プロローグ

大地に突き刺さるような白い剣の形の山が見えた。
周辺では『雪剣』と呼ばれる山。剣雹山脈で一番険しく高いとされる。
この山には正式名称がふたつある。長年のあいだ、領地問題でもめているからだ。

北方都市サン・サレンと蛮族都市フーウェイ。
互いの領地の境界線上にあるこの山を互いの都市が領有を主張している。
あまりに長くその争いが続いてきたため、ある解決策が提案された。

「双方が代表を出し、雪剣の頂を目指すこと!最初に頂にたどりついた方の都市が、雪剣一帯を領地とする!」

雪剣は麓がなだらかで自然豊かだが、頂上に近づくにつれて険しく雪と氷、そして人外のクリーチャーがいる世界だ。
このため誰も頂に辿り着いた者がいない。
踏破者には膨大な報酬と雪剣の正式名称をつける栄誉を頂くことになった。

そして君は厳しい選考を潜り抜け、サン・サレンの代表として従者を連れて雪剣を登っている。
ここまでに脱落者はいない。だが問題はここから先。山が人を拒否し始める領域だ。

休憩時間の間にこれからのルートを想像すると同時に、ライバルの存在を思い出す。
蛮族都市フーウェイの代表。雪深い山岳地帯にすむ有力部族の一つ。その長であるゴ・ベルワンだ。
『雪豹』の異名を持ち雪山のスペシャリスト。噂だけは聞いており、どんな豪快な男かと身構えていた。

しかし、調停を兼ねた出立式で見かけた彼は少し違った。
年端も行かない息子と赤子を抱えた妻から、勝利と帰還の願いを込めた手袋とお守りを受け取っていた。
戦士というより、家族を大事にする優しい父という印象だった。

だが、それはこの雪剣の頂を目指すことに関係は無い。
勇者とは誰も何かしらを背負い、立って進むのだ。~大金、名誉、家族、幸福な未来……。
目指す宝は人それぞれだが、それは確実にこの先にある。

休憩終了を従者につげ、雪に足跡をつける。
この勇者の轍が頂に続くと信じて……。






『雪剣の頂 勇者の轍』


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