1:ローグライクハーフd66シナリオ「蛇禍の悪魔」 作:火呂居美智 監修:杉本=ヨハネ、紫隠ねこ  これは「ローグライクハーフ」のd66シナリオです。少し経験を積んだレベルの主人公1人と従者、または主人公2人での冒険に適しています。 ・ジャンル:ファンタジー ・難易度:普通 ・形式:シナリオ(d66) ・世界:共通世界(アランツァ) ・ゲームマスター:不要 ・プレイヤー数:1-2人 ・プレイ時間:20-40分 ・適正レベル:13-15 ・対象年齢:10-99歳   ――――――――――――――――――――― 2:「ローグライクハーフ」を遊ぶにあたって  「ローグライクハーフ」はルールを確認した後に遊ぶゲームです。新ジャンルではありますが、区分するなら「1人用TRPG」にもっとも近いといえます。ルールは下記アドレスで確認することができます(無料)。 ライセンスロゴ https://ftbooks.xyz/ftnews/article/RLH-100.jpg https://ftbooks.xyz/ftnews/gamebook/RogueLikeHalf_BasicRuleSet.txt  PDF版は下記アドレスで入手可能です(要BOOTH会員登録)。  また、紙の書籍でのルールを入手したい場合も、こちらから購入が可能です。紙の書籍には1stシナリオ『黄昏の騎士』が収録されています。 https://ftbooks.booth.pm/items/4671946 ――――――――――――――――――――― 3:冒険の概要  ラドリド大陸の南東に位置するポロメイア小国家連合は、独立性を持った都市や集落が手を取り合って、地域の安定を保っていた。  主賓国であるポロメイアはその象徴で、多民族、多種族が交わる人心の豊かな都市だった。人々は陽気で、余所者に対する警戒心はあるものの、打ち解けてしまえば気前がよく、歓待をおしまない。  君も、そのような気風を期待して、この国を訪れた。  しかし、街の空気はよどんでいた。  強い日差しが白亜の屋根を照らしているが、影がやたらと濃く感じられる。往来では口喧嘩をよく見かけた。それは些細なきっかけが血生臭い争いに発展することも珍しくなかった。客商売の笑顔も張り付いたようなよそよそしいもので、心を閉ざしたように感じられる。  まもなくして、ポロメイア王から国民に対して重要な通告が出されていることを知った。 「風の強い日には外出をしないこと。特に北西風の日は、外出禁止」 「やむなく外出する場合、砂にまみれた衣服は必ず聖水で清めるか、燃やして処分する」 「怒りなど感情の昂りを感じたら、半日は人に会わないよう部屋にこもること」  いつまで続く布令なのかわからないが、長びけば国民の生活や経済に大きな影響が出るのは間違いない。やがて、エドガー王から冒険者を募る公示があった。そこで君も街を混迷に陥れる原因を知った。  悪魔が、砂漠からの風にのせて混乱の種を撒き散らしていた。それに感化した人びとは、感情を抑えることが出来ずに、他人に危害を加えてしまうのだ。 ――――――――――――――――――――― 4:プロローグ  その日、死者の塔に常駐する監視兵の一人は見た。  隣に並び立つ生者の塔の窓が破られ、長い尾鰭のついた黒煙のようなものが、空中へ飛び出すのを。  黒煙は蛇のように身をくねらせ、塔の上部から墜落し、そのあと何かを振るい落とすように身震いをしながら高く舞い上がった。  何も見えないのか、しばらくは塔の周りを旋回していたが、やがて先端と側面から、幼い顔と手が現れた。  まだあどけない少女の顔だ。しかし、戸惑いと憂いに満ちた瞳はこの世に非ざるものだった。  監視兵は青ざめて叫ぶ。 「だ、だれか早く来てくれ! 悪魔だ、分離治療は失敗した。蛇禍の悪魔が塔から逃げだした!」 ***  瞼を閉じると、真っ暗なはずの視界に女の顔が映る。  頬と額が、ぼんやりとした灰色をしている。  瞳の奥に、さらに深い穴の底ような漆黒がある。  太く筋の通った鼻梁。耳に近いところまで伸びた口の端。 「私に全てゆだねればいい」  女の口が割れて、不揃いの歯が月夜の山陵のように浮かんだ。口腔内は血のように赤い。 「私と代われ」  もう一度、そう言われた。 「そうすれば、お前の願いを叶えよう」  私の願い? 「そうだ、お前は父を許せない。殺したいと願っているのだ。父とその取り巻きたちをこの砦から排除したい。だが勇気がない。だから私に代われ。そうすれば、私がお前の願いを叶えよう」  その声は、深い暗闇から響く囁きのように彼女を惑わせた。   ――――――――――――――――――――― 5:ゲームの概要 「ローグライクハーフ」へようこそ。このゲームは1人(または2人)で遊べるTRPGのようであり、ゲームブックのようでもあり、ダンジョンハック系の電源ゲームをアナログゲーム化したようでもあり……。ゲームマスター(GM)はいてもいなくても遊べます。つまり、1人から3人までで遊ぶゲームです。  プレイヤーとしてゲームに参加する場合、あなたは自分の分身である「主人公」を作成します。これは「冒険者」とも呼ばれる、万能ではないが十分に強いキャラクターです。プレイヤーが(つまり主人公が)1人の場合、7人前後の従者とともに冒険を開始します。プレイヤーが2人の場合、従者なしで冒険を行います。  冒険はd66を振り、出目に対応したできごとを確認していくことで成立します。ある地点に到達すると中間イベントや最終イベントが発生して、物語が進行します。   ――――――――――――――――――――― 6:ゲームの特徴 「ローグライクハーフ」のシナリオは、短い時間でTRPGを遊んだような満足感を与えてくれます。部屋を探索し、ワナをかいくぐり、敵を蹴散らして、最終的な目的へと臨みます。  しかし、気をつけてください。冒険の一部はランダムで形成されているため、必ずしも成功するとは限りません。判断を誤り、運に見放されたとき、あなたの大切なキャラクターは、砂漠の生き物に骨まで喰われるか、あるいは底なしの砂に埋もれて、永い眠りにつくことになるでしょう。   ――――――――――――――――――――― 7:ゲームに必要なもの  筆記用具と六面体サイコロ1個があれば、すぐにもゲームをはじめられます。「冒険記録紙」をプリントアウトしておくと、手もとで情報を管理できて遊びやすいでしょう。 ――――――――――――――――――――― 8:ゲームの準備 「ローグライクハーフ」のd66シナリオである本作『蛇禍の悪魔』をはじめる前に、あなたは主人公(と、必要なら従者)を準備してください。  冒険を進めるためのルールを読むか、いつでも読めるように手もとに置いてからゲームを開始します。   ――――――――――――――――――――― 9:ゲームの進行 『蛇禍の悪魔』は「一本道モード」で遊びます。  本文中に{斜体}このような斜体{/斜体}で書かれた文字がある場合、それは主人公たちが今いる場所の状況について語った文章です。読まなくとも物語の進行に影響はありませんが、読むとよりいっそう気持ちが入ることでしょう。 ――――――――――――――――――――― 10:一本道モード 本作の場合  一本道モードでは、あなたは分岐を気にすることなく、d66によってマップを決定していきます。このモードでは、あなたは〈できごと〉を一定回数体験する(マップをめくる)行動の後に、中間イベントや最終イベントにたどり着きます。  1枚目から3枚目のタイルをめくり、マップタイルに付随するできごとを体験した後に、4枚目は必ず固定のタイル〈中間イベント〉に進みます。1回目、2回目は5枚目までd66でマップを決定し体験したあとに、6枚目以降は出目次第で、〈最終イベント〉へと進みます。  ただし3回目の冒険のみ、中間イベント後は出目71-76での冒険となります。中間イベント(3回目)において追加でマップ表が示されます。 ・1-3枚目……出目表に対応した〈できごと〉が発生 ・4枚目……〈中間イベント〉 ・5枚目……通常どおり(最終イベントは出現しない) ・6枚目……出目が11~16なら最終イベントが出現 ・7枚目……出目が11~26なら最終イベントが出現 ・8枚目……出目が11~36なら最終イベントが出現 ・9枚目……出目が11~46なら最終イベントが出現 ・10枚目……出目が11~56なら最終イベントが出現 ・11枚目……必ず最終イベントが出現  一本道モードでは、【逃走】した場合、そのマップタイルは枚数としてカウントされません。改めてマップタイルをめくり、次の〈できごと〉へ進みます。 【逃走】したはずの〈できごと〉に再び出くわすこともあるでしょう。 ※中間イベントおよび最終イベントでは、逃走を行うことができません。  一度めくったマップタイルは固定され、3回の冒険を通じて再登場しません(3回の冒険を通じて二度と登場しません)。別の部屋で同じで目が出た場合には、出目を1つ大きくしてください。その結果、出目が6より大きくなった場合には、1に戻ります。  たとえば、出目14がすでに出ているときに出目14が出たなら、出目15になります。  別の例では、出目66がすでに出ているときに出目66が出たなら、出目11になります。   ――――――――――――――――――――― 11:隊列について  本作における戦闘には、隊列という概念はありません。主人公と「戦う従者」は、敵を好きなように攻撃できます。  敵側の攻撃は、主人公が2人の場合には均等に攻撃が分けられます。  主人公が1人の場合には、攻撃の半分を主人公が受けてください。残りの半分は従者が受けます。  いずれの場合でも、余った攻撃をどちらが受けるかは、プレイヤーが決めてください。 例:インプ7体が主人公と「戦う従者」である兵士3人を攻撃した。インプの攻撃は合計で7回である。プレイヤーは攻撃のうち3回分を主人公が、残りの4回分を従者が受けることに決める。従者である兵士は【防御ロール】に失敗するたびに1人ずつ死亡する。 ――――――――――――――――――――― 12:冒険とゲームの勝利  このゲームの勝利とは、シナリオにおける使命を達成することです。『蛇禍の悪魔』では、「ポロメイアに混乱を引き起こす悪魔の禍いを取り除き、小国家連合の平穏を取り戻すこと」が目的です。  この作品は3回の冒険に対応しています。「冒険」は〈最終イベント〉までひととおりの〈できごと〉を体験する(かゲームオーバーになる)ことを指します。   ――――――――――――――――――――― 13:ゲームの終了  主人公が1人死亡したら、冒険は失敗で終了します。最終イベントを終えた場合にも、ゲームは終了します。そのときに条件を満たしていれば、冒険は成功に終わります。  冒険が成功した場合、主人公はそれぞれ1経験点を獲得します。冒険に失敗した場合には、これを得ることができません。死亡していない主人公は、改めて冒険に出ることができます。   ――――――――――――――――――――― 14:繰り返し遊ぶ 『蛇禍の悪魔』は、同じキャラクターで複数回遊ぶことができるゲームです。ただし、1人の主人公が挑戦できる回数には上限があります。  同じ主人公で挑戦できる回数は3回までです。  別の主人公に変更した場合には、この回数はリセットされます。  あまりないことですが、2回目以降(おそらくは3回目)の冒険ですべてのマップタイルがめくられて、次にめくるマップタイルがなくなってしまった場合、その冒険中に登場していないマップタイルをリセットして、次以降で再登場させてください。   ――――――――――――――――――――― 15:特別ルール 【渇き】  本作の冒険の舞台は砂漠です。砂漠の過酷な環境では、通常よりも早く体の水分が失われ、【渇き】に苦しみます。 〈できごと〉や戦闘などで体力を使うと、【渇き】を覚えます。 【渇き】は「食料」、または「水分補給」のアイテムを使用することで解消できますが、すぐに【渇き】を解消できない場合、次に【渇き】を覚えた際に生命点が1減り、命に関わるリスクが高まります。(「食料」で【渇き】を解消する場合、生命点の回復は通常通り行えます。)  また、通常の「食料」や「水分補給」1つだけでは回復できない【激しい渇き】を覚える場面に出くわすこともあります。この場合は「食料」「水分補給」が2つ必要となり、足りない分の生命点が減ることになります。 〈従者〉や〈同行者〉がいる場合、彼らの分の水分補給も適切に管理されるため、プレイヤーが個別に調整する必要はありません。  冒険が終わると【渇き】【激しい渇き】は解消されます。  各〈冒険のはじまり〉に、以下のアイテムを街で購入できます。 〈水袋〉(1回分の「水分補給」)  金貨3枚 *5個を一つなぎに装備できるため、5個までは1個の装備品として扱える。ただし、購入できるのは各冒険のはじまりの前に5個まで。 〈解毒薬〉(一回分)      金貨5枚 〈ラクダ〉(技量点0点、生命点1点 戦わない従者) 金貨70枚   これは【動物】【騎乗生物】に属するクリーチャーです。このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持ちます。 〈ラクダ〉は、主人公の代わりに装備品を5つまで持たせることができます。同行させるには、従者点が1点が必要となります。 ――――――――――――――――――――― 16:特別な従者 『蛇禍の悪魔』では、2回目の冒険より通常の従者と違い、背景の描かれた特殊なキャラクターを選ぶことが可能です。彼らが同行している場合、冒険中に独自の展開が起こる場合があります(連れて行くかどうかは自由ですが、連れていったほうが冒険成功の可能性が高まります)。  彼らを同行させるには従者点が3点必要です。戦闘に参加する戦う従者で、〈強いクリーチャー〉として扱います。  生命点が2点以下になると、彼らは戦力外となり冒険から離脱します。主人公に目的の達成を託し、治療のため街へ帰還します。また同行していない場合でも、彼らは主人公とは別にそれぞれ砂漠を冒険していて、エドガー王のために活動しています。 ◇ラウ=バジル(技量点2、生命点4)  24歳と若いながら、コビット村の村長の孫で補佐役を務めている。そのためコビットには珍しく普段から正装が多い。  俊敏な戦士だが、美しいよく通る声の持ち主で、それを使った不思議な技も身につけている。  性格は明るく社交的で、村の代表としてポロメイアを訪れた際、マリノア姫に助力を頼まれる。  主武器はスリング(攻撃特性は【打撃】)、軽い武器(攻撃特性は【斬撃】)、革鎧。  敵を戸惑わせる技があり、それぞれ冒険中に1度ずつ利用できる。 〈気合のシャウト〉戦闘時に発動すると、【攻撃ロール】に+1のボーナスがつき、【防御ロール】に-1のペナルティがつく。 〈動揺の童謡〉【攻撃ロール】に成功すれば、敵全体が思わず聴き惚れる美声で攻撃を1ラウンド休ませる(目標値は敵のクリーチャーレベル)。   ◇バーランド(技量点2、生命点5)  ポロメイア王国の兵士長。33歳の人間の戦士。オーズ卿とは若い頃から剣技を競い合った盟友である。丸々獣の優秀な騎手でもあり、これまで数々の武勲を立ててきた。  兵士長に任ぜられ、エドガー王の側近の一人となる。厳しさと情熱を兼ね備えた人物で部下からも慕われている。髭を蓄えているが、似合わないらしい。  主武器は両手武器(攻撃力+1、攻撃特性は【斬撃】)、板金鎧。  戦闘中に一度だけ、【かばう】が使用できる。  また〈残像剣〉という技を持ち、ファンブルを起こした場合、その戦闘中、一度だけ振り直すことができる。 ◇ベイリー(技量点1、幸運点3、生命点4)  ポロメイアの神官長。エルフのため見た目は若々しいが、エドガー王が幼い頃から今の職についている。双角の塔を監視する責任者で、これまで多くの聖職者を育ててきた。悪魔を封じるための研究も日々行っている。  主武器は片手ハンマー(攻撃特性は【打撃】)、木盾、鎖鎧。  【防衛】【祝福】【聖餐】の奇跡を使用できる。 ◇龍人ライディン(技量点2、生命点5)  アルマシウダの龍戦士。年齢不詳だが、実力的には脂がのった時期と推察される。寡黙で忠誠と礼節を重んじる。同種族との争いは好まない。野蛮さを残した竜人と区別するため龍人と呼ばれている。今回、皇帝アルマに任命され、ポロメイアへ派遣された。  主武器は片手武器(攻撃特性は【斬撃】)、丸盾  普段は長身の戦士だが、翼を背中に折りたたんでおり、一定時間〈飛龍〉に変身できる。戦闘中にこの能力を使うと、第1ラウンドからその戦闘が終わるまで【攻撃ロール】に+1の修正がつく。〈飛龍〉の能力を使用するたびに生命点1点を消費する。そのため、生命点が1点しか残っていないときは使用できない。〈できごと〉や固定イベントで使用するときも同様である。   ――――――――――――――――――――― 17:冒険のはじまり(1回目) 「よく志願してくれた」  ポロメイア王エドガー=ガゼルハイデンは、玉座の上からそう言うと、瞑目して部下に言葉を譲った。若くしてその名を大陸に知らしめる王も、今回の混乱には相当に手を焼いていた。精悍な顔つきに翳りが見てとれる。広間の左右には、国の中枢を担う文官と武官が立ち並んでいる。王族もその列に並び、最後尾にはまだ幼いマリノア姫の姿まである。  兵士長のバーランドが一歩前に出た。 「今回、探索に向かうのは、その名の通り、生きては帰れない砂漠だ。任務を受ければ命の保証はない」  太い眉に口髭を蓄え、王よりは少し歳上に見えるが、彼もまだ若い。鷹のような眼差しが値踏みするように一同を眺め回した。 「王の弟君であるオーズ卿の一女、ルチア様に悪魔が取り憑いた。一時は捕獲に成功したが、生者の塔で隙をつかれ、北西の砂漠に逃亡した」  オーズ卿は、国境沿いの砦の領主だった。王より二つ歳下で、勇猛な戦士であったが、妻の死後、コビット村近くの辺境で隠遁のような生活をしていたという。悪魔が捕獲されるのは稀なことではあるが、通常、古来の法式に乗っ取って、死者の塔から魔界へと送還される。今回もその手筈だったが、その前に、悪魔に取り込まれたルチアを助け出す必要があった。死者の塔の隣に建つ生者の塔で、神官による分離治療が行われた。しかし、それは失敗に終わった。  悪魔は、娘ルチアの顔をして「……痛い、お父様、やめて」と父に懇願したという。動揺したオーズ卿は治療をする神官たちに待ったをかけた。 「ありがとう、お父様」  オーズ卿が近づくと、娘の目は吊り上がり、唇は裂け、蛇の顔に変わった。  隙をついた悪魔は、居合わした神官たちを噛み殺し、塔の窓を破り逃げ出した。自らの責任を感じたオーズ卿は部隊を率い、すぐに砂漠へと向かったが、その消息は途絶えた。 「悪魔は、砂漠からの風に不和の胞子を含ませ撒き散らしています」  バーランドが一歩後ろへ下がり、今度は神官長のベイリーが前に出た。穏やかな顔をしているが、蝋を塗ったように白い肌をしており、耳の先は刃物のように尖っている。神官長はエルフだ。 「不和の胞子は人びとの心に疑念や負の感情を呼び起こします。これは国に禍いを成すために、高位の悪魔がもたらす魔術です」  つまりそれは、と志願者の一人がうながした。