  エピローグへ ---------------------------------------------------------------------------------  29−3  「ばあちゃん、おいしくないって」  ミッチがそういうと、祖母は顔をしかめながら、うつむいた。 「せっかく行ってもらったのに、申し訳ないわねえって」  祖母は、じっと君を見つめた。彼女にとって大事なのは果実酒ではなく、孫娘の未来なのだ。  見つけた宝物の1/3以上の価値の金貨をミッチに渡すこと。端数がでた場合は君の判断に委ねる。  「そうか……」  ドラムは落胆していた。 「もう探索し尽くしたはずじゃ。これ以上は無理じゃろう」 「そうね、三回やってダメだったんだもんね。もう充分」  ミッチもドラムも、思い出の果実酒を作ることをあきらめていた。  君は、申し訳ない気持ちになる。残念ながら、君は冒険の目的を達成できなかった。  彼らに別れを告げ、君は次の冒険を探してトーンの街へ歩き出す。(完)  ---------------------------------------------------------------------------------  29−4  果実酒を口にして、すぐに祖母はそれを吐き出した。  目を白黒させ、泡を吹いた。 「ばあちゃん、大丈夫!?」  ミッチは慌てふためいた。ドラムも君も、あまりの反応に唖然とする。まずいというより、混合物には毒性さえ発生したようだ。  祖母は数日のあいだ寝込んでしまう。治療費のため、君は持ち物を金貨に替え、全額をその治療費に充てる始末となる。  幸い、命は取り留めた。 「愚かなことをしてしまった」  君同様、ドラムも責任を感じているようだ。ミッチもドラムも、思い出の果実酒を作ることをあきらめていた。  君は、申し訳ない気持ちになる。残念ながら、君は冒険の目的を達成できなかった。  彼らに別れを告げ、次の冒険を探して、君はトーンの街へ歩き出す。(完) ---------------------------------------------------------------------------------  30:エピローグ ---------------------------------------------------------------------------------  まもなく、ミッチの祖母は寿命を全うした。  もし、彼女の飲んだ果実酒が思い出と同じ味であったなら、棺に納められたその顔は、満ち足りた微笑みを浮かべていた。若々しい乙女のようですらあったという。  さて、ミッチは報酬などいらないやいと意地を張っていたが、今後の生活の途方に暮れている様子だった。  君は入手した魔法の品を金貨に変えて、さらに彼女に与えることができる。  金貨30枚もあれば、しばらくは楽に暮らせるだろう。 「もう行くの?」  ミッチの質問に、君はそうだな、と短く答える。  収穫祭も終わり、本格的な冬がやってくる。トーンは居心地のいい街だったが、そろそろ潮時だと感じていた。次の冒険が待っている。 「いろいろありがとうね」  彼女はそばかすだらけの頬をぬぐった。  ミッチは天涯孤独となってしまった。気にかけてくれる大人はいたが、少し心配ではあった。 「そうだ、ばあちゃんの果実酒を作ったその鉄瓶をあたいにおくれ。宝物にするんだ」  言われるがまま、君は鉄瓶を渡した。 「さよなら、きっとまた会いに来てね。この恩は、絶対に忘れないから」  それを最後に、君は少女と別れた。            ***  その後、ミッチはドラムの息子夫婦に引き取られた。しばらくは家事手伝いを住み込みでやっていたが、やがて夫婦に養女として迎え入れられた。  ドラム老人はこの義理の孫娘をよく可愛がり、暇さえあれば、自分の酒造りの技術を教えたようだ。  さらに年月が経ち、成長したミッチは、『騒ぎすぎる白鯨』亭の看板娘としてカウンター越しに酒を振る舞うようになった。  顔中にあったそばかすは愛らしいチャームポイントとなり、痩せっぽちだった体は、女性らしい体型に成長していた。ミッチは気さくで明るく、祖母ゆずりの働き者だった。よく笑い、ときには自分が少女時代に雇った冒険者の話を、初恋でも語るかのように自慢げに客たちに聞かせていた。  また、彼女が祖母の形見の鉄瓶で作ったという果実酒は、街でたいそうな評判となった。噂はトーンの外にも広がり、遠い土地からわざわざ味を求めに客が訪れるほどだ。  ミッチは忙しくも、充実した日々を送っていた。  もしも君が、遠目からでも彼女を見る機会に恵まれたのなら、その姿は幸せそうに見えたことだろう。  彼女の作った果実酒は、『幽霊屋敷の果実酒』と銘打たれ、多くの冒険者を喜ばせ、いつまでも店内を賑わせていた。                      (完)