死霊都市フアナ・ニクロは600年ごろ、狂える魔女フアナによって建てられた。当時ロング・ナリク領であったロータス低湿地帯を切り取って独立を宣言、沼地の底に沈む死霊都市を建立した(狂魔女フアナは「くさびらの森」に登場)。 ロング・ナリクとフアナ・ニクロの間に武力衝突はいっさいなく、女王となったフアナからいくばくかの金銭がロング・ナリクに渡され、ニクロ・フアナは領地を買い上げるかたちで独立を果たす。 譲渡がスムーズに行われた背景には、両者の思惑がかみ合っていたことが背景にある。ロータス低湿地帯(現死霊沼)はもともと死者の霊がさまよい、哨戒に人員を必要とする厄介な土地であった。ロング・ナリクはポロメイアとの国境に近いこの湿地帯を放置することもできず、毎年多額の管理費を支払ってきた。狂魔女フアナはそこに目をつけた。静かに暮らすことのできる土地として、ロータス低湿地帯はアンデッドにとってうってつけの土地といえた。いっぽう、ロング・ナリクにとっても、フアナ・ニクロはある面で歓迎できる隣人といえた。人間の領土に興味を持たず、ポロメイアと比べれば軍事的な脅威も小さい。二国間の緩衝地帯に目をつけたフアナの読みは当たっていたのである。 死者が埋まった沼地に建てられた、木材と葦でできた家が集まった集落。しかし、死者を住民として迎え入れることができるため、人口は年々増加している。
死霊都市は他種族との関わりをいっさい持たず、意思あるアンデッドと化した民を受け入れ、湖のごとき沼の底で静かに暮らしている。死せる者たちに時の流れは意味がなく、ただただ彼らにとって等しく意味のない「現在」が流れ続けるだけである。フアナ・ニクロに入ることを許されるのは、自我を失っていないアンデッドと呪術師、生きる希望を持たない難民とその子孫、よその都市に身をおけなくなったワケありの者たちだけである。 交易に関しては、限られた一族だけがこの都市と取引を続けている。一族はもともとこの沼地のそばに住んでいた者たちで、その関係は都市成立時から継続している。
アンデッドであるフアナとロング・ナリクの王族たちの交渉が速やかに行われた背景には、フアナがもともとロング・ナリク王家の出身だからだとウワサされている。神聖都市ナリクでは古くから、信仰心に問題のある(つまりはセルウェー教徒でない)王族を、王家から追放する働きかけが行われる。そうして追い出されたのがフアナであり、大釜の魔女フィニステラ(『100パラグラフゲームブック集1」収録「龍の王女と大釜の魔女」に登場)だという話だ。追放された魔法使いたちはもっとたくさん存在していて、彼らが荒野にとどまり、都市を滅ぼすことを胸に誓う「荒野の魔術師」となったというウワサもある。