神官長は重々しくうなずいた。 「ルチア様に取り憑いた悪魔は、かつて大地を焦土にした眷属、支配者クラスの悪魔といえるでしょう。古い文献によると、蛇禍エキュドナと呼ばれています」  生きては帰れない砂漠で、高位の悪魔を退治する。  困難な依頼であることはたしかだった。もちろんそれに見合った報酬が支払われるが、集まった志願者のうち、ここで退出する者も多かった。王も兵士長も、あえてそれを止めはしない。  君は残った。  もしここで皆が退けばこの地域に、平穏が訪れぬことは間違いない。ポロメイアだけでなく、周辺の地域にも混乱が訪れる。冒険者稼業にも支障が出る。 「残念ながら、砂漠の詳細な地図はいまだ存在しない。しかし獣神岩と呼ばれる岩山には、警備を配置している。立ち寄ることが出来れば、帰還は充分に可能だ。悪魔を討ちとったのち、必ず戻ってくることを祈っている」  神官長ベイリーが下がると、瞑目していたエドガー王が、強く目を見開き、立ち上がった。玉座から降りていき、残った冒険者たちに歩みよる。 「悪魔を放置すれば、この国だけでなく小国家連合のすべてに禍いが降り注ぐだろう。人の心がすさみ、悪魔が望む世界になる。分離治療などと悠長なことを指示した私が愚かだった。乗っ取られた者ごと殺して、砂漠からくる悪魔の禍いを食いとめてくれ」  その場に緊張が走った。悪魔に体を奪われたルチアは血を分けた弟の娘、姪にあたる。彼女ごと殺してくれと、王は深々と頭を垂れた。  すべての説明が終わり、志願者の手続きも終わった。出口へ歩いていると、若い神官に呼び止められた。 「こちらへおいでください」  彼の案内で廊下を通り、せまい一室に招かれた。  そこでは、神官長ベイリーと王の一人娘マリノア姫が待っていた。先に話そうとしたエルフの神官長をさえぎって、姫が一歩前に出る。  まだ十歳を超えたばかりの少女だ。銀色の刺繍が施された水色のドレスを身にまとっている。黒髪は二重の玉状に結えられ、袖から小麦色の肌がのぞいていた。可愛らしい姿だが、その眼差しからは年齢を感じさせない力強さが感じられる。 「父王はあのように言っていましたが、わたくしはルチア姉さまを殺して欲しくありません。まだ王宮にいた頃、わたくしとルチア姉さまは共に学び、姉妹のように育ちました。彼女は心が優しい、聡明な女性です。将来、この国の未来を背負う一人です」  そこまで言ったあと、マリノアは表情を歪めた。感情が抑えきれなくなったのか、顔を隠すように、王に負けないくらいの深い角度で、頭を下げる。 「お願いです。どうか殺すことなく、蛇禍エキュドナを捕らえ、連れ帰ってください」  ベイリーはそんな姫の肩に手を添えると、君に向けて小包を差し出した。中には、魔術の紋様が刻まれた銀の壺が入っていた。 「それは吸魂の壺、悪魔を封じる品です」  彼の説明によると、悪魔を弱らせたのち、呪文を唱えることで、この壺に閉じ込めることができるのだそうだ。 「唯一神セルウェーの名にかけて、二度と分離治療に失敗はしません。この壺があれば殺す必要はありません。必ずルチア様ごと悪魔を捕らえて帰ってきてください」  エルフの神官長も、今回の件で大きな責任を感じていた。ルチアとマリノアは彼の教え子でもあった。なんとしても彼女を救いたいのだ。エドガー王も本音では同じ気持ちだと、二人は信じていた。 「悪魔は、黒煙の姿をしています。砂漠に適応する火に属するクリーチャーでした。毒と渇きには充分に注意をしてください」  ***  生きては帰れない砂漠はかつては自然豊かな森で、大きな魔力の溜り場があったと伝えられる。それを利用しようとした悪の魔法使いが死者の塔を建て、解き放たれた悪魔たちの仕業で焦土と化してしまった。  死者の塔が砂漠の南端に現存しており、バランスを取るために、古の王が隣に生者の塔を建立した。  高位の悪魔は人の手で滅ぼすことは難しく、時を経て悪想念を取り込むとふたたび出現する。それを完全に排除するためには送還するしかなく、壊すわけにはいかなかったのだ。  それら二つの塔を横目に、君は砂漠へと進んだ。  細やかな岩石の地平が遠くまで伸びている。角が残った金貨よりも小さい瓦礫の粒だ。風が砂を巻き上げて、景色はもやがかっていた。空模様も悪く、雲間に浮かぶ影は、巨大な怪物が横切るようにも見えた。  魔力により出来上がった砂漠だからだろうか、不思議と熱気は感じられなかった。  生きては帰れない砂漠。  大陸の人びとは、この砂漠をそう呼ぶ。北には死霊が棲む都市もあるが、彼らでさえもこの砂漠を渡っては来れない。まさに禁断の区域だった。  志願者たちは、少女に取り憑いた悪魔を捕らえるべく、その砂漠へと足を踏み入れる。   ――――――――――――――――――――― 18:冒険のはじまり(2回目)  分離治療のため、ベイリーを筆頭とした神官たちが、吸魂の壺を取り囲んで生者の塔へと向かった。マリノア姫もその列に並ぶ。  王宮を離れようとした君に、兵士長バーランドから声がかかった。 「オーズ卿の行方はまだ不明のままだ。王はすでに諦めた様子だが、たとえ力尽きていたとしても、王弟の亡骸を砂漠に放置するわけにはいかない」  バーランドは君にオーズ卿の探索を依頼した。今回も生死に関わらずではあったが、バーランドは諦めていなかった。 「オーズ卿は、かつてポロメイア国の防衛の要として活躍した優れた戦士だった。簡単に屈するとは思えない」  バーランドは、本来なら自ら探索に出陣したいと考えていた。二人は友人で剣のライバルでもあったという。立場上、王宮を離れるわけにはいかないが、もし君が一声かければ意を決して王に直訴するかもしれない。 「君たち、また砂漠へ行くのかい? へえ」  バーランドの同行を検討していると、今度は若きコビット、ラウ=バジルが声をかけてきた。 「久しぶりに村を出たから、まだ帰りたくないんだよなあ。村長の補佐なんて堅苦しい仕事をしているから、獣の血がうずいてしょうがないんだよ。どうだい、僕も冒険に参加させてくれないかい?」  若いコビットは、耳に心地よい美しい声でそう言った。人の前で喋る仕事が向いているのだろうが、同時にそれにはあきあきしている様子だった。  君が望むなら、戦闘の熟練者であるバーランドと、多才な若きコビット、ラウ=バジルを同行させることができる。その選択によって、冒険の進行が大きく左右されるだろう。その場合一体あたり3点の従者点を必要とする。〈特別な従者〉の項目を確認すること。   ――――――――――――――――――――― 19:冒険のはじまり(3回目)  君は三度、王宮を訪れた。  待っていたのはエドガー王、兵士長バーランド、神官長ベイリー、マリノア姫、それに悪魔の呪縛を逃れたルチアだ。広間には、若いコビットのラウ=バジルも呼ばれていた。それともう二人、銀の鱗に覆われた龍人と、ずんぐりと太った気難しそうなドワーフも招かれている。 「彼女から話があります」  ベイリーがうながすと、ルチアはまず君のそばに歩み寄り、あらためて救出の礼を口にした。  長いまつ毛が印象的な、痩せた少女だった。  心も体も、傷はまだ完全に癒えてはいないのだろう、顔は青白く、目の下の隈も目立つ。 「あなたなら、すでにお気づきかもしれません。私に取り憑いた悪魔は、エキュドナではありませんでした。彼女はドナ、侍女になりすまし砦に忍び込んでいた中級の悪魔です。ドナを送還しても、不和の胞子が止むことはありません」  君は一同を見回した。  ルチアの救出には成功したが、国の混乱は解決していなかった。道理で、一様にみな重苦しい顔をしているはずだ。 「私は、ドナに取り込まれていたとき、悪魔の真の目的を知ることができました。ドナは、砂漠の奥深くで死んだように眠る高位の悪魔エキュドナを見つけました。エキュドナは古の善の魔法使いたちによって弱体化されていましたが、悪魔たちが人の魂を摘み取り、注ぐことで、徐々に、かつての力を取り戻しつつあります」 「不和の胞子が飛んでくるのも、その影響ということですか?」  ラウ=バジルが質問した。 「はい。半身を復活させたエキュドナが不和の胞子を育て、風に乗せて放っています。感情が不安定になった人びとの魂を下級悪魔たちが集め、エキュドナに与えるためです。そうして、人の来れない砂漠の奥深くで、エキュドナは完全復活をとげようと目論んでいるのです」  ラウ=バジルがごくりと唾を飲み込んだ。  質問がないのを確認してから、ルチアは続けた。 「また、悪魔たちは、砂漠にもう一つの死者の塔を造ろうとしています」 「もう一つの死者の塔?」 「ご存じの通り、死者の塔は、古の悪の魔法使いが悪魔を呼び出すために建てたもの。今でこそ生者の塔と共に聖職者の管理下にありますが、もともとは悪魔が現れる拠点でした」 「つまり、完成すれば、悪魔の現れる拠点がもう一つできるということか」  龍人が低い声で聞いた。ルチアはうなずいた。 「新しい塔から現れた悪魔たちは、まずは生者の塔の破壊を狙っています。そうして二つの死者の塔が解放されたのち、さらなる大群を率いて、ポロメイア小国家連合に侵攻しようとしています」 「うわぁ」  ラウ=バジルが天を仰いだ。  君も想像する。魔界との扉が開いたならば、二つの塔から現れるのは下級悪魔だけではあるまい。エキュドナに匹敵する悪魔、あるいはそれ以上の存在が召喚される可能性もある。 「その前に食い止めるのだ」  バーランドが語気を強めた。  ラウ=バジルがすぐに聞き返した。 「その、もう一つの塔はどこに造られようとしているんですか? 生きては帰れない砂漠は途方もない広さですよ。探し出す前に行き倒れてしまいます」 「居場所については、目星がついている」  すると、ずんぐりと太ったドワーフが口を開いた。 「不和の胞子は、獣神岩よりさらに北の砂漠からやってきておる」  ドワーフは塔街ビウレスの住人で、名をスライダーといった。塔街で『シュガーブーツ商会』という名のカラクリ細工店を開いており、エドガー王の依頼で、自らが造った望遠鏡で砂漠を観察していたという。 「砂嵐に紛れてよくは見えないが、朧げな高い影が確認できた。その方向へ向かって、下級悪魔どもが集まっている」 「しかし、目的地がわかっているとはいえ、帰ってこれる可能性は極めて低い。決死の覚悟で行けというのですか?」  ラウ=バジルは重臣たちに抗議の視線を向けた。 「対策は考えている」  答えたのはバーランドだ。 「アルマシウダより、砂漠を行くための飛龍の戦士が来てくれた。ライディン殿だ」  広間にいた龍人は、新興国アルマシウダの住人だった。アルマシウダは砂漠の小国だと聞く。ポロメイア小国家連合に属してはいるが、詳細については未知の部分も多い。ライディンは広間に集まった中でもひときわ背が高く、腰には曲刀を携えていた。龍頭から下は、鱗とも帷子ともつかぬ銀色に覆われている。バーランドによれば、彼は飛龍の能力を持つという。 「アルマ皇帝から、最大限の敬意をもってエドガー王に協力するように言われています。とはいえ飛龍の能力も万能ではない。砂嵐があれば避けるし、酷暑が続けば体力は尽きる。限りある利用となりましょう」  知性が感じられる重厚な物言いだった。龍の姿をしているが、野蛮な輩ではないらしい。  ライディンの佇まいを見て少しは安心したのか、ラウ=バジルはそれ以上不用意にしゃべるのをやめた。 「塔にはエキュドナが待っているでしょう」  次に口を開いたのは神官長ベイリーだった。 「高位の悪魔ではあるが万全ではありません。いま行けば、封印して、送還できる」  ベイリーは法衣を脱ぎ、マントを羽織り、旅装束を身にまとっていた。今回彼は、自ら死地に赴く覚悟だった。あとで聞いた話だが、ルチアとマリノア姫も強く同行を求めたが、王と神官長によって頑なに断られたそうだ。  バーランドも出陣を申し出たが、国の警備と兵士の指揮を理由に、王に断念させられた。ラウ=バジルは、僕も行きたいのはやまやまなんですがと前置きをしてから、コビット村への報告があるから行けませんと残念がった。ドワーフのスライダーは、本人はさらさら行くつもりはなかった。その代わり、カラクリ細工店の部下を支援のため別働させると約束した。  そうやって、それぞれの立場がはっきりしたのち、皆の視線は君に向けられた。  エドガー王が君を招き寄せた。 「砂漠の探索には慣れた先導が必要だ。そなたしか適任者は考えられなかった。もちろんそれ相応の報酬は出す。だが、命あって帰れるかわからない危険な探索だ。引き受けてくれるか?」  そして直々にそう告げられる。  今回の目的は、獣神岩の北にあるもう一つの死者の塔を探し出し、悪魔エキュドナを封印することだ。  ルチアが、マリノアが、祈りを込めるような不安げな視線を君に向けていた。  バーランドとラウ=バジルは、君の胸中をさも汲み取ったかのようなしたり顔で、共にうなずいてみせた。  断れそうな雰囲気ではなかった。だが、そもそも断る気があるならここまで来なかった。君は決断する。  今回、同行するのはエルフの神官長ベイリーとアルマシウダの騎士ライディンだ。だが自分の従者を率いて冒険に向かいたいのであれば、君はそれを断ることもできる。その場合は、ベイリーから吸魂の壺を受け取ることになり、アルマシウダの飛龍を利用することはできない。  ベイリー、ライディンを同行者にするなら、〈特別な従者〉の項目を確認のこと。 ――――――――――――――――――――― 20:マップ表 「ローグライクハーフ」は物語の部分とランダムの部分が存在する、何度も遊べる1人用TRPGです。『蛇禍の悪魔』では進む場所ごとに、次のようにできごとが設定されています。 出目の十の位が1……○隠された何か 出目の十の位が2……◇中立または友好的な〈弱いクリーチャー〉 出目の十の位が3……□イベント 出目の十の位が4……■トラップ 出目の十の位が5……◇〈弱いクリーチャー〉 出目の十の位が6……◆〈強いクリーチャー〉   ○隠されたなにか 出目11 :〈クカの葉(Leaves of Kuka)〉 出目12:〈猿人の水壺(Ape man's Water Urn)〉 出目13:〈聖者の遺灰(Saint's Ashes)〉 出目14:〈ティカーゲンの腕環(Slack off Bracelet)〉 出目15:〈悪魔殺しの剣(Demon Killer Sword)〉 出目16:〈オールドアメジストハンマー(Old Amethyst Hammer)〉   ◇中立または友好的な〈弱いクリーチャー〉 出目21〈三本傷のコビット(Cobbit with Three Wounds)〉 出目22〈連行される娼婦(Take a Prostitute)〉 出目23〈マリノア姫の信奉者(A Follower of Princess Marinoa)〉 出目24〈砂上のカラクリ鉄人(Mechanized Iron Man on the Sand)〉 出目25〈墜落するトライバード号(Crashing TriBird)〉 出目26〈飛ぶ商人(Flying Merchant)〉 □イベント 出目31〈サボテン地帯(Cactus Zone)〉 出目32〈蠍岩の亀裂(Cracks in The Scorpion Rock)〉 出目33〈砂山で遊ぶ少年(A Boy Playing in The Desert)〉 出目34〈蜘蛛の紋章(Spider's Mark)〉 出目35〈蜃気楼かオアシスか(Mirage or Oasis)〉 出目36〈魔力の溜まり場(Accumulate Magic Power)〉   ■トラップ 出目41〈砂漠の拷問部屋(Torture Room)〉 出目42〈崩れる大地(Collapsed Earth)〉 出目43〈気まぐれな精霊(Whimsical Spirit)〉 出目44〈悪魔の火柱(Devil's Pillar of Fire)〉 出目45〈竜巻の発生(Tornado Occurrence)〉 出目46〈猛暑の旅路(The Way in The Extreme Heat)〉   ◇弱いクリーチャー 出目51 〈南の空の支配者(The Ruler of Southern Sky)〉 出目52〈空腹の地中生物(Hungry Underground Creatures)〉 出目53〈悪魔崇拝ゴブリン(Demonl-Worshiping Goblin)〉 出目54〈堕ちた兵士たち(Demon's Soldiers)〉 出目55〈闇エルフの待ち伏せ(Dark Elf Ambush)〉 出目56〈竜人の軍団(Dragon Man Corps)〉   ◆強いクリーチャー 出目61〈偵察する眼球(Eyeball to Scout)〉 出目62〈砂漠のオドリバナ(Odribana in The Desert)〉 出目63〈真紅の魔狼(Demon Wolf)〉 出目64〈蛇火老キュレイド(Old Fire Snake Curaid)〉 出目65〈暴竜戦士ドラヴォーグ(Tyrant Warrior Dragogue)〉 出目66〈蛇姫エリンガガ(Serpent Princess Eringaga)〉 ――――――――――――――――――――― ◯出目11 〈クカの葉(Leaves of kuka)〉  熱風に吹かれて、一枚の葉が飛んでくる。拾ってみると、まだ若々しい広葉で、軽いわりにしっかりとした厚みがあり、独特の弾力が感じられた。クカというサボテンの一種だ。葉の中には多くの水分が含まれている。口に含めば潤いが喉に広がり、渇きが和らぐ。サボテン本体を見つければ、多くの葉が手に入るかもしれない。 〈クカの葉〉を1d3枚を手に入れる。液体を含んでおり、1回分の「水分補給」に利用できる。クカの葉は重ねられるため、10枚までを1つの装備品として扱うことができる。  ここで【器用ロール】に成功すると、〈クカの葉〉がどこから飛んできたのか方向を特定できる(目標値:5)。そちらに進むのなら、次の〈できごと〉はサイコロは振らずに出目31へ進むこと。 ――――――――――――――――――――――― ◯出目12 〈猿人の水壺(Ape man's water urn)〉  旅の行商人から、金貨10枚で、〈魔法の水壺〉を買うことが出来る。行商人は服を着た猿人だ。  水壺は小ぶりだが、5回分の「水分補給」が出来る。  しかし最後の「水分補給」が終わると、壺の底からこちらを見つめる顔がある。  最後の一口を飲んだものは、【幸運ロール】または【対魔法ロール】(目標値:6)を行う必要がある。  失敗すれば、壺の底に映ったものと目が合い、お互い驚き合う。壺の底に見えるのは猿面だ。毛むくじゃらで、赤い頬をしている。  従者や同行者がいれば、その顔を見て彼らはもっと驚くだろう。  最後の一口を飲んだ者の顔は猿面に変化している。猿人化だ。  底は鏡のようにつるつるしていた。底に見たのは、呪いにかかった自身の顔だったのだ。  顔の造形以外に影響はないように思えたが、戦闘のときに猿の習性が邪魔をする。【攻撃ロール】および【防御ロール】において、ファンブルが起こる出目が1増える(1の出目だけがファンブルの状態であれば、2のときもファンブルが発生するようになる)。  また猿面が解消されない限り、今後出目26が出ても、その〈できごと〉に進むことができない。そこで現れる人物が猿人と相性が悪いため、君を避けるからだ。その場合は、出目31以降の〈できごと〉へ進むこと。  今回の冒険の終わりに生者の塔に立ち寄れば、猿人化は解消される。 ***  彼らは、商人らしい服装を着て、流暢な言葉を喋るが普通の人間ではなかった。  猿人と呼ばれる獣人だ。毛むくじゃらで赤ら顔をしている。 「我らは砂漠で困っている人のために、こうやって魔法の水壺を売り歩いているのです」  ニヤニヤした嫌な笑顔だが、水分補給はありがたい。価格も好意的に思える。さて、購入するべきかどうか……。 ―――――――――――――――――――――― ◯出目13 〈聖者の遺灰(Saint's Ashes)〉  〈聖者の遺灰(金貨30枚の価値)〉  敵が〈弱いクリーチャー〉の【悪魔】または【悪の種族】である場合、その戦闘中の【攻撃ロール】に+1の修正が入る。3回の戦闘で使い切る。  敵が〈強いクリーチャー〉の【悪魔】または【悪の種族】である場合、3回分を一度に使い切ることで同様の修正が得られる。それまでに1回でも使用していたら、使うことはできない。   ◆〈ベイリー〉が同行しているなら  〈ローズクォーツハンマー〉  薄紅色の結晶でできたハンマーだ。これは片手武器で【打撃】の特性を持ち、〈ベイリー〉が【悪魔】、または【悪の種族】に対して使えば【攻撃ロール】に+1、ダメージに+1の修正が加えられる。  君の【副能力】が幸運であれば、同様の効果で使用が可能だ。ただし、このハンマーは一回の戦闘で粉々に壊れてしまう。また、次の冒険に引き継ぐことはできない。 ***  前方からマントを羽織った男が歩いてくる。  彼は、砂漠の西にある、聖なる山に住むデュラセル老の使いだという。  差し出されたのは、エドガー王から相談を受けていたデュラセル老からの贈り物だった。 「これは、聖なる山の祠に拝納されている古の聖者の遺灰です。悪魔をひるます力があります。これまでも国の危機に対して何度も使ってきたため、わずかしかお渡しできませんが」  ベイリーが同行していれば、使いの男はさらに背中から一振りのハンマーを手渡す。 「ローズクォーツハンマーです。聖なる山で大事に保管してあった古の武器です。ベイリー殿が使えば悪魔に大きなダメージを与えることでしょう」 ――――――――――――――――――――― ◯出目14〈ティカーゲンの腕環(Slack off Bracelet)〉  〈ティカーゲンの腕環(金貨20枚の価値)〉    この腕環を装着して攻撃をおこなうと、出目が1の場合には+1のボーナスがつき、出目が6の場合には、−2の修正がつく。つまり常に出目は2~4の値に修正され、ファンブルもクリティカルも起きなくなる腕環である。3回使うごとに、【副能力値】が1点減るペナルティがある。このペナルティは〈ティカーゲンの腕環〉を外しても回復はしない。 ***  多くの戦士が散った砂漠だった。  その持ち物が、ときとして風にさらわれ、旅人の目に止まる。きらりと光る白い宝飾がされたそれは魔法の腕環だった。嵌めると、武器の力加減がしやすくなった。  思い切り全力では触れないが、動きの悪い相手なら、確実に命中させられるような気がする。  とはいえ、魔法に頼り長いあいだ使い続ければ、自身の実力は衰えるかもしれない。もしかしたら、それで前の持ち主は命を落としたのかもしれない。  だが、それでも利用価値があるとしたら、相手を殺したくはないが、攻撃を仕掛けなくてはならないときだろうか? 上手に手加減しなくてはいけない戦い。もしもそんな戦いが待っているのなら、この腕環は役に立つかもしれない。 ―――――――――――――――――――――― ◯出目15 〈悪魔殺しの剣(Demon Killer Sword)〉  一本の黒剣が砂に埋もれている。  幸運ロール(目標値:5)を行うこと。成功すれば、その一部が地上に姿を表す。悪魔殺しの剣(金貨100枚の価値)を手に入れる。  この剣は【斬撃】の特徴を持ち、【悪魔】に属するクリーチャーに対して【攻撃ロール】+1、【ダメージ】に+1のボーナスが入る。 ***  砂漠では、これまで多くの冒険者たちが志半ばに倒れている。  肉体はもとより、髑髏や骨ですらも砂漠の鳥獣の餌食となり、すべて朽ち果てた。魂は天に召され、その意思も現世から消えてしまった。  しかしときとして、執念のような何かが奇跡のような巡り合わせを現実のものとする。  一陣の風が砂を巻き上げたかと思うと、黒々とした刃先が地上に現れた。  悪魔殺しの剣。伝説の戦士も使ったという一振りだ。偶然にも、生きて帰れない砂漠でそれを見つける。 ―――――――――――――――――――――― ◯出目16 〈オールドアメジストハンマー(Old Amethyst Hammer)〉  〈ゴーレム〉の残骸が、砂漠に置き去りにされている。完全に停止しており動くことはないが、【器用ロール】に成功すると、腹部に隠し戸を見つける。(目標値:4)  中に隠されていたのは〈オールドアメジストハンマー〉(金貨80枚の価値)は、これは片手武器で【打撃】の特性を持ち、ダメージに+2のボーナスがある。ただし、一度の戦闘で壊れてしまう。 ***  砂に埋もれたゴーレムの残骸を見つける。  相当に古い。遠い昔、この地では悪の魔法使いと善の種族連合が激しい戦いを行ったと伝えられる。そのときの遺物だろうか?  永い時を経ても、その装甲を構成する鉱石は変質せず、未だに驚くほどの強度を誇っている。さらに詳しく調べてみると、腹部に隠し戸があり、武器が隠されていた。  こちらも永い歳月を超えてもまったく古びていない。魔力を帯びた、紫の結晶のハンマーだ。 ―――――――――――――――――――――― ◇出目21 〈三本傷のコビット(Cobbit with Three Wounds)〉  砂漠をトボトボと歩く、若い【コビット】の女戦士と出会う。  彼女は〈エドガー王〉の公示に志願した冒険者の一人だ。名を〈ジル=メガ〉。目の下に三本傷があり、筋肉質な肩と二の腕、太腿をしている。  屈強な戦士であるはずだが、しかし今、その姿は異常なほどに疲弊していた。  彼女は、「食料」と「水分補給」をそれぞれ1回分を売ってくれないかと相談してくる。砂漠での水分がいかに貴重か、彼女も充分理解している。だからこそ「食料」、「水分補給」の品それぞれ1回分に、金貨10枚ずつを支払うという。  もしも〈ラウ=バジル〉が同行しているなら、彼はそれらを無償で提供するよう、主人公に頼み込む。二人の【コビット】は幼馴染だった。  希望する数量を持っていない、または譲るつもりがなければ、彼女をその場において、次の〈できごと〉へと進む。この場合、〈ラウ=バジル〉は彼女と共に行動する決断をし、ここで主人公と袂を別つ。  〈ジル=メガ〉の助けになれたのであれば、彼女は感謝しつつ、自分が砂漠で得た情報を伝えてくれる。それは砂漠の危険にまつわる重要な手がかりだ。『手がかり』を1つ手に入れる。  また〈ジル=メガ〉から『マリノア姫の言霊』を譲り受ける。  この御守りを持っているあいだは、【幸運ロール】に+1点のボーナスが受けられる。ただし3回その恩恵を受けると光の粒となって消えてしまう。(恩恵を受けるとは【幸運ロール】に成功するということだ。失敗の場合はカウントしなくてよい) ***  ジル=メガの三本傷の上にある鋭い瞳は、砂漠の北に向けられた。 「私は獣神岩の先へ行こうとした。だが、とても歩いていける土地ではなかった。暑さはこの辺りの比でなく、水はすぐに尽き果てた。立ってはいられないほどの暴風がそこら中に吹き荒れ、地崩れのような流砂に何度も足をすくわれた。これ以上すすんでもむやみに命を落とすだけだと悟った私は、装備のほとんどを失いながらも退却した。これでも私はコビット村では名の知れた戦士だった。マリノア姫からも特別に期待をかけてもらっていた。なのに、このままではポロメイアの王宮に、我が故郷に顔向けできない。無念でならない」  ラウ=バジルがいたのなら、彼はその透き通る声で、次のように同郷の女戦士を励ますだろう。 「ジル、君の実力はこのぼくがよく知っている。君は生きては帰ってこれない砂漠の奥地へ単身入り込み、その危険性を感じて素直に退却した。勇敢な判断だよ。そして君の無念を晴らしてくれる冒険者がここにいる。君の伝えた情報によって、彼が必ず悪魔を倒す。だからジル、君は胸を張ってポロメイアの王宮へ、コビット村へ帰っていいんだよ」  その言葉を聞いたジル=メガは、値踏みをするように君を見てから、小さな御守りを手渡した。 「これは、出立の前にマリノア姫からいただいたものだ。姫の神官としての祈りが込められている。お前たちの助けとなってくれるだろう」 ―――――――――――――――――――――― ◇出目22 〈連行される娼婦(Take a Prostitute)〉  〈ビウレスのゴロツキたち〉  出現数:1d6+1  レベル:4  宝物:通常  ≪反応表≫ 1-2は【友好的】 3-4は【中立】5-6は【敵対的】    目つきの悪い男たちが、疲れ切った様子の女を無理やり連れて歩いている。女は砂漠の行軍に疲れ切り、水分を与えられていないようだ。  反応表が【友好的】なら、男たちは自分たちのことをすすんで語る。  彼らはビウレスからやってきた。麻薬の原料となるクカのサボテンを探しており、女は娼婦でクカの栽培地を知っており、案内をさせているそうだ。 〈バーランド〉か〈ベイリー〉が同行していれば、彼らの権威によって男たちは娼婦を解放し、しぶしぶこの場所から退散する。  反応が【中立】であれば、男たちは冒険者と関わろうとしない。遠巻きに逃げて行こうとする。  ただし遠目からでも、男たちが女を乱暴に扱い、水分も与えず酷使している様子が見て取れる。彼女を助けるために男たちを追い払うなら、【先制攻撃】を仕掛けることができる。  反応が【敵対的】ならば、男たちは反対に敵意をむき出しにして攻撃を仕掛けてくる。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   ◇娼婦を助けると、サボテン地帯まで案内するよう、男たちに強引に連れてこられたのだと告げる。サボテン地帯では「クカの実」や「クカの葉」を収穫できるそうだ。  もしサボテン地帯に興味があれば、娼婦はその場所まで案内してくれる。そうするなら、次の〈できごと〉はサイコロを振らずに出目31へ進む。  そうでなければ、娼婦は一人でビウレスに帰る。その際、彼女を餓死させたくなければ、「食料」か「水分補給」となるものを1つ与えること。 *** 「クカの実はもともと麻薬の成分として、ビウレスの地下街で高く取引されていたのさ。あたいはその見分け方を知っているから、前々からこっそり収穫しては小遣い稼ぎをしていた。それがさ、なんとクカの麻薬には、不和の胞子の影響を緩和するって噂がたったもんだから、取引が盛んになったんだよ。あいつらはそれで金儲けをしようと企んだ街のゴロつきどもさ。あたいがクカを収穫しているのを知って、乱暴な手段で横取りしようとしたんだ」 ――――――――――――――――――――― ◇出目23 〈マリノア姫の信奉者(A Follower of Princess Marinoa)〉  砂漠で、行き倒れた【エルフ】と遭遇する。  どこかで見た顔だと思ったら、王の公示を受け志願した者の一人だった。〈ミモトゥ〉という名の若い神官だ。  〈マリノア姫〉の信奉者で、彼女のためにも今回の問題を解決しようと意気込んで出立したが、実力が伴っていなかったようで、砂の上で昏睡していた。  これが一回目の冒険なら、「水分補給」一回分で彼は息を吹き返す。  2回目の冒険なら、「水分補給」一回分に加え、生命点1点以上を回復する手段を用いなくてはならない。  3回目の冒険であれば、魔法による生命点の回復でなければ彼を救うことはできない。〈ベイリー〉が同行していれば、神官長は若い神官を見殺しにできない。必ず魔法を一回分消費して回復させる。もしすでに〈ベイリー〉の幸運点を使い果たしているのであれば、彼は〈ミモトゥ〉を背負って街へ帰る決断をする。その場合、〈吸魂の壺〉を君に渡し、今回の冒険から離脱する。  何回目かの冒険であるかに関わらず、君が『マリノア姫の言霊』を所持していれば、それを使用することで〈ミモトゥ〉は奇跡的に回復して、意識を取り戻す。  彼は〈大蛇卿サンドジェルマ〉という悪魔と遭遇し、痛手を負いながらもなんとか逃亡に成功したそうだ。重要な情報だった。『手がかり』を1つ手に入れる。 ***  ミモトゥは干からびた唇で次のように告げる。 「ああ、王宮に帰ってマリノア姫に合わせる顔がない。姫のために、必ず使命を果たすと誓って出立してきたのに……。大蛇卿サンドジェルマと名乗る凶悪な悪魔に遭遇してしまったのだ。奴は砂に隠れて待ち伏せていた。私の実力ではとても太刀打ち出来なかった。かろうじて、動きの癖に気がついてなんとか逃げられたが、途中で持ち物も尽き、体力も消耗してしまった。まったく、なんと情けない有様だ。お願いだ、私の代わりに、必ず使命を達成してくれ」 ――――――――――――――――――――――― ◇出目24 〈砂上のカラクリ鉄人(Mechanized Iron Man on the Sand)〉  鉄の棒を組み合わせた背の高い乗り物が、砂漠を歩いている。  それはおもちゃの竹細工を思わせる人型で、どこか童心をくすぐる姿形をしている。高い位置には操縦席まである。  乗っているのは背の低い〈ノーム〉だ。青と紫が混ざった奇抜な髪色をしていて、砂と煤で顔中が汚れている。泣き笑いのような垂れ目が特徴的だ。  鉄人形はギコガコと動いてはいるが、ぜんぜん前に進んでいなかった。片足が砂に埋もれて、完全に身動きが取れなくなっている。  操縦席から〈ノーム〉が声をかけてきた。 「おーい、そこの人。おいら、シュガーブーツ商会のサファイヤヘッドっていうんだ。ビウレスからきた。親方から砂漠を走行するカラクリを作るよう命令されたんだけど、少しだけ、ほんの少しだけ、うまくいかなかったんだ。せっかく作った作品をここで乗り捨てたくはないんだよ。力に自信があるなら、おいらを助けてくれないかい?」  甲高い少年の声だった。炎天下の中、色白の肌が赤く灼けていた。  手助けするのなら【筋力ロール】(目標値:6)を行うこと。カラクリ鉄人はかなりの重量だ。1人で持ち上げるのは至難の業だが、従者2人ごとに+1のボーナスが受けられる。バーランドかライディンが同行しているのなら、彼らによるボーナスは一人で+1だ。 *** ◆成功 「ありがとう! 助かったぜ」 〈サファイヤヘッド〉は、お礼にカラクリ鉄人に同乗させてくれる。鉄人を褒めると彼は上機嫌になる。研究した砂漠の特性や進むコツを得意げに教えてくれる。その情報は生きては帰れない砂漠を進むために有効に思えた。『手がかり』を1つ手に入れる。 ◆失敗 「ややや!」  地面に衝突する前に、〈サファイヤヘッド〉は操縦席から飛び降りた。  体勢を崩したカラクリ鉄人は砂の上に横倒しになる。胸部が曲がり、腕が取れた。 「ああ、やっちまったな。これじゃあもう使い物にならない」  意気消沈した彼は無口だった。 「まあしかし、なんとかしようとしてくれてありがとう。次はもっと性能のいいカラクリをつくってみせる」 ◇共通  王からの依頼で探索に来ていることを知ると、〈サファイヤヘッド〉は、おお、と垂れ目を見開いて喜んだ。 「そうかぁ。実はうちの親方もエドガー王の依頼で動いてんだ。それで、おいらも砂漠探索のためのカラクリを開発、試運転してるってわけさ。じつはもう一体、新作のカラクリがあるんだ。砂漠で旅を続けるのなら、またどこかで会うかもね」  彼は、カラクリ鉄人の不良の原因をもう少し調べてから帰るという。 「ピンチになったら、おいらが助けてやるから、この髪と名前を覚えてなよ」 『サファイヤヘッドとの約束』を手に入れる。 ――――――――――――――――――――― ◇出目25 〈墜落するトライバード号(Crashing TriBird)〉  砂埃が舞う空に、ピンク色の三角形が翔んでいた。  風を使って空中を浮揚しているのだろう。骨組みのある革張りの機体で、ゴーグルをつけた女性が、コの字に設置された下部の手すりにぶら下がっている。  しかしながら、強風に煽られたかと思うと、片方の翼が砂塵によってざっくりと破れた。コントロールが失われた三角は、ぐるぐると無軌道な弧を描きながら、墜落し始める。  女性は、小柄なお尻を揺らしてバランスをとろうとしていたが、うまくいってなかった。  ゴーグル越しに、その顔が恐怖に引き攣っているのが見えた。髪色もピンクに染めた、若い【ノーム】のようだ。  墜落した〈ノーム〉の少女を助けるために、【器用ロール】または【幸運ロール】を行う必要がある(目標値:5)。〈ラウ=バジル〉か〈ライディン〉が同行していれば、彼らもこのチャレンジを手助けする。その場合、〈ラウ=バジル〉+1、〈ライディン〉+3の修正がつく。 *** ◆成功 「いやーやばかった。死ぬかと思った。ありがとうありがとう。もう、好きになってしまう」  助かった少女は、たいへんに感激し、救出してくれた相手に抱きついて熱烈なキスを振る舞った。  少女は名前を〈ピンクヘッド〉といい、塔街ビウレスにあるカラクリ細工店『シュガーブーツ』の店員だった。 「親方に頼まれて、空から砂漠の地形の調査をしてたの。でも、砂埃でトライバード号の翼がダメになっちゃった。やっぱり砂嵐にも負けない新型で来なくっちゃだめだったね。本当はバンデブー号って、もっと大きくて大勢乗れるカラクリがあるの。でもまだ完全じゃなかったから、乗って来れなかった。翼に悪魔撃退の呪文を描画しなくちゃならないのよね。ああ、こんな体たらくじゃあ、サファイヤヘッドに笑われちゃうなあ。完成したら、あなたには必ずこのお礼は返されてもらうからね。ピンクヘッドとの約束よ」  この出会いで『ピンクヘッドとの約束』を手に入れる。  また砂漠の地形に関する情報を教えてもらうことで、『手がかり』を1つ入手する。  彼女は、ピンクの三角の乗り物、トライバード号を修理してから帰るという。「また会おうね」と、ちょっと寂しげに手を振ってくれる。 ◆失敗  シュガーブーツ店の〈ピンクヘッド〉は、命こそ助かるが怪我を負う。話すのも辛そうだが、なんとか翼を自力で修理するつもりのようだ。 「ああ、そうだ。この砂漠に、私の相棒のサファイヤヘッドも調査に来てるの。あいつに会ったら私を助けに来るように伝えて。たしか、あの辺で試運転してると思うんだけど」  まだ〈サファイヤヘッド〉と会ったことがなければ、次の〈できごと〉はサイコロを振ることなく出目24へ進むこと。  すでに出会ったことがあれば、〈できごと〉に進むことなく、〈サファイヤヘッド〉の元へ行き、彼女の救出を伝えることができる。その場合、ここで『手がかり』を1つ入手し、次の〈できごと〉へ進んでよい。 ――――――――――――――――――――― ◇出目26 〈飛ぶ商人(Flying Merchant)〉 〈鳥人商人〉バーディウスが、君に一体の魔法のドールを運んできてくれる。 《デザート・ドール》 (技量点0 生命点1) 〈デザート・ドール〉は、主人の命令に忠実な魔法の人形であり、主人公の経験点を1点消費することによって起動する(起動してからは装備品欄から従者欄に移動し、主人公の従者点を1点増やす)。 〈デザート・ドール〉は変形してラクダ形態になることができる。このドールに騎乗していれば、流砂や、砂に隠れた生物の先制攻撃など、砂漠の危険を防ぐことができる。また頭部が水筒となっており、4回の「水分補給」が可能だ。 【強いクリーチャー】と戦う場合、彼らは〈デザート・ドール〉の有効性にすぐに気づき、第1ラウンド目は必ず〈デザート・ドール〉を攻撃対象とする。  もし〈キャッスル・ドール〉を連れていれば、二体は合体が可能だ。その場合は【魔法の宝物表】出目6にある〈キャッスル・ドール〉の項目を参照のこと。  またここでは〈鳥人商人〉から、以下の商品を購入することができる。  〈氷槍の呪文の巻物〉(3回分) 金貨50枚  〈炎球の呪文の巻物〉(3回分) 金貨50枚  〈アリ人の水玉〉(3回分の「水分補給」) 金貨35枚  〈水袋〉(一回分の「水分補給」)  金貨10枚  〈解毒薬〉(一回分)      金貨20枚 *** 「おお、ここにいましたか」  砂漠の空を飛んできたのは、バーディウスと名乗る鳥人だった。彼は樹島で商売をしていたが、エドガー王から遠路はるばる呼び出されたのだった。冒険者たちの援助を頼まれたが出立には間に合わず、砂漠まで追いかけてきたという。  疲れているだろうに、無理して明るい大きな笑顔を作っていた。嘴を突き出し、翼を反りあげ、必要以上に目を見開きにっこりとしている。 「これを、ぜひあなたにと」  鳥人商人は、背負っていた大きな箱から等身大の人形を取り出した。 「他にもいろいろドールを取り揃えていたのですが、なにしろこの悪路です。1つを運ぶのがやっとでした」  大層な贈り物に、思わず懐具合を気にしてしまう。 「心配されなくとも、このドールの代金は王様からいただいております」  すると、バーディウスはニコニコしながら、こう続けた。 「とはいえ砂漠の冒険には、さぞご苦労されてることでしょう。他にもいろいろ準備しております。もちろんこちらは代金を頂かせてもらいます。わたくしも商売ですのでね」  彼は、小脇に抱えた鞄からいくつか商品を取り出して、商いをはじめる。出張費用が加わったせいか、金額はどれも通常より高く設定されているようだ。  用事を終えると、バーディウスは「それでは良い旅を」と、とびきりの笑顔をつくって来た道を帰っていく。 ――――――――――――――――――――― □出目31 〈サボテン地帯(Cactus Zone)〉  サボテンが点在している地域を通りかかる。  1d6を行うこと。出目によって下記のサボテンの近くを通ることになり、それぞれ〈できごと〉が起こる。  もしも娼婦の案内でここにたどり着いたのなら、出目は必ず6となる。または【幸運ロール】に成功すれば、好きな出目を選ぶこともできる(目標値:5)。   ◆出目1-2  サボテンに擬態したヒルのような生き物である。〈サボテンモドキ〉は遠目には普通の植物に見えるが、その内側には脈動する吸血器官を備えている。複数が固まってサボテンに擬態し、近づいた獲物に飛びついてくる。体に張り付いて体液を吸われる。戦って排除しなくてはならない。    〈サボテンモドキ(False Cactus)〉 出現数:1d3+1  レベル:5  宝物:なし ≪反応表≫ 1は【無反応】 2-4は【ワイロ】 5-6は【敵対的】    これは【植物】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の特性を持つ。  一度でも攻撃を受けると、〈サボテンモドキ〉の1匹が体に貼りつき、【攻撃ロール】【防御ロール】に-1のペナルティがつく。次の1体を倒すと解消される。  【炎】の特性を持つ攻撃をした場合は【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。  【ワイロ】の場合、【食料】1個を消費することで戦闘を回避できる。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。【食料】か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   ◆出目3-4  なんの変哲もないサボテンだ。何事もなく通り過ぎる。 ◆出目5-6  クカという種類のサボテンで、葉と実にそれぞれ効用があることが知られている。〈クカの葉〉を使用すると、1回の「水分補給」ができる。すでに先客がいたのか、ここで採取できるのは2枚までだ。クカの葉は重ねられるため、10枚までを1つの装備品として扱うことができる。  また、〈クカの実〉には麻薬として身体能力を一時的に高める作用(および副作用)がある。戦闘で使用すると、その戦闘中の【攻撃ロール】に+1のボーナスが与えられる。ただし、副作用として3ラウンドごとに生命点1点を減らさなくてはならない。1個だけ採取できる。  娼婦の案内があるなら、ここで彼女と別れる。彼女も水分補給として、自分の分の〈クカの葉〉を採っていくので、与える必要はない。 ***  サボテンのかたちはどれも歪んでいて、色も不気味だ。多種多様な品種があり、どれもそれぞれ怪物めいた印象を与える。 ―――――――――――――――――――――― □出目32 〈蠍岩の亀裂(Cracks In The Scorpion Rock)〉  瓦礫の積み重なった涼しそうな岩陰が目にとまる。  砂漠には珍しく、休息がとれそうな場所だ。  休んでいくなら、生命点を1点回復できる。  ただし、1d6にて、以下の〈できごと〉が起こる。 ◆出目1-2  黒い外殻に鎧を貫く針を仕込んだ毒蠍が、岩のあいだにひそんでいる。毒蠍は影のように忍び寄る。主人公はそれぞれ【器用ロール】または【幸運ロール】(目標値:4)を行い、成功すれば、これに気づき避けることができる。失敗した主人公は生命点1点を失う。また針には毒が仕込まれており、喉の渇きが加速する。今後【渇き】を解消するのに、「水分補給」を2倍必要とする。解毒するまでこの影響を受け続ける。 ◆出目3-4  赤い外殻を持つ蠍が岩陰を這い寄る。これが臆病な蠍で危害を加えない。それどころか焼いて塩をふって食べれば、1食の「食料」にすることが出来る。出目が3だったなら1匹、出目が4だったなら2匹を捕獲したことになる。 ◆出目5-6  銀の外殻に覆われた蠍が、岩の隙間に隠れている。見つけた君は、それが希少な銀針を持つ品種だと気がつく。生け捕りにすれば高価で取引出来るだろう。捕まえようと思えば、【器用ロール】、または【筋力ロール】を行うこと(目標値:7)。成功なら、〈白銀の蠍〉(金貨50枚の価値)を手に入れる。失敗すると、蠍の針に刺され、【毒】の影響を受ける。【生命点】を1点を失い、さらに指先が腫れるため【器用ロール】の際に-1の修正を得てしまう。このペナルティは今回の冒険が終わると回復する。また『蠍の知識』を持っていれば、判定を行わずに〈白銀の蠍〉を入手できる。 ―――――――――――――――――――――― □出目33 〈砂山で遊ぶ少年(A Boy Playing In The Desert)〉  砂漠で小山を作って遊ぶ少年〈鳥のあるじ〉がいる。  彼の周りには、危険なはずの砂漠の鳥たちが見守るようにおとなしく囲んでいる。〈反応表〉を振ること。 ≪反応表≫ 1-2【友好的】 3-4【中立】 5-6【敵対的】   ◆〈ラウ=バジル〉が同行している。  反応は常に【友好的】となる。彼は〈鳥のあるじ〉と波長が合うのか、すぐに意気投合して砂山で遊ぶ。 〈ラウ=バジル〉のおかげでさらに機嫌のよくなった〈鳥のあるじ〉は、砂漠の危険な場所をいくつか教えてくれる。『手がかり』を1つ手に入れる。   ◆【友好的】  少年は自分を〈鳥のあるじ〉だと伝える。いっしょに小山を作って遊ぶと、彼は今後、砂漠の鳥が主人公を襲わないように約束してくれる。『鳥のあるじとの約束』を手に入れる。   ◆【中立的】  このまま次の〈できごと〉に進めば、少年は君に干渉しない。もしも強引に干渉しようとすれば、〈剣嘴鳥〉が攻撃してくる。反応は【敵対的】となる。   ◆【敵対的】  砂漠鳥の一種類である〈剣嘴鳥〉が束になって攻撃してくる。    〈剣嘴鳥(Sword Beak Bird)〉 出現数:1d6+6  レベル:3  宝物:なし ≪反応表≫ 【死ぬまで戦う】  これは【鳥類】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。    〈剣嘴鳥〉の頭数が10体以上の場合、クチバシから身を守るのが難しいため、各キャラクターは【防御ロール】に-1の修正を受けてしまう。このペナルティは、〈剣嘴鳥〉の頭数が10体を下回れば解除される。    戦闘が終わったとき、少年はこの場から消えている。  今後、砂漠で【鳥類】のクリーチャーと出会ったとき、その反応は常に【敵対的】となってしまう。   ◇戦闘後、【渇き】を覚える。食事か水分補給をすることですぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 *** 「ぼくは鳥のあるじと呼ばれているよ。なぜか鳥に好かれるんだ」  不思議な少年だった。人のような面立ちだが、髪の代わりに羽毛が生え、指先は羽根だった。折りたたまれた翼も生えている。鳩のように無垢な瞳をぱちぱちと瞬かせ、「鳥のあるじ」は天真爛漫な微笑みを浮かべる。 「悪魔だろうが人間だろうが、鳥に危害を加えるのなら許さない。そうでなければ、どっちでもいい」  それでいて、千年生きる仙人のように達観していた。なんとも不思議な少年だった。  どのような場所でどのように生活しているのかは想像もつかない。もしかしたら聖霊に近い存在なのかもしれない。  ひとつ言えることは、彼は鳥から絶大な寵愛を受けている。 ―――――――――――――――――――――― □出目34 〈蜘蛛の紋章(Spider's Mark)〉  蜘蛛の紋章をつけた一隊が北からやってくる。 【人間】や【エルフ】、【鳥人】、【竜人】と多様な種族が混じり合った異様な集団だ。マントには〈七本足の蜘蛛〉が描かれている。 〈ライディン〉が同行していれば反応は【友好的】、〈バーランド〉または〈ベイリー〉が同行していれば反応は【中立的】となる。 〈蜘蛛の紋章の一隊(Spider Emblem Corps)〉 出現数:1d6+2  レベル:4  宝物:修正+3 ≪反応表≫ 1-3【友好的】4-5【中立】6【敵対的】  これは【善の種族】【少数種族】【人間型】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。【劣勢なら逃走】する。 ◇彼らは、砂漠に面した小国〈アルマシウダ〉の住人だという。〈皇帝アルマ〉の命を受け、砂漠の異変を調査しているそうだ。 【友好的】であれば、彼らは無償で砂漠の重要な情報を教えてくれる。 【中立的】であれば、「水分補給」のアイテム3つ、または金貨20枚(かそれ以上のアイテム)と引き換えに情報を教えてくれる。  情報を教えてもらったなら『手がかり』1つと『蠍の知識』を手にいれる。  また逆に「水分補給」の品が欲しければ、【水袋】を金貨10枚で1つ交換してくれる。   ◆〈ライディン〉が同行していれば、隊を率いる龍人が彼に自らの秘剣を差し出す。〈ムーンサルト〉と呼ばれる湾曲刀で、【龍人】しか扱えない。〈ライディン〉の【攻撃ロール】に+1のボーナスがつく。 *** 「悪魔は北に集まり何かしようと企んでいる。だが、我らアルマシウダの精鋭部隊でも、とても先は進める環境ではなかった。よほどの幸運か、屈強な騎乗生物でも乗っていない限り進むのは難しいだろう。特に砂漠竜が通るときは、ただ通り過ぎるのを待つしかない。残念ながら、我らはそのときに飛龍を失ってしまった」  蜘蛛の紋章は、かつてアルマシウダが今より小国だったとき、悪魔と共存を余儀なくされた屈辱の象徴だった。皇帝アルマがその歴史を忘れぬよう、旗印として掲げたのという。  敵対的でもないが、まだそれほどポロメイアとも友好的とはいえない関係だった。  だが、今回の蛇禍の一件では手を取り合うようだ。 「ライディン、アルマ皇帝から、くれぐれも俺に恥をかかせるなよ、とのご伝言だ」  伝える龍人は翼に深い傷を負い、飛行能力を失っていた。伝えられたライディンはにこりともせずにただうなずいた。 ―――――――――――――――――――――― □出目35 〈蜃気楼かオアシスか(Mirage or Oasis)〉  灼熱の太陽にさらされた君の目に、緑の木と透明な水たまりが映る。ぼんやりとかすんで見えるが、オアシスにまちがいなさそうだ。  乾燥と灼熱の砂漠では、目を逸らすことができない魅力的な光景だ。1d6を振ること。【幸運ロール】(目標値:5)を成功することで、+2の修正が得られる。  また『手がかり』を1つ消費すれば、サイコロを振らずに出目を6にできる。 ◆出目1-2  見ていたオアシスは砂漠の見せる幻影、蜃気楼だ。行けども行けどもたどり着くことはない。【激しい渇き】を覚える。2回分の「水分補給」ができない場合、足りない分の生命点を失う。すでに【渇き】を覚えていれば、さらに生命点1点を失う。 ◆出目3-4  たどり着いた先に、小さな水たまりを見つけた。  生命点1点を回復し、【渇き】を覚えていれば解消する。さらに使用済みの〈水袋〉、〈水筒〉があれば、2回分まで補給することが可能だ。 ◆出目5-6  大きなオアシスだ。よく見ると砂漠の小動物たちも集まってきている。ゆっくり休みたいところだが、長居をするとそれらを狙ってもっと大きな捕食者が襲来する危険がある。  生命点2点を回復し、【渇き】を解消できる。さらに使用済みの〈水袋〉、〈水筒〉があれば、すべてに補給することが可能だ。 ―――――――――――――――――――――― □出目36 〈魔力の溜まり場(Accumulate Magic Power)〉  砂漠で〈魔力の溜まり場〉に遭遇する。  これに触れてみるなら、各主人公はそれぞれ1d6を振り結果に従うこと。  『手がかり』を1つ消費するか【幸運ロール】(目標値:4)に成功することで、出目に+1できる。  不気味な気配に恐怖を感じるなら、躊躇なくその場を素通りする選択肢もある。    出目1……魔術点または幸運点2点を失う。  出目2……器用点または筋力点が1点減少する。  出目3……生命点1点を失う。  出目4……生命点2点を回復する。  出目5……減少していれは、器用点1点または筋力点1点を回復する。減少していなければ何も起こらない。  出目6……生命点と魔術点または幸運点を最大値まで回復する。 ***  空間がねじれたようにそこだけ風景が歪んでいる。狭間には、魔界の虹を思わせる不吉な輝きが現れ、油が光を受けて揺れ動くような異彩を放っている。  魔力の溜まり場では、人智を超えた力が発生する。  避けて通るのが賢明な判断かもしれない。だが、それが今の苦境を打破するきっかけとなるのならば、一か八か賭けてみるのもいいだろう。 ――――――――――――――――――――― ■出目41 〈砂漠の拷問部屋(Torture Room)〉  石造りの小屋に入る。罠が扉の上部に巧妙に隠されており、開けた瞬間に放たれる仕組みになっている。不用意に入ると、仕掛けられた罠が発動する。 【器用ロール】(目標値:5)の成功でこの罠を見破ることができる。各主人公と従者1名がこの判定を行うことができる。  失敗すれば1d3本の矢が扉を開けたものに放たれる。回数分の【防御ロール】(目標値:5)を行い、命中した本数と同じダメージを生命点に受ける。このダメージは主人公と、同行しているすべての従者とで振り分けてよい。ただし従者が受ける被害は1人につき1点までとする。  〈バーランド〉が同行していれば、彼の経験と鋭い目によって罠を事前に見破り、解除することができる。 ***  砂漠の一角に石造りの小屋がある。あまり手入れはされていない。中には牢屋があり、拷問するための部屋もあった。  手に負えない囚人を拷問したり、処罰したりする場所に違いなかった。床や壁の汚れ滲み、漂う異臭にその名残が感じられる。国の所有物だが、今はあまり使われていないようだ。古い拷問器具が置かれているが、持って行けそうなものはない。 ――――――――――――――――――――――― ■出目42 〈崩れる大地(Collapsed Earth)〉  突然、足元が崩れ、流砂に吸い込まれそうになる。瞬時の判断が生死を分ける。各主人公は【器用ロール】を行うこと(目標値:6)。成功すれば惨事を免れる。  失敗の場合、〈ロープ〉を持っていれば再び【器用ロール】(目標値:5)を行うことで近くの岩に投げつけることができる。成功すれば流砂から脱出できる。 〈ラウ=バジル〉がいれば、視力にすぐれた彼が高い岩場をみつけ、俊敏な動きで同行者を助けてくれる。〈ライディン〉が〈飛龍〉の能力を使えば、流砂に沈み込むところを、間一髪救ってくれる。  また〈デザート・ドール〉に乗っていれば、ドールはこの危機を察知し、ラクダ脚の跳躍で回避してくれる。  流砂から脱出できなければ、主人公は多くのものを失う。時間をかけて必死に這い出すが、砂に埋もれた荷物を取り戻すことはできない。装備品を2つなくしてしまう。任意で選ぶこと。さらに脱出の過程で喉の【渇き】が極限に達し、脱出後「食料」か「水分補給」を摂れなければ生命点1点を減らさねばならない。すでに【渇き】を覚えている状態だったならば、追加で生命点1点を失う。   ***  突然の出来事だった。これまで順調に歩を進めていた君の足元が、ぬるりとした液体の感触に変わった。  大地は土台を失ったように、君を支えなくなる。一帯の砂が流れだし、渦を巻くように下へ下へと吸い込まれていく。  このままでは身動きが取れず、沈んでしまう!  助かる手段を早くとらなければ、大きな痛手を負うことになるだろう。 ――――――――――――――――――――― ■出目43 〈気まぐれな精霊(Whimsical Spirit)〉  拾ったランプから、助けを求める声がする。火をつければ、閉じ込められているものを助けることができるが、普通の火ではランプは灯らない。【炎球】の魔法かそれに等しい魔法の品が必要である。持っていなければ、ここで出来ることはない。  助けても、精霊が友好的であるとは限らない。〈反応表〉を振り、結果に従うこと。  〈風の精霊〉  レベル:3  生命点:10  攻撃回数:全体(後述) 宝物:後述  《反応表》 1-2【友好的】3-4【中立】5-6【敵対的】   ◆友好的  風の精霊は礼を伝え、今後、竜巻や砂嵐など風の災難に遭遇した際に、手助けすることを約束する。『精霊との約束』を手に入れる。   ◆中立  風の精霊は礼こそ口にするが、すぐにその場から消え去ってしまう。   ◆敵対的  風の精霊は閉じ込められていた怒りを目の前の者にぶつける。戦わなくてはならない。  これは【精霊】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーによる攻撃は【風】の特性を持つ。  このクリーチャーは常に【死ぬまで戦う】。  このクリーチャーは全体攻撃を行うため、すべてのキャラクターは毎ラウンド1回ずつ【防御ロール】を行わなければならない。  このクリーチャーには【風】の特性を持つ攻撃や魔法の効果がない。  このクリーチャーを倒した場合、各主人公は1回ずつ【幸運ロール】を行なってもいい(目標値:4)。  成功した場合、「魔力石」を1個手に入れる。  これは魔法使いのための消費物で、使うことで副能力値を減らさずに魔法(魔術、奇跡、呪術など)を行使することができる。売る場合、金貨20枚になる。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   *** 「そこの人、私を助けてくれませんか?」  突然、足元から声がする。  調べると、金色のランプが砂の中に埋まっていた。  ランプの細い口から声が漏れる。 「私は風の精霊、悪魔によってこのランプに閉じ込められたのです。魔法により火を灯してくれれば呪いが解けます。お願いします。助けてください。もう何百年もたつのです。心が壊れてしまいます」 ――――――――――――――――――――― ■出目44 〈悪魔の火柱(Demon's Pillar of Fire)〉  突然、赤い炎が激しく立ち昇り、逃げ場のない炎の檻に閉じ込められる。  脱出するには【氷槍】の魔法か、同様の効果を持つ魔法の品、あるいは「水分補給」のアイテム2回分使用することで、一部を消化し火柱の外へ抜けることができる。 『精霊との約束』を使用すれば、精霊が風の力で炎の偏りを作り、逃げ道を作り出す。  または〈ライディン〉の〈飛龍〉の能力を使えば無傷で外に連れ出してもらうことも可能だ。  いずれの方法もなければ、生命点1点を失う。 【幸運ロール】(目標値:4)を行い、成功すれば無理やり火柱から脱出する。何度も行ってもよいが、失敗のたびに生命点は1点減少する。  火柱の外へ抜け出すと、これを創り出した悪魔が姿をみせる。悪魔は脱出に気づき、すぐに地中へ逃げようとする。  ここで始末するなら、先制攻撃を行い(目標値:5)成功すれば出目64へ進み、そのまま戦闘に入ること。先制攻撃が失敗すれば、悪魔は地中に潜り逃げてしまう。すでに出目64で敵を倒しているのであれば、火柱を脱出した時点でこの〈できごと〉は終わる。 ***  突然、砂漠に赤い炎がそそり立った。  それは、熱気を撒き散らしながら、瞬く間に周囲を取り囲んでいく。  その外側から、悪魔のせせら笑いが聞こえる。 「わしらが大いなる野望の邪魔をするつもりなら、ここで燃え尽きて死ぬぞ」  勢いを増した火柱は檻となり、逃げ道を塞いだ。荷物から焼け焦げる匂いがし始める。 「どうだ? わしに魂をくれるのなら、助けてやってもいいぞ。まあ死ぬのは一緒だが、熱くて苦しくて死ぬのはいやであろう?」  火柱を創り出した悪魔は、芋虫のような身体に皺くちゃの老人の顔を持つ、異様な姿だ。目は白く濁り、口から粘つくような陰湿な声を漏らしている。 ―――――――――――――――――――――― ■出目45 〈竜巻の発生(Tornado Occurrence)〉  旋風と共に、近くで〈竜巻〉が発生する。  その動きは獰猛で規則性がなく、どちらへ向かうのか予測が難しい。  見ている間に、〈竜巻〉はどんどんと成長をし、周囲のものを巻き込んでいく。 『精霊との約束』があれば、〈竜巻〉はこちらには近づかず、難を逃れる。または『鳥のあるじとの約束』があれば鳥たちが逃げる方向を教えてくれる。それらがなければ、〈竜巻〉は勢いを増して近づいてくる。  主人公の1人が【器用ロール】を行い、(目標値:7)成功すれば反対の方向へと逃げることができる。失敗した場合、同じ主人公が【筋力ロール】を行う(目標値:8)。成功すれば大地に踏ん張り、〈竜巻〉が過ぎゆくまでその場で耐えることができる。〈バーランド〉がいれば屈強な彼が仲間を支え、このロールを行わずとも成功となる。〈デザート・ドール〉〈キャッスル・ドール〉がいる場合も、同様にドールが護ってくれる。  これにも失敗したのなら、君は竜巻に巻き込まれる。  この恐ろしい自然現象により、君は1d3+1のダメージを受ける。(このダメージは従者、同行者と分散してよい) ***  旋風が舞った。  それはすぐに止むどころか勢いを増し、周りの砂や礫を巻き上げ、竜巻に育っていく。暴風はマントをなびかせ、体を持っていこうとする。すぐに逃げなくては危険だ。 ――――――――――――――――――――― ■出目46 〈猛暑の旅路(The Way in The Extreme Heat)〉  陽が高くなり、気温が上がる。体の渇きが早くなる。 【激しい渇き】を覚えて、各主人公はそれぞれ2回分の「水分補給」を必要とする。それが出来ない場合は不足した分の生命点1点を、すでに【渇き】を覚えている場合はさらに生命点1点を失う。〈キャッスル・ドール〉がいれば、テントに変形し、この猛暑を防ぐことができる。 ***  砂漠が暑いのは当たり前だが、異様に汗が吹き出した。空気が熱湯になったかのように、肌を灼いた。  早く日陰に行きたいが、近くにそのようなものは見当たらない。君は黙々と足を前に動かすだけである。 ―――――――――――――――――――――――― ◇出目51 〈南の空の支配者(The Ruler of Southern Sky)〉 〈はげたかワシ(Vulture Eagle)〉 出現数:1d6+1  レベル:4  宝物:修正-1 ≪反応表≫1-3【中立】 4-6【敵対的】 『鳥のあるじとの約束』があれば、常に友好的  これは【鳥類】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。  このクリーチャーは、大きな両翼を広げて飛行しているので、飛び道具だと狙いやすい。そのため、飛び道具で攻撃する場合は【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。  主人公または〈強いクリーチャー〉の従者の生命点が2点以下である場合、〈はげたかワシ〉は、その条件を満たしているキャラクターを集中的に攻撃する。 【中立】であれば空から様子を見ているだけで、こちらから攻撃しなければそのうち去っていく。   ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ***  はげたかワシは砂漠の南の空を支配している。今や多くの悪魔が砂漠の空を飛来しているが、我関せずといった様子だ。  悪魔は死にかけた生き物の魂を奪いにくるが、ハゲタカワシが欲しいのはその肉だった。生だろうと腐っていようと関係ない。目に見えぬものではなく欲しいのは実体。悪魔とは競合しない。  他の砂漠鳥との生存競争に打ち勝って、はげたかワシは南の空の支配者となった。北に行けばもっと恐ろしい怪物はいるだろう。しかし、この辺りはまだまだ彼らの縄張りだった。腹をすかせているなら、その凶暴性は、大型の生き物にさえ向けられる。 ―――――――――――――――――――――――― ◇出目52 〈空腹の地中生物(Hungry Underground Creatures)〉  〈サンドワーム(Sandworm)〉 出現数:1d6+3  レベル:4  宝物:通常 ≪反応表≫1【無視】 2-6【敵対的】  このクリーチャーは【虫類】に属するクリーチャーである。このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。 〈デザート・ドール〉に騎乗しているなら、反応表に-3の修正を加えられる。 〈サンドワーム〉に対して【打撃】の特性を持った武器で攻撃した場合、柔軟な皮膚が衝撃を吸収してしまうため【攻撃ロール】に-1の修正を受けてしまう。  逆に【斬撃】の特性を持った武器で攻撃した場合、クリーチャーの皮膚を容易に切り裂けるため【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ***  突如、砂が波打ち、巻き上がる。  大地から、無数の大ミミズたちが頭をもたげて顎を開く。その大きさは尋常ではなく、ラクダや馬でも丸呑みできるほどだ。腹が減っているのか、環状の口からは粘液が迸っている。  砂漠の地中を棲家とするサンドワームが、群れとなって襲いくる。 ――――――――――――――――――――― ◇出目53 〈悪魔崇拝ゴブリン(Demon-Worshiping Goblin)〉  〈悪魔崇拝ゴブリン(Demon-Worshiping Goblin)〉 出現数:1d6+3  レベル:4  宝物:修正+1 ≪反応表≫ 1-2【劣勢であれば逃走】 3-4【ワイロ】(1体につき金貨10枚) 5-6【敵対的】 これは【人間型】【悪の種族】に属するクリーチャーである。 このクリーチャーの攻撃は【打撃】の特性を持つ。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   ***  砂埃に隠れて、小鬼の集団が近づいてくる。  彼らはクカの実を日常的に摂取しているゴブリンだ。動物の骨で装飾品をつくり、首や腕に巻きつけ、塗料を使い、不気味な化粧をしている。さらに奇異なことには、異常なほどに目が血走っていた。彼らは不和の胞子を全身に浴び、悪魔を崇拝しているゴブリンの一団だった。 「悪魔さまの意志を阻もうとする人間たちだな。お前たちに生きる価値はない。皮を剥ぎ、肉を削ぎ、骨までしゃぶらせてもらう」  にひひひ、とゴブリンたちは不気味に笑う。 ―――――――――――――――――――――― ◇出目54 〈堕ちた兵士たち(Demon's Soldiers)〉  〈悪魔兵士(Demon's Soldiers)〉 出現数:1d6+1  レベル:4  宝物:修正−1 ≪反応表≫ 【死ぬまで戦う】    これは【人間型】【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーの攻撃は【斬撃】の特性を持つ。  このクリーチャーは常に【死ぬまで戦う】。   ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ***  前方から、ポロメイアの鎧を着た一団が歩いてきた。  オーズ卿の部下たちと思われたが、近づくにつれ、その異形が明らかになる。 「ああ、人だ」  そのうちの一人が、嬉しそうにこちらを指差す。 「おーい、お前たちも俺たちの仲間になれ。悪魔の仲間になれば、飢えも渇きもない。苦しみも悲しみもないぞ」  声の明るさとは裏腹に、彼らの顔は暗い妄念が映し出されていた。憎悪だ。すでに彼らは人ではなかった。オーズ卿の部下の何人かは、砂漠の苦しみから逃れるために、悪魔に魂を売ったのだ。  いまや彼らは悪魔の兵士だった。悲しいかな、もはや戦うしか救う方法はない。 ―――――――――――――――――――――――― ◇出目55 〈闇エルフの待ち伏せ(Dark Elf Ambush)〉 〈闇エルフ(Dark Elf)〉 出現数:1d6+1  レベル:4  宝物:修正+2 ≪反応表≫ 1-2【ワイロ】(サイズを問わず、宝石ひとつ)3-6【常に敵対的】  闇エルフは【人間型】【悪の種族】に属する。  闇エルフは第0ラウンドに、弓矢を使った射撃で攻撃を行う。  第1ラウンドには弓矢を接近戦武器に持ち替えるため、主人公たちは【防御ロール】をする必要がない。  弓矢、接近戦武器のどちらも【斬撃】の特性を持つ。  【ワイロ】により一時的に心変わりが可能であるが、物品がなければ常に敵対的となる。【ワイロ】が成立すれば敵はこの場を去る。  闇エルフの武器には【毒】が仕込まれているため、攻撃を一度でも受けると、この戦闘中のみ【攻撃ロール】【防御ロール】共に-1の修正がつく。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ***  悪魔に魅入られた亜人たちが、密かに冒険者を狙っていた。彼らは、悪魔を信奉する闇エルフだ。  エドガー王の使命を受けた者たちを悪魔に近づけぬために、異常な忍耐力で砂山に身を隠して待ち伏せていた。手に持つ曲刀には毒が仕込まれている。 「悪魔が支配する、闇の世界をつくるのだ。それを邪魔する者はここで葬り去ってやる!」 ――――――――――――――――――――――― ◇出目56 〈竜人の軍団(Dragon Man Corps)〉  〈竜人(Dragon Man)〉  出現数:1d3+1  レベル:4  宝物:通常 ≪反応表≫1-2【ワイロ】(1体につき金貨20枚) 3-6【敵対的】 ◆〈ライディン〉が同行している場合は、1-3は【中立】 4-6は【敵対的】  これは【少数種族】【人間型】に属するクリーチャーである。このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。  戦闘が起きた場合、第0ラウンドにおいて〈竜人〉のうち2体が炎の息を吐く。これは飛び道具による攻撃として扱われ、対象のキャラクターは【対魔法ロール】を行わなければならない(目標値は敵クリーチャーのレベルに等しい)。判定に失敗したなら、炎の息で火傷を負ってしまうため、生命点に1点のダメージを受けなければならない。  また〈竜人〉は、牙と爪を持ち前の武器としているため、炎の息を吐いた後であっても、持ち替えの必要なく第1ラウンドから接近戦の攻撃を行える。  接近戦の武器による【攻撃ロール】でファンブルが発生した場合、〈竜人〉は即座にカウンター攻撃を行うため、ファンブルを出したキャラクターは生命点を1点減らさなければならない。    第4ラウンドの終わりまでに勝利していない場合、部下を休ませ単独で行動していた軍団長〈ドラヴォーグ〉が帰ってくる。その場合、出目65へ進むこと。(すでに倒していれば、ここで戦闘は終わる)   〈ライディン〉は同族との争いを好まないため、この戦いには参加しない。反応が【中立】の場合、お互い争いを避ける。次の〈できごと〉に移ること。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ***  岩が重なった木陰で、竜人たちが腰をおろしていた。  彼らはよじれ森の近くの集落に住む竜人だ。普段から他の種族とは敵対的だった。それが不和の胞子を浴び、さらに心が歪に変貌し、攻撃的になっていた。容貌も悪魔めいた印象を与える。 「我らはドラヴォーグ様の勇猛なる軍団だ。悪魔の力を借りて、人の世を滅ぼすのだ」 ――――――――――――――――――――― ◆出目61 〈偵察する眼球(Eyeball to Scout)〉   〈ウォッチャー(Watcher)〉 レベル:3 生命点:4 攻撃回数:4 宝物:通常 ≪反応表≫ 1-3【中立】 4-6【敵対的】    反応が【中立】の場合、〈ウォッチャー〉は何もせずに去っていくが、情報が敵側に筒抜けになり『手がかり』を持っていれば1つ失うことになる。攻撃を仕掛け勝利したなら、これを防ぐことができる。  これは【怪物】に属するクリーチャーである。 このクリーチャーの攻撃は【打撃】の特性を持つ。  第0ラウンドにウォッチャーは【麻痺】の術を仕掛ける。  その対象は主人公側のキャラクターすべてである。  対象となったキャラクターは【対魔法ロール】を行う(目標値はこのクリーチャーのレベルに等しい)。  失敗したキャラクターは【麻痺】を受けてしまい、冒険が終わるまで【攻撃ロール】と【防御ロール】にー1の修正を受けてしまう。  この【麻痺】は「食料」を消費して生命点を回復することで解消できる(戦闘中は食料を使えないことに注意)。また、主人公が食料1個を消費することで〈弱いクリーチャー〉1体から【麻痺】を取り除くことができる。  このクリーチャーをこの場所で倒すことで、敵側への情報が途絶え、偵察阻止に成功する。各最終イベントの戦闘において、【防御ロール】に+1のボーナスが得られる。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。「食料」であれば、【麻痺】と【渇き】は同時に解消される。 ***  眼球を連想させる丸い怪物が、砂漠を浮遊していた。手足があり、何かを探すようにうろついている。  ウォッチャーと呼ばれる魔界の怪物だ。  魔法使いに召喚され、偵察用の眼として使役されることもあるらしい。おそらくウォッチャーの親玉は蛇禍にちがいない。高位の悪魔の指示によって、王国側の動きを調べているのだ。 ―――――――――――――――――――――― ◆出目62 〈砂漠のオドリバナ(Desert Odribana)〉  〈砂漠オドリバナ(Desert Odribana)〉 レベル:4  生命点:5  攻撃数:2  宝物:後述 ≪反応表≫ 1-6【死ぬまで戦う】 【植物】【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【打撃】の特徴を持つ。   〈オドリバナ〉を倒すと、口から過去に食らった冒険者の持ち物を吐き出す。【宝物表】を2回振って決めること。【幸運ロール】に成功すれば、+3の修正を加えてもよい(目標値:5)。   ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ***  よじれ森には、凶悪なオドリバナという怪物がいる。見かけは植物の姿をしているが、分類上は悪魔だ。  生きては帰れない砂漠は、こうなる前は豊かな森林だったという。災禍を生き延び、砂漠に適応する進化を遂げたオドリバナがいたとしてもおかしくはあるまい。  彼らは、砂の底で獲物を待ち侘びている。いざその上に通りかかったとき、長いつるを伸ばして襲いかかるのだ。 ―――――――――――――――――――――― ◆出目63 〈真紅の魔狼(Demon Wolf)〉 〈魔狼(Demon Wolf)〉 レベル:5  生命点:4  攻撃数:2  宝物:+2 ≪反応表≫ 常に【死ぬまで戦う】  これは【悪魔】に属するクリーチャーである。このクリーチャーは常に【死ぬまで戦う】。 〈魔狼〉は、殺気に対する反射神経が優れているため、生命点にダメージを与える攻撃(魔法を除く)を行うさいの【判定ロール】に-1の修正を得てしまう。 〈魔狼〉と遭遇した場合、相手は1d3体の〈黒狼〉を従えている。 〈魔狼〉の生死に関わらず、〈黒狼〉は常に【死ぬまで戦う】。  また〈黒狼〉が全滅するまでの間は、各キャラクターが〈魔狼〉を攻撃しようとするなら、それぞれの〈黒狼〉に対して、1人のキャラクターを攻撃に向かわせなければならない。  この場合〈黒狼〉に割り当てられるキャラクターが足りなければ、〈魔狼〉を攻撃対象に選ぶことはできない。 〈黒狼(Black Wolf)〉 出現数:1d3  レベル:5  宝物:なし  これは【動物】に属するクリーチャーである。 〈魔狼〉が倒された場合でも、このクリーチャーは、その命が尽きるまで戦闘を継続する。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   ***  蛇禍の影響か、普段はここにいるはずもない魔物も砂漠に集結していた。  真紅の鎧に包まれたような鮮やか毛並みの狼が、熱砂を駆けていた。  赤狼はひときわ体が大きく、周囲に数匹の黒狼を連れて、邪悪な存在感をまとっている。  魔狼。古代においては、王墓を守護するために召喚されたと伝えられる魔界の獣だ。  本来ならこのような場所で遭遇する魔物ではない。  灼熱の太陽に彼らも苛立っていた。その牙は、目についたものに否応なく向けられる。 ――――――――――――――――――――――― ◆出目64 〈蛇火老キュレイド(Old Fire Snake Curaid)〉  〈蛇火老キュレイド(Old Fire Snake Curaid)〉 レベル:5  生命点:5  攻撃回数:3  宝物:修正+1 ≪反応表≫ 【死ぬまで戦う】  これは【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーによる攻撃は【炎】の特性を持つ。  この敵に会うのが初めてなら、第0ラウンドで【炎球】を唱える。この【対魔法ロール】に失敗したら火柱の魔法が発動する(目標値:5 広い場所)。出目44へ進み対処すること。すでに火柱の魔法を経験済みなら、このまま戦闘を継続する。  3回の攻撃で、【炎球】の魔法、粘液攻撃【麻痺】(冒険が終わるまで【攻撃ロール】と【防御ロール】にー1の修正を受けてしまう)、芋虫の尾による【打撃】を行う。   ◇戦闘後、【激しい渇き】を覚える。解消するには「食料」または「水分補給」を2回分摂る必要がある。足りない分の生命点1点を失う。すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、さらに生命点1点が失われる。 ◇この敵を倒したなら、以降出目44はめくったマップとしては数えないが、対応済とする。出目44が出た場合は、出目を一つ大きくすること。 ***  敵の顔は灰色の肌をした老人だ。首から下は、ぶよぶよとした巨大な芋虫だった。肩口から、二つの長い角が伸びている。 「わしは蛇火老キュレイド。偉大なる蛇禍のひと首だ。早期に回復した三首は、邪魔者を殲滅するために砂漠に遊びに来てるのだよ」  老人は侮るように笑っていた。二つの角から炎が発射され、口からは白い粘液が飛び出した。 「降参するなら、今すぐ殺しはしないぞ。じわじわと楽しみながら殺してやる。ほうら、早く助けを懇願するのじゃ」 ―――――――――――――――――――――― ◆出目65 〈暴竜戦士ドラヴォーグ(Tyrant Warrior Dragogue)〉 〈暴竜戦士ドラヴォーグ(Tyrant Warrior Dragogue)〉 レベル:5  生命点:6  攻撃数:3  宝物:修正+1 ≪反応表≫ 1は【無視】(※逃走と同様) 2-3は【ワイロ】(魔法の装備品1個) 4-6は【敵対的】  これは【少数種族】【人間型】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーは【斬撃】の攻撃特性を持つ。  接近戦の武器による【攻撃ロール】でファンブルが発生した場合、〈ドラヴォーグ〉は即座にカウンター攻撃を行うため、ファンブルを出したキャラクターは生命点を1点減らさなければならない。  戦闘が起きた場合、第0ラウンドにおいて〈暴竜戦士ドラヴォーグ〉は、炎の息を吐く。その攻撃数は2回である。これは飛び道具による攻撃として扱われ、対象のキャラクターは【対魔法ロール】を行わなければならない。判定に成功したなら、炎の息を避けることができる。判定に失敗したなら、炎の息で火傷を負ってしまうため、生命点に1点のダメージを受けなければならない。 また〈ドラヴォーグ〉は、牙と爪を持ち前の武器としているため、炎の息を吐いた後であっても、持ち替えの必要なく第1ラウンドから接近戦の攻撃を行えるが、この時の攻撃数は1回である。 〈バーランド〉が同行していれば、彼はこの竜人の特徴を知っている。〈バーランド〉の【攻撃ロール】、【防御ロール】にはそれぞれ+1のボーナスがつく。  また〈ライディン〉は同族との争いを好まないため、この戦いには参加しない。  第4ラウンドの終わりに〈ドラヴォーグ〉に勝利していない場合、彼の部下たちが探しに現れる。この〈できごと〉の終了後、出目55へ進むこと。次が固定イベントであった場合でも出目55を完了させたあとに、固定イベントへ進むこと。ただし、すでに出目55で遭遇していれば、ここで戦闘は終わる。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   ***  大きな竜人だった。鱗が鋼のように硬質化し、黒光りしている。 「我らは悪魔に加勢し、ポロメイアに攻め込む。弱い者たちが徒党を組んで偉そうにする時代は終わる。力あるものが支配する時代に戻るのだ」  ドラヴォーグは、よじれ森の近くで仲間を率いる竜人の長だった。商大隊や集落を襲い、その粗暴な振る舞いは、たびたびポロメイアでも問題になっていた。  中でも、長であるドラヴォーグは暴竜の異名をとり、その悪名はポロメイアにも広く響き渡っていた。その彼が不和の胞子を浴びて、より暴力的となり立ち塞がる。 ――――――――――――――――――――― ◆出目66 〈蛇姫エリンガガ(Serpent Princess Eringaga)〉  〈蛇姫エリンガガ(Serpent Princess Eringaga)〉 レベル:5  生命点:6  攻撃回数:3  宝物:修正+1 ≪反応表≫ 1-2【ワイロ】3-6【死ぬまで戦う】    これは【悪魔】に属するクリーチャーである。このクリーチャーによる攻撃は【炎】の特性を持つ。 【ワイロ】は従者を一人犠牲にすることで、この場から逃げ出すことができる。  エリンガガの身体は異様に柔らかく、粘土のように変容する。このため【打撃】の特性を持つ攻撃は【攻撃ロール】に−1の修正を受ける。 〈エリンガガ〉は、【死の抱擁】【邪視】【打撃】の順で攻撃する。 ◇【死の抱擁】  これは平たくなった胴体で敵を包み込む攻撃である。【防御ロール】に失敗すると、強い圧力で締め付けられ、生命点1点が失われる。主人公が【死の抱擁】を受けた場合、次のラウンドから【攻撃ロール】の代わりに【筋力ロール】を行って、この窮地から脱出しなくてならない。解放されないかぎり、主人公は【筋力ロール】以外の行動を行うことはできない。このクリーチャーが対象1体を包み込んでいるあいだ、他の対象に【死の抱擁】は行わない。このクリーチャーが包み込んだ主人公に対して行われる攻撃は生命点に1点のダメージを与え、【防御ロール】は行えない。【死の抱擁】が発動している間は、このクリーチャーは【邪視】を行わず、攻撃は包み込んだ対象と【打撃】の2種類となる。  【死の抱擁】が成功しているあいだ、エリンガガの体は殻をまとったように硬質化し、同行者の【攻撃ロール】に-1の修正が与えられる。  包まれた対象が【筋力ロール】に成功する以外に、同行者がクリティカルで攻撃を成功をすることでも【死の抱擁】からの解放は可能である。  また従者が【死の抱擁】の餌食となった場合、【ワイロ】同様、そのあいだに逃げ出すことができる。 ◇【邪視】  対象1体に対して行う。主人公が【対魔法ロール】に失敗したら、〈エリンガガ〉が魅力的な存在として映り、攻撃にためらいが生じて、【攻撃ロール】に-2の修正を得てしまう。従者が失敗した場合は、この戦いにおいて敵に寝返り、味方に攻撃するようになる。この場合、敵としての従者のレベルは、技量点に4点を足したものとなる(特殊技能は行使されない)。  エリンガガを倒せば、従者は正気に戻る。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   *** 「おや、こんな砂漠の奥まで何のようかしらねぇ?」  女の声をしているが、顔は蛇だった。目を細め、チラチラと赤い舌を出している。首から下は異様に膨らんでいた。何十枚ものドレスを着込んでいるようにやたらとでかい。細長い顔と不釣り合いで、不気味この上なかった。 「さては死にに来たのか、悪魔退治に来たのかどちらかだねぇ」  蛇女はケラケラと笑った。 「といっても結局死ぬのは一緒だけどね。出会ったのが私でほんと運がいいわねぇ。蛇火老は燃やすし、大蛇卿はなぶり殺しだから見苦しいったら、ないわ。蛇姫エリンガガが一番美しい死を与えるの。だって、何にも残さないんだからねぇ。骨も肉も、すべて溶かしてしまうんだから」  そういうと、エリンガガの体は、風を受けたかのように平たく膨らんだ。  服が裂け、腹部に縦長の口が開いた。巨大な影が、包み込むように襲いかかってくる。 ――――――――――――――――――――――― ★出目71 〈砂嵐の刻(Sandstorm)〉 【砂嵐】が荒れ狂う。 【筋力ロール】を行うこと(目標値:6)。失敗すれば、強風に飛ばされ、瓦礫に激突し、生命点1点を失う。  次に【防御ロール】を行うこと(目標値:5)。失敗すれば、風に紛れた石礫がぶつかり、生命点1点を失う。  さらには【器用ロール】を行うこと(目標値:4)。失敗すれば、装備品を1つ失う。(失うアイテムは任意に選んで良い) 〈キャメルキック号〉に乗っていれば、すべての判定に+3、〈デザート・ドール〉に騎乗していれば+2、ラクダに騎乗していれば+1のボーナスが受けられる。 『精霊との約束』があれば、すべてのロールは必要ない。不思議なことに強風は主人公にまったく被害を与えない。 ***  視界の広範囲で、大量の砂塵が宙に巻き上がった。  焦茶色に波打つ巨大なカーテンのように、砂は稲光を伴い、周囲の生きとし生けるものを飲み込んでいく。  横殴りの石礫が幾つも飛来して、強風が盗人のように荷物をさらっていく。  弱きものは、身を屈めてやり過ごすしかない。恐ろしい嵐が去るのを静かに待つのみだ。運が悪ければ、それでも命を攫われてしまうだろう。 ――――――――――――――――――――― ★出目72 〈砂丘の崩落(Dune Collapse)〉  眼前にそびえる〈砂丘〉が、音を立てて崩落する。 〈ライディン〉が〈飛龍〉の能力を使えば空へ逃げることができ、この災難からの被害は受けない。 【騎乗生物】がいれば、以下の対処ができる。   ◆〈キャメルキック号〉  砂の波をうまく乗りきり、無傷でこの窮地を凌ぐことができる。この出目にくるのが3回目であれば、〈キャメルキック号〉は大量の砂が原因で故障してしまう。乗り捨てていかなくてはならない。   ◆〈デザート・ドール〉または〈ラクダ〉  命を懸けて守ってくれる。しかしここで〈デザート・ドール〉は生命点1点を失い、〈ラクダ〉は死を迎える。  どれも対処できない場合、【幸運ロール】を行うこと(目標値:7)。  失敗すれば生命点1点を失い、大量の砂に埋もれてしまう。そこから脱出するには、さらに【器用ロール】に成功しなくてはならない(目標値:5)。これに失敗するごとに生命点1点を失い、さらには装備品を1つ失う。成功するまで、生きて抜け出すことはできない。 ***  勾配のある砂丘で、砂が崩落をはじめる。  大地が鳴動し、塊となって移動する。  壮大な光景に目を奪われている時間はない。  砂の塊は大海の津波のように、真下にいるものに襲いかかる。  急いで逃げ出さなければ、その波に呑まれて埋もれてしまうだろう。生きては帰れない砂漠は、今まさにその本性を表す。砂の瀑布が轟音を轟かせ、一帯の生命を駆逐する。 ――――――――――――――――――――― ★出目73 〈永遠の灼熱(Eternal Burning)〉  一帯に入ると、急激に気温が上がり、渇きも加速する。足元の熱砂も照り返しが炎をまとっているようだった。 【激しい渇き】が続く。2回分の「水分補給」が必要になる。足りない分の生命点1点が減らされる。すでに【渇き】を覚えている場合はさらに生命点1点を失う。〈キャッスル・ドール〉もここでは役に立たない。 ***  暑い。先ほどまではそう感じていた。  しかし砂煙が晴れ、太陽が狂ったように燃え出した。   風もなくなる。  熱い。まるで煮えたぎった鍋底にでも放り投げられた気分だった。砂が、空気が、めらめらと湯気立ち、今にも炎を吹き出しそうにさえ見える。  熱波と熱砂から身を隠す手段は見当たらない。ただ足を前に進めるしか、この苦難から逃れるすべはない。 ―――――――――――――――――――――――― ★出目74 〈死海の主(Lord of The Dead Sea)〉  この辺りの砂の粒子は非常に細かく、生き物のように流動している。底なし沼のように体が沈んでいく。もがけばもがくほど砂にはまっていく。砂の底から〈死海の主〉が顔を出す。   〈キャメルキック号〉〈デザート・ドール〉〈ラクダ〉に騎乗していれば、流れる砂から脱出できる。しかし〈デザート・ドール〉と〈ラクダ〉の場合は身代わりとなって、〈死海の主〉の餌食となる。この出目にくるのが二度目であれば、〈キャメルキック号〉も今回は砂に飲み込まれ、乗り捨てていかねばならない。 〈ライディン〉が〈飛龍〉の能力を使えば、空へ逃げることができる。    いずれの方法もなければ【器用ロール】を行う(目標値:7)。成功させれば、完全に沈む前に抜け出せる。【ロープ】を持っていれば、この判定には自動的に成功する。  抜け出せなければ、不安定な状態のまま待ち構える〈死海の主〉を倒さなくてはならない。砂に囚われているため、【攻撃ロール】【防御ロール】ともに−2のペナルティを受ける。  〈死海の主(Lord of The Dead Sea)〉 レベル:5  生命点:10  攻撃数:2  宝物:なし ≪反応表≫ 【劣勢であれば逃走】【ワイロ】1-2(食料2個相当)【敵対的】3-6 〈死海の主〉は【虫類】に属するクリーチャーである。鋏状のあごで、腕または脚を突き刺そうとする。【防御ロール】でファンブルを出すと、手ひどい傷を負うことになり、生命点1点とともに技量点1点を失う。このペナルティは今回の冒険を無事終えれば回復してよい。生命点が各主人公+戦う従者の合計人数以下になったら、〈死海の主〉は逃走する。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。  流れる砂から回避できたのなら、死海の主は地中へ姿を隠す。戦う必要はない。また一度死海の主を倒したことがあるとしても、この怪物は一匹ではない。砂漠の至るところに巣を作っている。何度でも現れる。 ***  急に足元の抵抗を失う。砂が液体のように柔らかくなり、体が砂の中に沈んでいく。  厄介な流砂かと思ったが、事態はそう単純ではなかった。  砂は逆円錐のかたちで渦を巻き、その中心から、無数の棘が生えた二つの突起が現れた。  死海の主と呼ばれる巨大な虫の化け物だ。二つの突起で砂を操作して、獲物を引き摺りこもうとしている。捕まれば、逃げ出すのは困難だ。 ――――――――――――――――――――――――― ★出目75 〈砂漠竜の横断(Crossing Desert Dragon)〉 〈砂漠竜〉が砂と風を撒き散らし、上空を横断する。  巨大な石礫が軽石のように舞い上がり、しばらくまともに歩くことはできない。幸運ロールを行うこと(目標値:7)。失敗すれば巨大な岩石がぶつかり、生命点1点を失う。『精霊との約束』を使用すれば、不思議とこの石礫は命中しない。〈キャッスル・ドール〉がいる場合も、変形して石礫を防いでくれる。もしこの出目にくるのが二度目であれば、今回〈キャッスル・ドール〉は石礫によって破壊されて動かなくなってしまう。   〈砂漠竜〉を倒せば、今後この〈できごと〉にきても、影響を受けることはない。しかし魔法の武器しか効かない強敵だ。そしてあちらからは、積極的に戦う意志はない。手を出さない限りは戦闘にはならない。〈砂漠竜〉にとって、君は石や砂と同じ風景の一部でしかないのだ。  〈砂漠竜(Desert Spirit Dragon)〉 レベル:8  生命点:12  攻撃数:1  宝物:修正+3 ≪反応表≫ 1-6【無視】  砂漠竜は【精霊】に属するクリーチャーである。その攻撃は【炎】の特性を持つ。  大規模な熱風を吹きかける。1d6のダメージを全体で振り分けること。誰が受けるかは任意で決めてよい。【幸運ロール】に成功すれば、このダメージを半減できる。  また〈砂漠竜〉は「魔法の武器」または【氷】の特性を持つ攻撃や魔法などでしかダメージを受けない。こちらから攻撃をやめれば、〈砂漠竜〉は関心を失い、砂嵐と共に消えていく。 〈砂漠竜〉の横断中は高温となるため、【激しい渇き】を覚える。解消するには「食料」または「水分補給」を2回分摂る必要がある。不足分の生命点を減らすこと。すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、さらに生命点1点が失われる。〈キャッスル・ドール〉がいれば、この影響を受けることはない。   ***  雷鳴のような咆哮が聞こえた。  竜巻をまとった雲が空を覆う。よく見ると、それは巨大な竜だ。砂漠竜は、雲霧のような粒子状の姿をした、肉体を持たない聖霊だ。怪物というより、自然災害のようなものだった。強力な魔法を持たなければ、ただ早く過ぎ去るのを祈るしかない。 ―――――――――――――――――――――― ★出目76 〈魔塔の守護者(Guardian of theDemon's Tower)〉  ついにもう一つの〈死者の塔〉を見つける。  門番として待ち構えるのは、〈デーモンゴーレム〉だ。  相手は敵に気がついていないのか、微動だにしないため【先制攻撃】を仕掛けることができる。   〈デーモンゴーレム(Demon Golem)〉 レベル:5  生命点:8  攻撃数:3  宝物:修正+2 ≪反応表≫ 常に【死ぬまで戦う】   これは【ゴーレム】【悪魔】【人間型】に属するクリーチャーである。戦闘では、常に【死ぬまで戦う】。  このクリーチャーは【打撃】の攻撃特性を持つ。 〈デーモンゴーレム〉に対して、【斬撃】の特性を持つ武器で攻撃した場合は【攻撃ロール】に-2の修正を受けてしまう。   ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 〈デーモンゴーレム〉を倒したら〈最終イベント〉へ進むこと。   ***  その塔は、君がこれまで見てきた建造物とは、とても似つかぬ造りをしていた。  壁は、悪魔の姿をしたものが、何体も体を捻じ曲げ、積み重なってできていた。彼らが獲物として連れ帰った人びとの顔が、彫り物のように浮き上がっている。それらは苦悶の表情で泣き叫んでいたが、その声は風にかき消されていた。  塔は建設途中であり、まだ中程までしか完成していなかった。  遠くから見ていると、上空から飛んできた下級悪魔が自分の体を壁に繋いでいた。捕らえた人間の魂を装飾のように塗りこんでいる。  そうして悪魔自身と獲物である魂を材料として、新たな死者の塔は造られていた。  屋根はなく、塔の内部から空に向かって黒い砂煙が舞い上がっていた。その細かい粒子は、風に乗って南東のポロメイア小国家連合のある方向へ流れている。  塔に近づくと、正門に像が立っている。悪魔の姿をしているがガーゴイルではない。  それは、悪魔の肉体により製造されたゴーレムだった。かつて生者の塔の隣に立つ死者の塔には、ガバナックゴーレムという強力な守護者が、番人として待ち構えていたという。それにならって、悪魔たちは自らが組み合わさり腕や胴体となって、ゴーレムに模したものをかたち造っていた。塔への侵入者を感知すると、デーモンゴーレムはゆっくりと動き出す。 ――――――――――――――――――――― 21:宝物表 ○宝物表(Treasure Table) ≪1d6で決定≫ 出目【1以下】 金貨1枚 出目【2】   1d6枚の金貨 出目【3】   2d6枚の金貨(下限は金貨5枚) 出目【4】   1個のアクセサリー(1d6×1d6枚の金貨と同等の価値) 出目【5】   1個の宝石・小(1d6×5枚の金貨と同等の価値。下限は金貨15枚の価値) 出目【6】   1個の宝石・大(2d6×5枚の金貨と同等の価値。下限は金貨30枚の価値) 出目【7以上】 【魔法の宝物表】でダイスロールを行う。 ―――――――――――――――――――――― ●魔法の宝物表(Magic Treasure Table) ≪1d6で決定≫☆ 出目【1】 〈安らぎのフルート(Flute of Peaceful )〉  出目【2】 〈破魔水(Breaking the Magic Water)〉 出目【3】 〈精霊コンパス(Spirit Compass)〉  出目【4】 〈グレートグアディアーナの恵み(Blessing of Great Guadiana)〉 出目【5】 〈ヴェルディアの手(Verdia's Hand)〉 出目【6】 〈キャッスル・ドール(Castle Doll)〉  -------------------------------------------  ●魔法の宝物表(Magic Treasure Table) ≪1d6で決定≫  ------------------------------------------- ●【1】 〈安らぎのフルート(Flute of Peaceful)〉  このフルートを奏でると、【気絶】の魔術と同等の効果を発揮できる。 『安らぎのフルート』は、【魔術点】を消費しない。 【魔術点】を持たないキャラクターは、【技量点】を基準に【魔術ロール】を判定する。 フルートには3回分の魔力が込められている。魔力が切れてしまった後は、普通の杖(軽い武器/打撃)になってしまう。 --------------------------------------------- ●【2】 〈破魔水(Breaking the Magic Water)〉    使用すると【誘惑】された従者を正気に戻すことができる。ただし、【誘惑】されたまま〈できごと〉が変わってしまった場合には効果がない。   --------------------------------------------- ●【3】 〈いたずら精霊のコンパス(Spirit Compass)〉   古の精霊が遊びで作ったとされるコンパス。持ち主が願った場所を指し示すと言われる。  一回だけ、d66を追加で2回振り、そこから次の〈できごと〉を選ぶことができる。2回目以降、コンパスの針の向きはまったく信用ならない。未使用なら、金貨50枚の価値がある。  ---------------------------------------------- ●【4】 〈グレート・グアディアーナの恵み(Blessing of Great Guadiana)〉  砂漠の小国〈アルマシウダ〉で発掘された秘石のついた首飾り。  これを身につけているあいだ、秘石のエネルギーにより、護りが強くなる。【防御ロール】と【幸運ロール】に常に+1の修正がつく。冒険が終わると、効力は失われる。 ----------------------------------------------- ●【5】  〈ヴェルディアの手(Verdia's Hand)〉    砂漠から発掘された古の彫像の手。人とも猿ともつかぬ形をしているが、自然神ヴェルディアの手と推察されている。魔法が備わっており、願った能力値を回復させてくれる。合計3点回復させると、彫像の手はひび割れて効力を失う。 ----------------------------------------------- ●【6】 〈キャッスル・ドール(Castle Doll)〉  〈キャッスル・ドール〉は、主人の命令に忠実な魔法の人形であり、主人公の経験点を1点消費することによって起動する。【ゴーレム】に属するクリーチャーである。「戦う従者(技量点0、生命点1)」として扱われる。攻撃特性は【打撃】である。  普段は、蜘蛛を思わせる長い複数の手脚を持ち、厚手の布マントを羽織っているが、命令すれば形を変えて小さな城を模倣したテントとなる。〈石礫〉や〈強風〉から防ぎ、また猛暑を凌ぐひと時の休息場所となる。  もしも〈デザート・ドール〉を所持していたら、〈キャッスル・ドール〉と合体させて〈サンドキャッスル・ドール〉に進化できる。その場合〈できごと〉において2体の項目を引き継ぐことになる。〈サンドキャッスル・ドール〉となっても生命点は1点のままだが、1回の冒険につき一度だけ、生命点に受けたダメージを無視できる。 ***  長いあいだ砂に埋もれていたそれは、風変わりな姿のドールだった。修行僧のように達観した表情の顔をしており、身体は厚手のマントに覆われていた。その内側には複数の細長い手脚が込み入っており、蜘蛛のような歩きで主人と認めた者の後をついてくる。 「ワタシは不完全。申し訳ない。足りないモノを探して砂漠に来た。そして埋もれた。申し訳ない。歩き方が気持ち悪くて、申し訳ない……」  暇さえあれば、そんな暗い謝罪を繰り返し呟いている。 ――――――――――――――――――――― 22:中間イベント(1回目)  数人の兵士が、黒い粘土のような生き物に襲われている。兵士の鎧の形から、オーズ卿の配下であることがわかる。すでに半数が砂の上に倒れていた。  黒い粘土には両手両足があり、歪んだ悪鬼の顔が浮かび上がっている。余力を余している兵士には爪をたて攻撃し、力尽き倒れた者には不気味な囁きを投げかけている。  黒粘土の正体は下級悪魔だ。彼らは死に瀕した者の魂を奪い去ろうと、砂漠を彷徨っているのだ。  〈下級悪魔(Lesser Demon)〉 出現数:1d6+1  レベル:4  宝物:修正-1 ≪反応表≫ 1【劣勢であれば逃走】 2-6は【死ぬまで戦う】  これは【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーによる攻撃は【炎】の特性を持つ。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ◇水または食料を分け与えれば、最大11d3の兵士(技量点0 :戦う従者)が回復して、従者として同行してくれる。 *** 「オーズ様は、悪魔に憑かれた部下たちを切り捨てて一人で行ってしまった。ルチアさまの祈りの言霊を聞いて、いてもたってもいられなくなったのだ」  祈りの言霊とは、神官として教育を受けたルチアが行った奇跡のかたちだった。彼女は蛇禍の悪魔に囚われながらも、隙をついて祈りの言霊を砂漠に放っていた。おそらく自分の償いを父に伝えるためだろう。  その奇跡は御守り袋の形をしていた。触れると、ルチアが悪魔になった経緯が、君の脳裏にも伝わってくる。  祈りの言霊 「父上、申し訳ありません。私は新しい侍女に騙されてしまいました。ドナと名乗るその侍女にそそのかされ、普段から抱いていた私の疑念や不安は、晴れ間を埋め尽くす雨雲のように膨らみつづけ、ついには神への信仰も覆ってしまいました。  馬鹿な娘とお思いでしょう。私は、お父様が母上を殺し、また言いよる女性たちを夜な夜な殺していると信じていました。自分の妄想と否定しつつも、その考えをずっと捨てることが出来ずにいたのです。  私の話を聞いたドナは、それは本当のことですと言い切りました。砦では当然の出来事として認知されており、口外しないのも暗黙の了解なのだと口元を隠しながら囁きました。また手引きしているのは、父の家臣たちであるとも言っていました。彼らがいる限り、凶行が終わることはない、と。どうすればいい? 私の問いかけにドナはこう答えました。  私に全部ゆだねればいい。私と代われ、と。彼女の瞳には、蛇がとぐろを巻くような、煙が虚空を揺らめくような、ぐるぐるとした渦が巻いており、一度覗き込むと、目を離すことが出来なくなりました。そのとき、引き摺り込まれるように、私は悪魔に取り込まれたのです」 ――――――――――――――――――――――― 23:最終イベント(1回目)  砂漠の中空を、細長い、黒い煙がぐるぐると舞っていた。それは悶え苦しむように、右往左往している。少女の顔と蛇の顔が、先端から代わる代わる見え隠れしていた。蛇は北を目指しているが、少女は必死にその支配に抗っているようだ。ルチアを乗っ取った悪魔だ。  〈誘惑の蛇ドナ〉 レベル:4  生命点:5  攻撃回数:3  宝物:通常 ≪反応表≫ 【死ぬまで戦う】  これは【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーによる攻撃は【炎】の特性を持つ。 ◇〈誘惑の蛇ドナ〉に通常の武器による攻撃は効かない。しかし魔力を帯びた武器、または【クリティカル】で命中した場合はダメージを受ける。〈誘惑の蛇ドナ〉の生命点がゼロになった場合は、ルチアも死ぬことになる。その場合、今回の冒険はこれで終了となる。   〈誘惑の蛇ドナ〉は三回の攻撃のうち、一回は【白い息】を吐き、二回は【黒い息】を吐く。各主人公が1回の攻撃を受け、従者の1人が1回の攻撃を受ける。残りは任意で決めてよい。 【白い息】は精神に暗いイメージを植え付ける。【防御ロール】に失敗すると生命点1点を失い、この戦闘が終わるまですべての【判定ロール】に-1のペナルティがつく。〈クカの実〉を使用している、または【幸運ロール】(判定値は敵クリーチャーのレベルに等しい)を行い、成功することで【判定ロール】のペナルティを回避できる。すべての主人公が【白い息】を一度浴びた場合は、次のラウンドから攻撃は3回とも【黒い息】となる。 【黒い息】には毒が含まれている。【防御ロール】に失敗すると生命点1点を失い、【生命ロール】(判定値は敵クリーチャーのレベルに等しい)を行い、失敗するとさらに生命点1点を失う。   ◇【クリティカル】で命中した場合、ルチアの苦しげな悲鳴が響き渡る。そうではない攻撃が成功したら、ベイリーに教えてもらった呪文を唱えることができる。3回の成功で悪魔を〈吸魂の壺〉に封じる。見事、〈誘惑の蛇ドナ〉の封じ込めに成功したのなら、主人公は王宮へと帰還する。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 ――――――――――――――――――――――― 24:冒険の終わり(1回目)  君が吸魂の壺を王宮に持ち帰ったとき、王の反応は、喜びよりも驚きが勝っていた。 「それは本物か?」 「まちがいありません。ルチアさまに取り憑いた悪魔が封じ込まれています」  神官長ベイリーが確認し、保証した。 「エドガー王、我々にもう一度チャンスをください。今度こそ、ルチア様と悪魔の分離を成功させてみせます」 「王は、一度ルチア様ごと悪魔を殺すよう命を出したのだ。それを簡単に撤回しては、示しがつかない」  兵士長バーランドが王の代わりに答えた。 「それにまた逃げられたら、ますます人心は離れるぞ」 「次は失敗はいたしません」  王は苦しげに目を閉じた。 「畏れながら父上」  すると、マリノアが王の前に歩み出た。彼女のすぐ後ろに、身だしなみを整えた若いコビットも続く。 「父上、ルチア姉様はコビット村の住人たちに慕われています。オーズおじ様が外交的でなかった分、お姉様が彼らの元を訪れ、親睦を深めていました」  マリノアが振り返ると、若いコビットも前に進み出て、王に頭を垂れる。 「初めましてエドガー王。ぼくはコビット村の村長の孫で、補佐役を務めるラウ=バジルと申します」  弦で弾いたような良質な声で、ラウ=バジルは説明した。 「姫のおっしゃる通りです。正直に申し上げますと、我らコビットは、砦の領主であるオーズ様をよく思っておりませんでした。ひいてはその兄である王にも疑いの目を向けていました。オーズ卿をコビット村沿いの領主に据えたのは、よからぬ策略があるのではないか。そんな風に考えるものも少なくなかったのです。しかしながら、そのような疑念はすべてルチア様が打ち消してくれました。彼女は村へたびたび足を運んでは、我らの明け透けな不満や物言いに真剣に耳を傾け、丁寧な辛抱強い説明を繰り返し行いました。また気が優しく、細やかな気遣いで、しだいに信用を勝ち取っていました。コビット村で、ルチア様を悪く言うものはいません。もし彼女が亡くなれば、悲しむものは多いでしょう。それに、その指示を出したエドガー王にも怒りの矛先を向けかねません」  そう言いつつも、ラウ=バジルはどこか申し訳なさそうに顔を伏せた。 「今回の件、我らコビットにも責任があったとぼくは考えています。コビットたちはオーズ卿への不満や悪口を平気でルチア様に聞かせていました。オーズ卿が悪行を行っているという信憑性のない噂話でさえ、さも真実であるかのように語っていたのです。今思うと、それが発端となってルチア様は思い悩んでいたのかもしれません」  マリノアが父王に強く訴えかけた。 「父上、もし父上がルチア姉様を殺すように命令し、それが実行されたのなら、コビットたちは父を恨み、ひいては小国家連合の分断にもつながりかねません。もう一度、よくお考えください」  マリノアとラウ=バジル、その隣にベイリーも加わって王に頭を下げた。  エドガー王は深く息をつき、視線を落とした。彼が決めた命令は、国の行く末を大きく左右する。迷いが、眉間に深い皺を刻ませる。 「わかった……」  エドガー王は小さくうなずいた。 「冒険者よ、ここへ」  君は王の前に呼ばれる。 「よくぞルチアを殺さずに悪魔を捕らえてくれた。このエドガー=ガゼルバイデン、心から礼を言う。報酬を受け取るがよい」  バーランドが部下に指示を出し、報酬が準備された。  そのあと、関係者たちはそれぞれ新たな使命を王から与えられると、広間から退出した。  君の冒険は終わったが、場の空気は重たかった。  まだ悪魔は壺の中にいて、ルチアの体は奪われたままなのだ。すべてが解決したわけではない。    各主人公は金貨30枚分の報酬を受け取る。  また経験点1点を獲得する。   ―――――――――――――――――――――― 25:中間イベント(2回目)  砂漠の上空を、黒い翼の群れが飛んでいた。  異形の姿は、明らかに鳥ではなかった。長い手足と、泥土のような黒い肌をもつその正体は、下級悪魔の群れだ。砂漠のあちこちから集まり、まとまりの感じられない列をなしていた。 【幸運ロール】を行うこと(目標値:6)。成功すれば、悪魔の群れは気が付かずに飛び去って行く。失敗すると獲物をみつけた数体の悪魔が下降して襲いかかってくる。戦わなくてはならない。   〈有翼の悪魔(Winged Demon)〉  出現数:1d6+3  レベル:4  宝物:修正-1 ≪反応表≫ 1【劣勢であれば逃走】 2-6は【敵対的】  これは【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーによる攻撃は【炎】の特性を持つ。  このクリーチャーは、大きな両翼を広げて飛行しているので、飛び道具だと狙いやすい。そのため、飛び道具で攻撃する場合は【攻撃ロール】に+1の修正が得られる。 『鳥のあるじとの約束』を使用すれば、鳥たちが悪魔を襲い加勢してくれる。攻撃ロール+1、防御ロール+1してよい。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   ***  悪魔の行き先は砂漠の北だった。砂漠の中央あたりは、さらに過酷な環境となり、生きては帰れない砂漠の真骨頂とでもいうべき死の一帯だ。人には耐えられぬ熱気と湿度で、環境に適応して大きさも見た目も変容した怪物たちが棲まうという。  もしも遠眼鏡を持っていれば、群れが向かう方角に、細長い塔のような影を確認できる。  しかし仮にオーズ卿がまだ生きていたとしても、到底歩いてはたどり着けそうにない場所だ。今回の探索には関係がなさそうに思えた。 ――――――――――――――――――――――― 26:最終イベント(2回目) 「オーズ卿だ」  同行者がいれば、その一人が高い場所を指差した。  少し先の小高い砂山の頂上付近に、ぼろぼろの鎧姿が立っていた。  鎧の形からみてオーズ卿らしいが、尋常な様子ではない。腐敗したように皮膚は黒ずみ、ひび割れのような赤い筋がその上を走っている。腰から下は砂山に埋まったままだ。  呼びかけると、上半身だけが奇妙な捩れ方で振り向いた。瞳は真っ白で、邪悪な光を湛えている。 「この男は、自分の娘を救う代わりに悪魔に魂を売った」  オーズ卿の姿をしたものは、金属が擦れるような声で呼びかけに応じた。 「わしは男に教えた。娘に心を込めた手紙を書くがいい。その想いが届けば、娘は悪魔の呪縛から逃れるだろう、と。男は従い娘に手紙を書いた。契約の成立だ。男の魂はこの世界を去り、残った身体をわしが貰いうけた」  急に砂山が崩れ落ちた。しかしオーズ卿の体はそのままの高い位置で変わらない。 「しかし、残念ながらその手紙は届くことはない。そもそも娘に取り憑いた〈誘惑の蛇ドナ〉は我らからすれば下っ端。娘が拒否しなければ、神官たちでも分離することは可能だろう。手紙など無駄だった」  太く長いとぐろを巻いた大蛇の胴体が、砂山に隠れていた。牛馬をひと口で丸呑みできそうな、巨大な顎を持つ大蛇だ。まだら模様の鱗を持ち、目鼻はなく、代わりに顔の部分にオーズ卿の半身が生えている。 「さて、お前たちもわしの一部となるか? このサンドジェルマが願いをひとつ叶えてやるぞ」  恐ろしい邪気を、周囲に振り撒いていた。オーズ卿は、すでに凶悪な悪魔の一部となっていた。 〈大蛇卿サンドジェルマ(Lord of The Snake Sandgerma)〉  レベル:6  生命点:8  攻撃回数:3  宝物:修正+3 ≪反応表≫ 【死ぬまで戦う】  これは【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーによる攻撃は【炎】の特性を持つ。  攻撃は、剣による【斬撃】、牙による【斬撃】、尾による【打撃】である。  また、この戦闘において『手がかり』を1つ消費すれば、【防御ロール】に+2のボーナスが得られる。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。 *** ◇バーランドが同行しているなら 「オーズよ、悪魔に魂を売るとは愚かしい。かつて剣の腕を競った仲と思うと情け無いぞ。俺が終わりにしてやろう」  すると、オーズの姿をした悪魔サンドジェルマは、ありし日の卿の声で返した。 「似合わぬ髭などたくわえおって、陰で部下に馬鹿にされているだろう。王にこびつらう臆病者の証だ」  本来の心が戻ったのかと思い、攻撃を躊躇してもおかしくない場面だった。 「うるさい蛇だ。その手にのるか。悪魔のやり口などすでに経験済みだ」  ポロメイアの若き兵士長バーランドは、かつての友の姿をしたものに無情の刃を向ける。 ◇ラウ=バジルが同行しているなら 「オーズ卿、たしかにぼくらはあなたの悪口を散々言った! それがルチアさんを苦しめたことは反省している。けれど、それもやっぱり元はといえばあなたが愚か者だったからだ」  大地に叩きつけられる悪魔の攻撃をかわしながら、ラウ=バジルは、天にも届くような澄み渡った声で叫んだ。 「ましてや、悪魔に魂を売って、娘さんが喜ぶものか!」   ◆共通  倒すと、オーズ卿がルチアに宛てた手紙を発見する。それは、悪魔にそそのかされて書いたとはいえ、父親としての真心の込められた一葉だった。 ――――――――――――――――――――――― 27:冒険の終わり(2回目)  砂漠から出ると、生者の塔に立ち寄り、君はマリノア姫に手紙を渡した。オーズ卿の最期については、王宮まで伝言を頼んだ。  事情を理解したマリノア姫は、ベイリーに相談した。  神官長の顔には疲労感が漂っていた。  分離治療にだいぶ手こずっているらしい。その要因は、ルチアが自分を責め、殻に閉じこもっていることにあった。侍女であった蛇女の顔が主導権を握り、神官たちを嘲笑っていた。  父の手紙は無駄にはならなかった。 「ルチア、我が娘よ。私は、お前を殺すために砂漠を彷徨っている。しかし、もし出会えたとして、やはりまたそうすることはできないだろう。だから悪魔に魂を売り、お前を救うことに決めた。愚かな父を許して欲しい。お前には苦労ばかりかけてしまった。悪魔がお前に近づいたのも、私の不甲斐なさが原因だ。私は妻を、お前の母を失い絶望し、立ち直ることができなかった。いつまでもふさぎこむ私を、兄王も友人のバーランドも見ていられなかったのだ。砦の領主として新たな役割を与えられたが、満足に仕事も果たせず、恥ずかしい話だが、部下や従者に八つ当たりばかりしていた。噂で聞いているかもしれない。命こそ奪ってはいないが、私は彼らや彼女たちに過剰な罵倒や暴力を少なからず行ったこともある。器の小さい人間だったのだ。  ルチア、お前は母親に似て心が優しく、賢さを持ち合わせている。悪魔に打ち克つ心を備えていると信じている。自由を取り戻したなら、私に代わり王の力になってくれ。最期まで独りよがりで愚かな父で申し訳なかった。だが、これだけははっきりしている。ルチア、我が娘よ、いつまでも愛している」    マリノアが、オーズ卿の手紙を読み上げると、状況は一変した。  蛇女の顔は動きを失い、代わりに痩せた少女の顔が、腕が、胸が、黒い煙の渦から現れる。  瞳から涙が溢れているが、それは恐怖によるものではなかった。父の想いが娘に届き、悪魔に打ち克つ勇気を与えたのだ。  ルチアの体が完全に黒煙から分離すると、神官たちの祈りは強度をあげ、悪魔をふたたび吸魂の壺に封じた。  そうして、ルチアに取り憑いていた悪魔は死者の塔に移され、魔界に送還された。  各主人公は金貨30枚の報酬を受け取る。  また経験点1点を獲得する。   ――――――――――――――――――――――― 28:中間イベント(3回目)  獣神岩には石造りの風除けの小屋があり、一時の休息が取れるようになっている。小屋には、交代で番人が派遣されているが、彼らは元々は囚人だった。  善心の持ち主とはいえず、すでに悪魔に取り憑かれている可能性もある。  反応表の確認をすること。   〈獣神岩の番人(Serion Rock's keeper)〉  出現数:1d6+2  レベル:4  宝物:後述 ≪反応表≫ 1-3【友好的】 4-6【死ぬまで戦う】 ◇【友好的】なら  番人たちは国王の命令に忠実である。小屋の中で安全に休息を取ることができる。生命点を+2回復する。また砂漠の様子について番人は教えてくれる。『手がかり』が1つ手に入る。   *** 「私らはここで砂漠の監視をし、王国に報告しています。この数日の悪魔の数は恐ろしいほどです。奴らはときどきこの場所にも降りてきます。小屋には神官が聖水を撒いてくれていますが、いつまで効果が持つかわかりません。早く交代の番人がくればいいのですが……あなたがなんとかする? ハハハ、そんなの期待できるわけがないじゃないですか」 ***   ◇【敵対的】なら  番人は【悪魔】に属するクリーチャーとなっており、【死ぬまで戦う】。  倒すと、番人の小屋から、1回分の「食料」と2d6分の金貨を見つける。これらを持っていってよい。聖水を入れる杯もあるが、中身はすでにない。 ◇戦闘後、【渇き】を覚える。「食料」か「水分補給」を摂ればすぐに解消されるが、すでに【渇き】を覚えている状態で戦闘に入ったのであれば、生命点1点が失われる。   ◆共通 ここから先のマップ表  これより北は、本当に帰って来れるかわからない危険な区域だ。カラクリ細工店のドワーフの言う通りであれば、もう一つの死者の塔はこの先にある。  ここから先、出目の十のくらいは自動的に7となる。  ここから先、一の位に6以上になるまで、〈できごと〉は繰り返される。(出目71が何度出ても71〈できごと〉は何度も発生する)  ただし、事前に『手がかり』を1消費すれば、出目に+1してもよい。この『手がかり』は一度のチャレンジで2個まで消費することができる。(例えば出目を振る前に『手がかり』2個を消費した場合、出目の一の位が4以上で出目76へ進む。)  ここから先のマップ表は以下のようになる。 出目の十の位が 7……★〈蛇禍の探索〉 ★蛇禍の探索 出目71〈砂嵐の刻(Sandstorm)〉 出目72〈砂丘の崩落(Dune Collapse)〉 出目73〈永遠の灼熱(Eternal Burning)〉 出目74〈死海の主(Lord of The Dead Sea)〉 出目75〈砂漠竜の横断(Crossing Desert Dragon)〉 出目76〈魔塔の守護者(Guardian of the Demon's Tower)〉   ◆『サファイヤヘッドとの約束』があるなら  ここで〈サファイヤヘッド〉と落ち合うことができる。彼から、新型のカラクリ砂漠走行車〈キャメルキック号〉を入手する。〈キャメルキック号〉は、装備品を占めないアイテムとして扱う。竜巻に強く、流砂に弱い。  もし他の【騎乗生物】がいれば、〈サファイアヘッド〉に預けておくことが可能だ。この冒険を達成したあと、キャメルキック号をシュガーブーツ商会に返却し、【騎乗生物】を引き取ることになる。  *** 「どうやら間に合ったようだ」  紫と青が入り混じった垂れ目のノームが追いかけてきた。その瞳は、嬉しそうにキラキラ輝いている。  彼は、砂の上を芋虫のように進む、竹と鉄で出来たカラクリに乗っていた。 「ラクダの蹄の衝撃吸収性とサンドワームの腹の適応力を研究して、おいらが開発した新型砂漠走行車だ。生きては帰れない砂漠を行くなら、乗っていきな。でっかい嵐にも簡単には負けないぜ」 ――――――――――――――――――――――― 29:最終イベント(3回目) 〈デーモンゴーレム〉を撃ち破り塔に入ると、内側はハリボテのようになっており、何もなかった。床も柱も階段もない。  中央の砂面から、大蛇の胴体と複数の頭が半身を突き出していた。  鱗の代わりに、真紅の花びらが全身を覆っている。  顎を大きくひらき、開け放たれた天井に向かって、不和の胞子を吐いていた。まるで蛇の姿を模倣した植物のように見える。 〈ベイリー〉か〈ライディン〉がいるのなら、以下のようにつぶやいただろう。 「これがエキュドナ。蛇禍であり蛇花、不和の胞子を撒き散らす張本人だ」 「何者か」 〈エキュドナ〉が来訪者に気がついた。  砂の中から第二、第三の首から現れ、それは最大四つの首となる。〈エキュドナ〉は地中に本体を持つ多頭の悪魔だった。完全体になれば、もっと首は増えていたに違いない。そうだったら、さらに厄介な敵になっただろう。 「よくここまで辿り着いたものだ。その無謀な勇気だけは認めてやろう。だが、愚かだったとすぐに後悔することになるぞ。小賢しい種族が、高位の悪魔に勝てるわけがないのだ。貴様も塔の一部となり、復活の糧となるがいい」  〈蛇禍エキュドナ 3体の首(Snake disaster Ecudona Three Heads)〉  レベル:6  生命点:6 攻撃数:3 宝物:なし ≪反応表≫【死ぬまで戦う】  これは【悪魔】に属するクリーチャーである。  このクリーチャーによる攻撃は【炎】の特性を持つ。    一の首は【黒煙】を吐く。【防御ロール】に失敗したら通常のダメージ1点を受けたうえ、感情のコントロールが定まらず、次の攻撃に移ることができない。この効果は1ラウンドで終了する。〈クカの実〉を使用していれば感情は昂っており影響を受けない(通常のダメージ1点のみ)。  二の首は炎を吐く。これは【炎球】の魔法と同様の効果がある。対象のキャラクターは【対魔法ロール】を行うこと。判定に成功すれば被害を受けることはない。判定に失敗したときは、火傷を負ってしまうため、対象のキャラクターは生命点に1点のダメージを受けてしまう。  三の首は、【斬撃】をともなう鋭利な牙で襲ってくる。この牙には猛毒が仕込んであり、【防御ロール】に失敗したら通常のダメージ1点を受けたうえ、【幸運ロール】(目標値は敵クリーチャーのレベルに等しい)に成功しなければ、次のラウンドから1ラウンドごとに生命点が1減っていく。「解毒剤」の服用【祝福】の奇跡でこのダメージは食い止めることができる。 〈ベイリー〉が同行していれば、先の三体の首を倒した時点で、彼が呪文を唱え、封印することが可能だ。 〈ベイリー〉が同行していなければ、第四の首まで倒さなければ、〈エキュドナ〉を〈吸魂の壺〉に封印することはできない。  第四の首は花が枯れ、どす黒く腐っている。この首は先の三体の首が倒れるまで攻撃することはない。三体が倒れると【斬撃】での通常攻撃を開始する。    〈蛇禍エキュドナ 第四の首(Snake Disaster Ecudona Fourth Head)〉  レベル:6  生命点:3 攻撃数:1 宝物:なし ≪反応表≫ 【死ぬまで戦う】   ◇封印成功 〈エキュドナ〉を見事封印すると、〈死者の塔〉の崩壊が始まる。これに巻き込まれないためには、〈デザート・ドール〉〈サンドキャッスル・ドール〉〈キャメルキック号〉のいずれかが必要となる。いずれもない場合、【幸運ロール】を行う(目標値:5)。失敗したなら、塔から脱出するのに各主人公は生命点2点を失う。  なんとか生きて塔を出てもまだ困難は続く。  砂嵐が巻き上がり、視界は真っ暗となり、前後左右がわからなくなる。 〈ライディン〉が同行しており、かつ生命点2点以上残っていれば、折れそうになった翼を広げ、この困難から逃れることができる。  または『ピンクヘッドとの約束』があれば、〈カラクリ凧バンデブー号〉に乗って彼女が救出に来てくれる。バンデブー号の帆にはドワーフとタコが混ざったようなヘタクソな絵が描かれている。風に乗って大空を翔ける、翼ある帆船のような乗り物だ。  これらの場合は、下記フレーバーテキストに目を通してから〈冒険の終わり(3回目)〉に向かうこと。  いずれでもなければ、辿り着いたときと同じように出目7番台の〈できごと〉を体験せねばならない。出目76が出るまで、サイコロを振り、中間イベント(3回目)のマップ表に従うこと。(『手がかり』を所持していれば、ここでも一度に2つまでを消費し、出目に足してよい)出目76が出たら〈冒険の終わり(3回目)〉に向かうことができる。   ***  塔の壁が崩れ落ちるとともに、悪魔の咆哮が空へと消え去った。巨大な構造物が砂へ崩れ落ちる様は、まるで呪われた文明の終焉を見ているかのようだった。  壁に張り付いていた悪魔の体や死者の顔も、どろどろに溶けて混ざり合い、細かく壊れ、やがて砂塵と化していった。  本当にこちらに進むのが正解なのか不安を覚えながら、砂嵐を進んだ。今は、身を預ける仲間を信じるしかない。  やがて嵐を抜けると、蛇禍の吐き出した黒煙も止んでいた。  高い空から見る砂漠は、まるで素朴な絵画のような、無為の空間に見えた。黄土色のただっ広い空間に、獣神岩だけがぽつりと何食わぬ顔で鎮座している。  視界には快晴の空が広がり、ポロメイアの街並みが眺望される。夏の太陽に照らされた白亜の建物はやけに眩しかった。  乾いた風が君の頬を撫でるが、それは邪気の混じり気がないせいか、清々しく心地がよい。 ――――――――――――――――――――――― 30:冒険の終わり(3回目)  ポロメイアの王宮には、大勢が集まっていた。  君が砂漠から帰還して、すでに七日が過ぎていた。  その翌日には、ベイリーら神官たちの手によって、封印されたエキュドナは魔界に送還された。  その後、関わった者たちの回復を待って、王宮で褒賞の場が設けられた。  王から一人ずつに直接褒美が渡され、感謝の言葉が伝えられる。  バーランドとベイリーは王座の両側でその様子を見守っていた。マリノア姫は、王族の列で肩身の狭そうにしているルチアに寄り添っている。  ラウ=バジルもコビット村への報告から帰ってきていて、君の隣で最後の冒険の話を聞きたがった。  スライダー率いるシュガーブーツ商会にも褒美が授与されたようだ。店主のドワーフの横で、部下と見られる奇抜な髪色をしたノームの少年少女がはしゃいでいる。 「そなたの助力を、このエドガー=ガゼルハイデン、生涯忘れることはないだろう。種族は違えど我らは友だ。心より感謝していたと、アルマ皇帝にも伝えてくれ」 「かしこまりました。必ずお伝えいたします」  ライディンは膝をつき、恭しく王に頭を下げた。彼の異形は、多種族の集まった広間にでもひときわ人目を引いていた。  次に、ルチアが呼ばれた。  彼女はおそるおそるといった様子で王の前に歩み寄った。  ルチアは、褒賞を受け取るどころか、むしろ罰をくだされると思い込んでいるようだった。王の前で、怯えたように立ちすくんでいる。  王は、やさしくルチアに話しかけた。 「たしかにそなたは悪魔にその身を奪われ、我々に混乱を与えた。しかし、それがなければ悪魔の魂胆は見抜けず、さらなる致命的な禍いがこの国にもたらされていただろう。悪魔に体を奪われても、最後に心を取り戻したお前の勇気が、国を救うきっかけとなったのだ」  エドガー王は、姪の瞳をじっと見つめた。 「ルチアよ、お前にはオーズの跡を継ぎ、砦の領主になってもらいたい」 「え」  突然の申し出に身を硬直させたあと、ルチアは首を激しく横に振った。 「とんでもありません!」 「名案です」  合いの手を入れたのはラウ=バジルだ。 「コビット村は大歓迎です」 「ルチアよ、不安だとは思うが、しばらくベイリーにも滞在してもらい支えてもらう。お前のことは皆で支援する。心配せずともよい」  ルチアが元の場所に戻ると、ラウ=バジルとベイリーがすぐに彼女に歩みよった。マリノア姫も嬉しそうに、「姉さま、わたくし、必ず遊びに行きますわ」と微笑んでいる。  最後に、君の番がきた。  前に進むと、王はさらに近くまで来るよう手招きした。 「今回、悪魔の暗躍を許した発端は、私にもある」  王は小声で打ち明けた。 「弟の妻がなくなり、オーズが落ち込んでいるときに、私は兄として何もできなかった。砦の領主として任務を与え、気持ちを切り替えてもらおうと思ったが、それも逆効果だった。弟は、王である私に邪魔者扱いされたと思い、かえって塞ぎ込んでしまった。部下に酷い仕打ちをしているという報告も耳に入っていたが、私は、身内の甘さゆえにそれも見逃してしまったのだ。今思えば、あのとき弟のところに直接出向いて、強く叱るべきだった。娘のルチアのために身を正すことを、心から諭すべきだった」  王の言葉は弱々しかった。  他の者たちには聞こえてはいないだろう。いや、聞こえないようにしゃべっている。なぜ自分にそんな大事なことを話すのかとも思ったが、王の立場を考え、君はただ耳を貸すだけにした。  所詮、一介の冒険者だ。何を聞いたところで支障はない。仮に酒場で王の弱音を話したところで、あのエドガー王が君にだけそんなことを言うはずがない、話を盛りやがって、と笑い飛ばされるだけだ。 「これからはそのようなことにはならぬよう、誠心誠意をもって職務に当たるつもりだ」  その自分への戒めとも今後の宣言とも受け取れそうな呟きを最後に、王の声音はいつもの調子に戻った。  君の活躍を語り、その勇敢さをみなに称え、もっとも価値のある褒賞を渡した。 「さて諸君」  その頃には、王の顔から最初に見たときの翳りは完全に消えていた。  広間を見渡すと、多くの従者たちが忙しそうに宴の支度を始めている。  テーブルが並べられ、クロスが敷かれ、酒と食事が運ばれる。よじれ森から収穫した不思議なかたちの果物や丸々獣の肉料理、その他この地方でしか見られない鮮やかな食材が広間を彩った。  シュガーブーツ商会の二人のノームが鼻を突き出し、肉の焼ける匂いを嗅いでいた。親方であるスライダーも、酒のジョッキを探してうろつき出す。腹を揺らして、気難しそうな顔がまるで子供のようにほころんでいた。 「ともあれ」  王はふたたび君を自分のそばに招き寄せると、肩に手を置いた。大きな温かい手のひらだ。 「この者は、生きては帰れない砂漠から帰還した最初の人間となった。砦の新しい領主ルチアと、それを救い出したポロメイアの英雄のために、今夜は盛大な宴としようではないか。皆のもの、大いに騒ぐがいい。我らは悪魔の禍に打ち克ったのだ!」  高らかにそう言うと、王は自ら率先して祝杯をあおった。それをきっかけに、バーランドも佇まいを崩して王にかけ寄り、空いたばかりの杯に酒を注いだ。そんな二人を見て、ベイリーも愉快そうに笑っている。  重臣たちのそんな振る舞いを見て、やがて他のものたちも羽目を外した大騒ぎを始める。  ポロメイア小国家連合は、多くの民族と多様な姿の種族を抱えている。諍いや揉め事も絶えないはずだが、そんなことは感じさせない明るい雰囲気に場は包まれていた。  やがて楽団が音楽を奏でると、ラウ=バジルはそれに合わせて即興で唄った。同郷らしいコビットの娘の手を取って、愛の告白でもするかのように心のこもったバラードを響かせる。その歌は想像以上に素晴らしく、終わってたあともしばらく拍手と歓声が鳴り止まなかった。ルチアもこれまでの不幸を忘れたかのように微笑んで、喝采を送っている。  君は、ようやく目の当たりにした。  これが、ポロメイアの、太陽の国と呼ばれる本来の姿だ。    各主人公は金貨30枚分の報酬を受け取る。  また経験点1点を獲得する。                     (完)  ――――――――――――――――――――――